異質な技術たち
リュカ・ゼルファルドの圧倒的な一撃から、まだ興奮が残る観客席に、次なる映像が現れる。
《第2試合:バレム重工国 vs ザイア連合》
スクリーンの中央に歩み出たのは、重厚な金属の外骨格に包まれた巨体の戦士だった。
まるで機械の塊。顔さえも装甲で覆われ、感情はまるで見えない。
「……うわ……人間なのか、あれ……?」
ナギが息を飲む。
「バレム重工国の“装甲体躯”……。自律補助式の外骨格と、神経接続型の力覚制御で動く」
ロウが、低く呟いた。
「中に入ってる人間は、どんな感覚なんだろう……」
ユウナが小さく首をかしげた。
戦いが始まる。
バレムの選手は一歩踏み出すたび、地面が砕ける。大地が呻くような音が、観客席にまで届いた。
一瞬の助走からのタックル。その軌道上にいたザイア連合の戦士が、まるで紙切れのように吹き飛ばされる。
──ただの力ではない。そこにあったのは、無駄を削ぎ落とした計算と破壊のためのデザインだった。
それでも、選手は倒れなかった。
ザイアの戦士は、目の部分に精密な光学センサーを搭載したゴーグルを装着していた。
その目は、ただの“見る”という行為を超えていた。光、熱、動き……人の知覚を遥かに凌駕する情報が、そこには流れ込んでいた。
だが、彼の動きには機械らしいぎこちなさはなく、むしろ柔らかく、しなやかだった。
それはまるで、肉体の一部そのものが“装置”であるかのような、自然な融合だった。
そして、直前の軌道を予測し、ギリギリで体を捻った。
バレムが振り返る。
だがその時、背後からノクス教国の戦士が立ち上がる。
──第3試合:ノクス教国 vs スーリヤ連邦。
スクリーンが切り替わると、そこには小柄な少女が、仮面をつけて静かに立っていた。
「……あれ、女の子?」
ユウナの声に、誰も答えられなかった。
仮面の少女は、何もしていないように見えた。構えもなければ、動きもない。
だが次の瞬間、対戦相手の男が頭を押さえて絶叫し、そのまま膝をついた。
「な、何が……!?」
ナギが叫ぶ。
実況が告げる。
《ノクス教国、"呪合素核"による精神干渉に成功。対戦相手の精神制御機構を停止。勝者、ノクス》
「精神干渉……脳に……直接?」
「そんなの……反則だろ」
ナギの声が震えていた。
「でも、あれも“合法”なんだよ。ルールの中で成立してる」
ロウが俯いたまま言う。
「わたしたちの“常識”が、通じないんだね……この大会には」
ユウナが小さくつぶやいた。
ユウナの顔が青ざめる。
「意識に入り込んだんだ……あれが、“技術”?」
ロウは眉間に皺を寄せた。
カイは、ただ沈黙していた。
戦士たちは“身に着けている”のではない。
“生きるために変えている”。
その変化は、もはや道具ではなく、生き様であり、存在の在り方そのものだった。
(これが……この世界の進化の方向性……)
言葉にはならなかったが、カイの胸に焼きついた感覚だけが、確かにそこにあった。
肉体を超えた力。機械による破壊。思考そのものを封じる支配。
それらが、すべて「科学」だという現実。
(全部、本当に……人間が造ったものなのか……?)
視界が、揺れた気がした。
未知と恐怖と、そして──抗えぬほどの“魅力”に、心がざわついていた。