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星律の子たち  作者: たゆたうよ
神殿の丘にて
5/29

語られぬ過去

夜が訪れ、神殿の丘には静寂が戻っていた。


灯りの少ない町の中で、ここだけは闇が深く、時間が止まったようだった。


カイたちは、神殿の奥にある小さな集会の間にいた。

古い木の扉が、音を立てて開く。

中から現れたのは、白髪を後ろで束ねた老人――老神官・ハコウだった。

「……来たか。クギアンピックを見たな?」


誰も返事はしなかった。ただ、老神官の前に並んで座った。

「では、語ってやろう。なぜ我らアマツが、“躯機クーギア”を禁じているのかをな」


ロウが静かに口を開く。

「お願いします。……僕たちは、それを知らずに夢を見てしまったんです」


老人はうなずき、ゆっくりと壁の一角に歩いていく。

そこには、苔むした石板と、褪せた壁画があった。

その壁画には、奇妙な紋様を背負った人物と、螺旋を描く装置のようなものが描かれていた。


「これは“律の装置”だ。古代アマツの民は、外骨ではなく“音と意志”で肉体を律した」

「かつて律を極めし者は、その波形が星と同調するものだったと伝わっておる。星の律――“星律因せいりついん”とも呼ばれたが、今ではその意味を知る者も少ない」

老神官の目が静かに光る。


「つまり……精神を、構造として設計した?」

ロウが息を呑む。


「そうだ。かつて、我々の祖先は“意志”を増幅することで、肉体を超えようとした。だが代償は……」

「……魂を削ること、ですか?」

カイの問いに、老神官はうなずいた。


剥がれかけたその絵には、明らかに“人間ではない”何かが描かれていた。

「これは、三百年前の記録だ。

我らがアマツの祖たちは、かつて“躯機”に手を染めていた。いや、むしろ、その始源にいたと言ってもいい」


「……え?」

ユウナが思わず声を漏らす。


老神官は淡々と続ける。

「当時のアマツは、今より遥かに進んだ技術を持っていた。だが、その技術は、己を壊す力にもなったのだ。

人は自分の限界を越えようとし、身体を削り、精神を焼き、やがて“人であること”を手放した」


ロウが問う。

「それで……滅んだんですか?」


「いや、我らは気づいた。技術の果てにあるのは、破滅だと。だから、“禁じた”。

技術ではなく、祈りと律動リゾンを残し、人としての在り方を選んだ。それが、この国の“選択”だ」


ナギが唇を噛む。

「じゃあ、今のあいつらは……“間違ってる”ってことですか?」


老神官は静かに首を横に振る。

「それは我が口から言うことではない。

ただ……お前たちがあれを“羨ましい”と思ったのなら、それもまた自然な心だ」


沈黙が流れる。


「知れ。誇れ。そして……迷え。お前たちは、アマツの子だ」


その言葉が、胸に深く刻まれた。


カイは、壁画の中に描かれた“異形の姿”から目を逸らさなかった。

その姿は、今のどの国の技術とも異なる“何か”を宿していた。


人に似て非なる骨格、空に浮かぶ紋様、そして背中から広がる環のような構造体。

カイはそれを見つめながら、心のどこかで“懐かしさ”にも似た感覚を覚えていた。

(……どうしてだろう。初めて見るはずなのに……)

(それでも……俺は、見たい。あの向こうを)


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