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声にならないものたち  作者: 大学4年生ニート
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窓の向こうの小さな命

誰にも愛されず、声を出すことさえ許されなかった者たちがいる。

それでも、世界は静かに続いていく。

これは、そんな世界の片隅で出会った、ひとりの人間と一匹の犬の物語。

彼らは、互いの沈黙の中に、初めて“ぬくもり”を見つけた。

愛という言葉を、聞いたことはあっても感じたことがなかった。

望まれずに生まれた子ども。

母の視線はいつも冷たく、父は他人のように遠かった。

「いなければよかったのに」

その言葉を直接聞かなくても、空気が教えてくれた。

少年はいつの間にか、人を信じることをやめていた。


大人になっても、その習慣は変わらなかった。

誰かの笑顔を見ても、そこに優しさを感じることができない。

会社では挨拶も会話も形だけ。

心はずっと、透明な壁の向こう側にあった。


そんなある晩。

仕事帰り、アパート街を歩いていると、ひどく濁った声が耳に届いた。

「うるさい、黙れ!」

その直後、鈍い音がした。

反射的に視線を上げると、カーテンの隙間から漏れる光の中で、男の腕が振り下ろされていた。

そこにいたのは、小さな白い犬。

床に押し付けられ、身体を震わせながらも声を出せない。

女は泣き叫び、男は怒鳴り散らす。

部屋の奥に響くのは、何度も繰り返される「ドン」という音。


彼は立ち尽くしたまま、何もできなかった。

ただ、息が詰まるような感覚に襲われた。

――俺に、似てる。


次の日も、その次の日も、彼はその部屋の前を通った。

ガラス越しに見えるのは、変わらず怯えた犬の姿。

ソファの下に潜り込み、震えながら、人間の声が止むのを待っている。

助けたいと思うよりも先に、胸の奥から湧き上がるのは、重たい共鳴だった。

「俺も、誰にも助けてもらえなかった」

そう呟いた瞬間、心が音を立てて軋んだ。


それから数日後、雷の夜がやってきた。

雨が滝のように降り注ぎ、街灯の光が滲む。

彼がいつもの帰り道を歩いていると、道端にその犬がいた。

ガリガリに痩せ細り、泥まみれで、体のあちこちに傷がある。

それでも、彼を見上げるその瞳だけは、真っ直ぐだった。


光なんてない。

けれど、確かに「生きたい」と訴えていた。


彼は立ち止まり、息を呑んだ。

胸の奥に、ずっと冷たく沈んでいた何かが、ゆっくりと溶けていく。

気づけば、傘を投げ出していた。

「……来い」

掠れた声でそう言った。


その瞬間、犬は一歩、また一歩と近づいた。

震える足で、確かめるように。


こうして、孤独な人間と、孤独な犬の物語が始まった。

どちらも深く傷つき、誰にも愛されなかった。

けれど、この出会いが、少しずつ二人の世界を変えていく。


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