1.出会い
頭の中にメロディーが流れてる。
昔聴いたことのある懐かしい曲
今は無い、はるか昔の古の世界の曲
それはここではない科学が発達していた世界の、懐かしい曲だった
どれ位の時間がたったのか
数時間なのか数日なのか、、
辺りは真っ暗で月の光だけが差し込んでいる
ここがどこだかわからない
適当に飛び出してきたから
何度かくる深い眠気に誘われながら意識が朦朧としている。
静かな場所だな。
そう思ったのだが人1人通らないのだから静かなのも当然だった。
お腹もすかないし喉も乾かない。
どこも痛くないし、痛いという感情もあったのだろうかと思えるほど身体との神経が切断されたかの如く動かないのだ。
風があるし音も聞こえる。
石畳で固められた道は冷たいように感じる
そこらじゅうに建っている家からは人の声がしない。静かだ。
世界から俺だけが取り残されてしまったようだった。
もしかしたら、このまま死ぬのかな。
そう過った思考に自分で失笑した。
死ぬのは少々、、いやかなり難しいと思う。
すでに俺は人ではない。
神話の時代と呼ばれるはるか昔、といっても500年ほど前の事だが、神々から力を授かり、光の女神と同調した俺
神々の駒としてこの世界を導き、神の信仰力を高めてこの世界を存続させる使命が与えられた
科学が発達したあの頃の世界で周りの大人は俺を道具扱いしてきた。
すぐに死んでしまう子供だった。研究する価値や道具としての価値はあっても、長く持つことは無いとわかっているから大切にはされなかった。
人間は欲深くて、残酷だ。それは何度も思った事だった。
それは今も同じ。世の中が変わっていっても、人は力ある者を怖がる。恐れる。排除したがる。
だけどそんな人間が俺は嫌いになれない。
俺は人間でもあったから
そして女神がヒトをスキだから
こんなふうに1人で考えることはいつぶりだろうか。
もう何年もずっと隣にはあいつがいるのが当たり前になってたことに気づいた。
なんで逃げてきちゃったんだろう。
俺が逃げたから女神様も怒っちゃって一時口も聞いてくれ無さそうだよ。
きっと怒ってるよね。
最後に見た時
あいつは凄く悲しそうな顔をしていた
動かない身体を床に横たわらせ、俺はそんなことを思い出していた。
こんな時に思い出すのは笑顔が良かったんだけどなぁ〜なんて考えてたら、
ジャリっと言う音が聞こえて、俺を照らしていた月の光が遮られる。
「‥‥‥だいぶ消耗してるな…」
そうつぶやきながら俺を見る男。
ぼんやりとした視界の中に男が写る。
「…だれ?」
黒髪で、先の方だけ金髪に染まっている男だった。
男は顔を歪ませて、カシカシと頭を掻く。
人がいたんだ、という安心感で少し気持ちが緩んだ。
男が何か言ってるけど、なんか考えるのも面倒になってきた。
とりあえず男の言うオーラというのものが魔力のことだと分かったので、当たりを見回した
あぁ、なるほど
静かに1人で考える時間が出来たのは俺を守るために女神が結界を貼ってくれていたからだったらしい
俺は心の中で呼びかけて、魔力を女神を身体に取り込んでいく
みるみるうちに俺の中に吸収されていくと、瞼が重くなる。
「は!????どうなってる!?」
なんか男が叫んでる。うるさい。
そろそろ寝かせてくれ。
このグエンという男に出会うことで、俺は人生をやり直すこととなるのだが、今の俺にそんなことは知る由もないく、眠気に苛まれてゆっくり目を閉じて深い眠りについた。
‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥
▽ グエン視点
正直、俺はそのバカでかい魔力に嫌気しか感じてなかったのだが、、
これは‥‥予想外過ぎた。
グエンはちょっと大きめの仕事があったため、1週間ほど家─事務所兼家なのだが─を空けていた。
俺はルーウェンの店という名の情報屋をしている
今では何でも屋になっているが……
もともと依頼はほとんどないので空けても支障はない
そんなわけで、仕事を終えてのんびりと帰宅路を歩んでいた。
もうすぐ帰宅〜と言ったところで何人かの集団が路地の1箇所に溜まっているのが見えた。
俺ぁそこを通らねーと帰れねーんだけどなぁ〜
と、その時は思った。段々近づいていくと、見知った顔が数名いて、家のことを頼んでもないのに片してくれるリオナもそこにいたのだった。
「リオナ?何やってんだこんな所で」
俺はリオナに話しかけると、リオナは目を輝かせて俺の方を見る。正直びっくりした。なんせこの馬鹿は俺のことをあまりよく思っていないのだ。いつもクズだの、見た目だけのダメ人間だの言ってくるのだ。
「グエン〜〜っ!!!いつもいつもは嫌だけど今日という今日はホントに感謝!帰ってくるの待ってたんだからぁーーーっ!」
と、泣きついてきたのだ。
そうして気づく、異様な気配に。
「こりゃまた、、すげぇオーラを出したやつが‥‥‥‥」
そうつぶやく。
あぁ、また誰かがオーラを暴走しちまってるんだな。
そう今までの経験から関連づけて考える。
それでもここまでデカく、真っ白なオーラを目の当たりにしたのは初めてだった。
「そうなのっ!ヒューリーがでたの!!どこで暴走したのかわからないけどこのすごいオーラでしょ?通れなくなっちゃって‥‥今日で丸1日通行止めなのよ」
そりゃそうだろうよ
こんなバカでけぇオーラ出されたら爆発しちまった時には周辺一帯荒地になるだろうからな
逆にリオナ達はなんで逃げねーでこんな所に野次馬のごとく群がってんだ
危ねぇな
心の中で野次馬根性逞しい大人たちに悪態をつきながらそっとオーラで作られた膜を触る。その瞬間、
「っ痛!!」
バチッッッ‼︎‼︎‼︎
という音を立てて電撃のようなモノが俺の体に走った。
こりゃ…オーラでてきた結界のようなもんだな…
「…政府が出てこないのはなんでだろうな。ここまででけぇ魔力感知できねぇはずはねぇよなぁ…」
そう思いながらもリオナに近付くまで、俺も気づかなかった。
俺は魔力を感知できる
この世界ではナンバーズ制度というものが制定されており、6歳になると選定を受け、オーラの量とスキルを鑑定される
一定以上のオーラや貴重なスキル持ちであれば魔力の使い方を学び世界に貢献するために政府に預けられる。
オーラやスキルが無い、もしくは少なければ一般人として政府に連れていかれることは無い。
基本的に6歳時に一定未満の魔力量であればオーラの増加やスキルか増えるなんてことは稀な為、そのような措置が取られている。
俺はそんな稀な待遇だった。
12歳頃から急に発言したスキル、魔力感知
魔力暴走を起こすことも無く、急に感知できるようになったのだ
魔力はそこまで増えなかったので暴走することが無かったのかもしれない
6歳以降に急な魔力の上昇、オーラをコントロール出来ずに周囲にオーラをぶっぱなす。それを魔力暴走と言う。
最終的には自我を保てなくなり、抑えられなくなったオーラにより自爆してしまう。
そういう奴等はヒューリーと呼ばれ民衆からは恐れられている。
と、まぁそんな魔力感知なんていうスキルを持った俺が気づかなかったということは、この魔力の結界には感知防止システムみたいなものが組み込まれているのかもしれない。
いや、まさか、な。
だいたい魔力暴走なんて起こしたら自我なんか吹っ飛んで爆発するのがオチだ。
それなのに感知防止なんざこまけぇスキルを混ぜ込むなんて器用なマネ出来るはずがない
一瞬よぎった考えを消し、俺は自分にオーラを纏わせて結界の中に入る。
後ろでリオナが何か叫んでいるが、聞こえない。なるほど、防音もしてるのか。
先程過ぎった意図的にスキルを行使して力を使っている可能性……
全然ありえなく無いかもしれねぇ
いや、でもヒューリーだったとしてそんな芸当が出来るのだろうか
今は暴走するオーラで自我を保つのに必死になってるはずだ
疑問を抱きながらも俺は中に進んでいく。と言っても見知ってる道なため俺はオーラの中心に向かって歩くだけなのだが。
道にはこのオーラにあてられて倒れている人もいた。意識がないだけで死んでいるわけではなさそうだ。
早く暴走を止めねぇとここら一体爆発して寝てる奴らも俺も死ぬな
中央に進むにつれて濃度はさらに濃くなっていた。しかも中心に向かっていくにつれてオーラの質が違うようで白だった膜が霧のように当たりを覆い隠していく。
まるで自分を守るかのように張り巡らされたバリアに俺は感心する。
居た。
何の嫌味なのか、俺の家の前でその原因はぐったりと座り込んでいた。というよりは階段に寝そべっている。
「だいぶ…消耗してるな…」
真っ白の珍しい服はボロボロになっており、ところどころ千切れたのか、なくなっているため細い手足があらわになっている。
いや、それよりも…
「真っ赤な、髪」
赤く染め上がった長い髪が真っ白な肌と触れ合って、まるで薔薇のように紅く咲いているようで、愚直にも綺麗だと思った。
「…だれ…」
見上げたその顔は18歳そこらに見える。
綺麗で整った人形のような顔をした少女だ。
真っ赤な赤い髪が映える真っ白な肌に、金色の目が真っ赤な炎のように燃え上がって見えた。
子供以外にもオーラの暴走ってあるんだな…
「ここ、俺の家なんだけどお前のオーラで入れなくて困ってんだよねぇ」
ヒューリーの排除もしくは保護、それが俺の仕事だ。保護できたことは今までに一回もない。
殆どの能力者は喋る事もできず、理性を失ってただ本能のままに、持て余した力をただ放出させているだけなのだが、こいつは違った。
ぐったりしてはいるが喋るし、理性も保ててるし、意識がある。
そう、それだ。
大抵のヒューリーはオーラを押さえきれずに途中で朽ち果てる。
リオナが言うにはこの凄まじいオーラは1日ずっとだしっぱなしだという。ぐったりはしている。なのにオーラ自体が消えることを知らない。
むしろ俺が中に入った後からはさらに濃く強くなっている気さえする。
まるで近寄るな、とでも言うように。
俺の額からは脂汗が出ていた。
正直立っているのも辛い。
「…オーラ…?」
呟くとキョロキョロと見渡す。
「なるほど……」
その人物がくすりと笑うと、たちまち放っていた凄まじい魔力がその青年に集まっていく。一瞬、オーラが俺をぐるっと回った。
「なっ!は!?ど、どうなってんだ!?」
わずか数秒。
あれほど気を張ってないと立っているのがやっとだった膨大なオーラが一瞬で消えた。というか本人へ戻った。
「…ごめん、、、ちょっと…眠い…」
立っていられるのもやっとだったオーラはあたりから消えうせ、俺は普通に呼吸ができるようになった。
気づかないうちに息を殺していたようだ。
「おいおい…暴走してたわけじゃねーっていうのかよ…」
確かに結界と言えるほどの完成度の高いものだったとはいえ、あんな馬鹿でかいオーラを完全に制御するには相当な精神力とコントロール能力が必要だ。こんな18そこそこの子供に、いや年齢は関係ない……関係ないが……な!!!???
消えていった魔力の流れに呆れるのをやめ、原因の根源に目をむけた時、真っ赤な髪の薔薇の少女はそこにはなかった。
真っ赤な髪は真っ白になっており、細くて長かった手足はぷにぷにとした可愛いらしいものへ、18歳くらいの体つきも、10歳くらいの身体へ縮み、中性的な顔立ちをした神秘的で人形のようだった顔は幼くも愛らしい、美少女の顔つきへ変貌していた。
「ど、どうなってるんだ、まじで」
こいつが起こした現象を受け入れるには、頭が追いつかない。
だが俺はその時、規格外のなにかが起こったことは確かに理解したのだ。
しかも、オーラが身体に戻る時、俺を1度品定めするかのようにぐるりと1周回った。その時オーラが俺に向かって笑ったように見えた、気がする。多分気の所為だと思いたい。
オーラが笑うとか、意味わかんねーすぎる…
「よっと」
俺は子供の姿になった少女を抱えた。
軽くてびっくりした。
この服、多分政府のもの、、だよな。
さっきの現象で全然目に入ってこなかったが、よく見ると服には血が着いており顔も血で少し汚れていた
この子自身には大きな怪我がある訳では無いみたいだが...
あーーーーなんかめんどくさい奴保護しようとしてるんじゃねーかな、俺
「グエンーー!」
振り向くと、青い髪の毛をポニーテールにしたリオナが走ってくるのが見えた。
あー…リオナになんて説明するかな…
そう思ってグエンはため息をついたのだった。
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