科学という現実
静寂が、降りた。
仮面の少女がゆっくりと背を向け、勝者として去っていく。相手選手は担架に乗せられ、動かない。
その映像が消えても、広場の誰一人として、すぐには言葉を発せなかった。
カイたちも同じだった。
スクリーンの光が頬を照らす中、四人は微動だにせず立ち尽くしていた。
「……怖いよね、あれ」
ぽつりと、ユウナが言った。
「何もしてないのに、倒れちゃうなんて……。見えないんだもん。攻撃も、苦しみも、なにが起きたのかも……」
誰も返さなかった。
ナギが歯を食いしばる音だけが、風の合間に聞こえた。
「でも、全部……科学なんだよね」
ユウナの目が、スクリーンの光を映して淡く光る。
「魔法とか、呪いとか、そういうのじゃない。どの技術も、誰かが作って、誰かが鍛えて、誰かが戦ってる。全部、“現実”なんだよね……」
その声には、どこか諦めにも似た静けさがあった。
ナギが、堪えきれずに叫ぶ。
「それがなんだよ! だからって、あれが“正しい”ってことか!?」
「正しいなんて、言ってないよ……」
ユウナの声は震えていた。でも、目は逸らさなかった。
「ただ、すごいと思ったの。怖いし、近づきたくないけど……でも、私たちが触れられないものに、みんな触れてる。あれが世界の“当たり前”なんだって、思っちゃった」
「そんなの……!」
ナギは言葉を失い、拳を握りしめる。
ロウが、静かに口を開いた。
「ユウナの言う通りだ。俺たちは、今、世界に置いていかれてる。アマツが“禁じた”ものを、世界は“進化”と呼んでる」
「禁じたのには、理由があるはずだろ……」
「あるさ。けど、それを信じるだけで、生き残れるとは限らない」
会話が噛み合わない。
けれど、それぞれの心に、小さなひびが入っていく。
カイは、一歩下がり、仲間たちの姿を見つめていた。
誰もが正しくて、誰もが揺れていた。
その姿が、まるで自分自身を映しているようで、胸が締めつけられる。
ユウナが、ぽつりとつぶやく。
「……もし、私たちがああいう技術を使えたら……何か、変わったのかな」
その言葉に、カイは無意識に答えていた。
「変わる。きっと、世界が見えるようになる。あの高い壁の向こうに」
自分でも、なぜそう言ったのかわからなかった。
ただ、目の前に広がる世界に、手を伸ばしたかった。