四年後・予選前夜
風が吹いていた。
あの日と同じ、神殿の丘の上。
だが、そこにいる少年たちは、もう“子ども”ではなかった。
カイは石段に腰を下ろし、夜の空を見上げていた。
空気は澄んでいて、星の瞬きがやけに近く見える。
ナギが、いつもの調子で声をかけてきた。
「なあ、眠れなかったのか?」
「お前こそ」
そう返すと、ナギは笑いながら隣に座る。
「ま、そりゃそうだ。四年だぜ? この日のために」
「……長かった?」
「長ぇよ。でも、あっという間でもあったな」
カイは黙ったまま、手のひらを空にかざした。
指先が、星の光に透ける。
「手、届くかな」
「届くようにするんだろ。明日、俺たちの番だ」
その言葉に、胸の奥が微かに震えた。
やがて、足音がした。
ロウとユウナが、神殿の坂を登ってきた。
「カイ、ナギ。やっぱり、ここにいると思った」
「お前らも眠れない口か」
「うん……なんか、目を閉じると、あの日のことばかり思い出して」
ユウナの声は穏やかだったが、その奥に緊張が滲んでいた。
「記録は準備万端だ。俺たちの予選初戦の映像も、言葉も、すべて残す」
ロウが、肩から下げた新型の記録装置を指で軽く叩いた。
「でも……明日、誰かが傷つくんだよな」
ユウナがぽつりと呟いた。
「それでも、戦うんだ。あの日、そう決めたろ」
ナギが言った。
「……うん。逃げないよ。今さら」
ユウナは静かに微笑む。
「アマツの子が、クギアンピックの予選に立つ。これって、島の歴史が動く瞬間だよね」
ロウが頷く。
「そうだ。だからこそ記録する。これは僕たちのためでもあり、“誰かの希望”になる」
カイは立ち上がり、神殿の奥へと歩き出す。
四年前に誓った場所へと、再び足を運ぶ。
そこには、あの時と変わらぬ石壁と、風の音だけがあった。
「始めよう。これは、あの日の続きだ。
俺たちの“挑戦”の、はじまりだ」
四人が並び立つ。
夜空の下、かつての夢が、現実になる時が来た。