二.最も失敗した間諜
新しく入宮した妃は西域からの娘で、鳳のように魅惑的な瞳を持ち、一度流し目を送れば万人をも虜にする美しさ。その肌は雪のごとく白く、鮮やかな紅の肚兜(中国古代の女性用下着)をまとい、まさに絵に描いたような絶世の美女。このまま後宮に閉じ込めておくのは、あまりにももったいないほど。
その白雪のような肌が皇帝を引き寄せ、四日間も彼の寵愛を受けたため、雪妃の名を賜った。
……なぜ私が彼女の肚兜の色を知っているのか?それは今、私は壁際に身を伏せ、かつて私がこっそり開けた穴から覗き見ているからである。この覗き穴は私と小さな宦官が密かに開けたもので、ほぼすべての妃の寝所に設けてあり、その視線の先には必ず寝台があった。
「皇后娘娘、いかがでしょう?」
「うん、なかなかのものね。眼福だわ。」
「では、本題に入りましょう。」
その時ようやく気がついたが、後宮で最も年長の宦官、魏公公がすでに私の傍に立っていた。そして、手にした灯火を顔の側へ持ち上げると……
「ひぃぃっ!幽霊かっ!」
私は心臓が飛び出しそうになり、叫び声を上げた。
「失礼な!幽霊はそちらでしょう!」
胸を押さえながら息を整え、ぼやく。
「こんな真夜中に、驚かせるのはやめてほしいわ……心臓に悪い。」
「こんな大それたことをしておいて、今さら何をおっしゃる。」
「お褒めの言葉として受け取っておくわ。」
「誰も褒めておりません。」
さて、本題とは、新たに入宮した妃に後宮の掟を教えること。
「基本的に、陛下は後宮にはお戻りになられませんので、お仕えする必要はございません。それに、皇太后もすでに亡くなられておりますので、毎朝の拝謁も不要です。」
「では、皇后様には?」
「私はだいたい皆よりも遅く起きるから、待たせるのも悪いでしょう?私は気にしないわ。」
たいてい、私が早起きするのは覗き見をする時か、コオロギを捕まえる時くらいだが、ここでは黙っておこう。
「……では、機密については?」
「何のこと?」
「えっ?皇后様、今のを聞いていなかったのですか?」
「ええ、何か重要な言葉を口にした?」私はにっこり微笑む。「私は『主人公補正による選択的難聴』があるから、聞こえなかったとしても不思議はないわ。」
「なぜご自分を主人公だと?」
「だって、私は皇后よ?」
「皇后が主人公というのも妙な話です。普通は皇帝の方でしょう。」
「え?今、何か言った?」
「……とぼけないでください。」
そんな無言の視線を送られても困るのだけれど。
「そういえば、皇后様はどのような手を使ったのですか?陛下を七日間もお引き留めになった秘訣が気になります。」
「そ、それは……きっと、私をお好みになったのでしょう。」
まさか、「殴って気絶させた」とは言えないわよね……。
「私は祖国に伝わる秘技を使いましたが、せいぜい四日間が限界でした。もし皇后様に秘策があるなら、ぜひご教授願いたいです。」
「でも、陛下はもう私たちの元には戻ってこないわよ?教えたところで、意味がないでしょう。」
「ま、まさか!」
雪妃の驚愕の表情を見ながら、魏公公と私は頷いた。
「陛下は、同じ妃のもとへ二度と足を運ばれたことがありません。」
「そもそも、夜は後宮にはいらっしゃらないのです。」
「……では、機密については……?」
「何のこと?」
「い、いえ、何でもありません。」
「この事実こそ、最大の機密として報告するのが良いでしょうね。」
「皇后様、先ほどまで聞こえなかったのでは?」
「何の話かしら?」
「もう、おやめください……。」
その時、私はふと疑問を思い出した。
「ところで、なぜ貴女は処刑されなかったの?」
「処刑?」
「ご存じないの?陛下は暴君として知られ、貢ぎ物として献上された美女を躊躇なく殺してきたのよ。間諜や刺客を恐れているから。」
「なるほど……それで……」
「それで?」
「実は、私の兄が貴国の大将軍を訪ねていたのです。」
……大将軍は、私の父。今度、手紙で尋ねてみるとしましょう。