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12.崩壊の序曲 ※フローラ視点

「ねぇロイー、いつになったらあたしを奥様にしてくれるのぉ?」


「ん……もうちょっと待てよ、フローラ」


アイリスが出て行ってからというもの、毎日これだ。フローラのことは愛しているが、いいかげんロイはうんざりしている。


「もうちょっと、もうちょっと、ってそればっかりぃ」


(フローラはかわいいけど、商会長夫人は務まらないよな。ま、今までみたいに適当にあしらってりゃいいだろ)


「そんなに急かすなよ…。ほら、結婚のお披露目、盛大にしたいだろ?それなりの客も呼びたいし」


「やぁん、ロイったらぁ、そんなにあたしのこと考えてくれてるの。だぁい好き」


「俺も大好きだよ、かわいいフローラ」


そう言いながら、フローラの好きそうなドレスやバックをプレゼントして機嫌をとるロイだった。




それでもしばらくすると、フローラの我慢も限界に近づいていた。君と結婚する、と言いながら、なぜか一向に行動しようとしないロイに、不満が積もり始めている。


「ちょっとあんた!あたし今、甘い紅茶が飲みたいのぉ。何なのよ、このしっぶいお茶は!」


「も、申し訳ございません、フローラ様。昨日は、食後に甘い紅茶など飲みたくないと仰せでしたので…」


「はあ?言い訳すんの?食事のメニュー見たらわかるでしょ?ったく、使えないメイドばっかりなんだから!!」


文句を言いながら、メイドに向かって紅茶をぶちまける。


「あんたなんか、ロイに言ってクビにしてもらうんだから!さっさと片付けなさいっ」


「ううっ、フローラ様……」




「メイド長、もう私たちやっていけません!」


「私は紅茶、この子はケーキをぶちまけられたんですよ?!食べたいというから持って行ったのに、遅いってキレられて」


控え室では、使用人たちの不満が爆発していた。皆、フローラの横暴に泣かされた者たちだ。


「まあまあ、みんな落ち着いて。奥様がお帰りになれば、よく取り計らってくださるはずだから」


メイド長はそう言って宥めるしかなかった。この屋敷で話ができるのはアイリスだけだったのに…とため息をつく。


「メイド長、奥様は本当にお戻りになるんですか?」


「なぜ?ご実家で療養されている、と旦那様がおっしゃっていたでしょう?」


「でも、奥様が裏門から出て行かれる姿を見た子がいるんですよ?それもボロボロの姿で。もう戻ってこられないのじゃ……」


「なんてことを言うの!」


慌てて口止めしたが、メイド長も本当はわかっている。アイリスはもう戻って来ないのだ。出奔の噂も知っていたし、どうやら離婚届を出したらしい、という話も漏れ聞いていたから。


(この先このお屋敷はどうなるのやら。身の振り方を考えないといけないわ)


その場にいる誰もが、似たり寄ったりのことを考えたのだった。




「んもう、ロイったらつまんない。このごろあんまりプレゼントもくれないし!」


メイドに紅茶をぶちまけたくらいでは気がおさまらず、フローラはひとり部屋で苛立ちを抑えきれずにいた。


いったいいつになったら、アバンドール商会長夫人として表舞台に立てるのだろう。パーティにも、お腹の子に悪いと一向に連れて行ってくれないし。


「そうだわぁ♡」


フローラは思いついた。ロイが連れて行ってくれないなら、自分から行けばいいのだ。明日もどこかのお屋敷でパーティがあるはず。


(そうと決まったら用意しましょ。うんと綺麗になって、ロイもお客さんたちも虜にしちゃうんだからぁ)


フローラは横柄にメイドを呼びつけると、上機嫌で準備をし始めたのだった。


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