【第3話】俺の知らない敵がいる
「小隊長代理、ロンド! 出撃命令だ!」
号令が飛ぶたびに、腹の底が熱くなる。
たった一戦で俺の立場は変わった。
今や、十人編成の小隊――第五歩兵小隊を率いる、名ばかりとはいえ“指揮官”だ。
「槍兵、前進! 盾兵は右へ展開、馬の突撃を誘え!」
「了解、隊長ッ!」
……やばい。楽しい。
VRゲームと違ってマップもHUDもないけど、地形・陽の傾き・敵の動きを読むのは、ゲームでも何百回とやってきた。
俺は指示を飛ばし、部隊を丘のふもとに誘導した。
この地形、戦術は“グラヴァリ”でさんざんやったパターン――敵が丘の裏から回り込んでくるのも見えてる。
「くるぞ……突撃だ。全員、構えろ!」
ドォォンッ!
砲声とともに敵の騎兵が突っ込んでくる――が、こっちは迎撃の準備万端。
槍が並び、盾が構えられ、騎兵が次々と倒れていく。
「うぉぉぉぉ!! ロンド隊長、マジで全部当たってるッ!」
「落ち着け! ここからだ!」
勝利の流れを感じた瞬間、視界の端に――違和感。
「……なに、あれ」
森の陰から現れたのは、毛皮に身を包み、巨大な戦斧を担いだ異様な集団だった。
背は高く、武装は粗雑だが、動きに迷いがない。
それは――ゲームには存在しなかったユニットだ。
「原住民……か?」
違う。言葉も兵科も異質。
こっちの兵士たちも動揺している。
「隊長、あいつら……人じゃねぇ!」
間違いない。奴らは、この世界独自の“戦力”だ。
つまり、ここから先は――俺の知識が通用しない世界だ。
「全員、後退! 斜面を使って誘導! 隊列を崩すな! これは……ゲームじゃねぇ!」
初めて、心の底から叫んだ。
*
この世界には、俺の知らない戦場がある。
だが、それでも俺は――
「対応できる。絶対に、勝つ」
この世界で生き残るために。
そして、冴えない人生を“やり直す”ために。