魔法の砂が落ち切るまで
そこで飲むお茶は心を癒してくれる。
そこの雑貨を買うと少しの幸運を恵んでもらえる。
そんな噂のある雑貨カフェがあった。
*
まるで男の気分を表したかのように空は曇天が覆い、瞬く間に雨粒が降り注いだ。男は汚れてしまったハンカチを握り締めながら、そのハンカチにつけられたタグを見直すと、ポケットにしまった。
噂の雑貨カフェは可愛らしい民家を改築したものだった。店名は「甘いお菓子」という女性向けの店だ。今日はあいにくの大雨のせいか店内には女店主であるヴィエネッタた一人だけ、暇そうにカウンターに座っているのが外から伺えた。
フードつきのトレンチコートはずぶ濡れで男の顔はよく見えない、瞬時したのちドアの部に手をかけて扉を開けた。
扉に取り付けられたベルが軽やかに鳴り、店内に響き渡る。
ヴィエネッタは慌てて姿勢を正してにこやかに挨拶をした。
「いらっしゃいませ」
ヴィエネッタはずぶ濡れのトレンチコートを入り口で脱ぐ男を見て驚いた。コートの中は軍服だったのだ。しかも襟元のマークを見るに魔法軍所属。
「……お茶をいっぱい」
「あ、はい」
ヴィエネッタは、男が気になりつつもお茶の用意をした。男は濡れたコートを脱ぐとひっくり返して、椅子にかける仕草からも整った顔立ちからしても上流階級のように見受けられた。
ヴィエネッタはどうしてこんな雑貨カフェに? 雨宿りかな? と疑問に思いながらも、お茶とおまけのクッキーを差し出した。
「ありがとう」
「いえ」
ヴィエネッタは経験のない出来事に落ち着かなかった。軍人がこんな雑貨カフェにくることは今までなかったのだ、そもそも男性が一人でこの店を訪れるのは稀で、きたとしてもお洒落な格好をした人だったり、恋人のプレゼントを探しにくる人が大半だ。
店主たるものお客さんのプライベートに関わらずべからずと思いつつも気になってチラチラ見てしまう。
雑貨は女性が好みそうなハンカチや袋、ぬいぐるみなど手作りの品ばかりなのだ。
軍にお世話になるような悪いこともしていない善良な市民だと思っていると。
「面白い店ですね」
唐突に話しかけられヴィエネッタは一瞬反応が遅れてしまった。
「あ、私の趣味で始めたお店なので。お恥ずかしいながら雑貨も手作り品なんです。雑貨だけだと売り上げがあれなので、ついでにカフェもというかんじで、今日はあいにくの雨でお客さんが少ないですが、いつもはお茶をしにお客様がいらっしゃるんですよ。まぁ、こういう仕事くらいしかできなくて」
「そうですか? ここは優しい魔力で溢れていますよ。素晴らしい能力だと思います」
「え、あ、ありがとうございます」
美味しそうにクッキーを食べ終えた男は優しい笑みを浮かべながらヴィエネッタを褒めるので、思わず頬を赤らめてしまった。
「今日は探し物を見にきただけだったんですが……」
「探し物?」
「半身極ってご存知ですか?」
「はんしんきょく? いいえ」
「そうですか」
男は少し寂しそうな顔をすると、窓の方を向いた。
ヴィエネッタもつられて窓を見ると雨は止んで、太陽の光が差し込み始めていた。
「あー雨が止んだみたいですね」
男はそういうと、席を立ちポケットからお金を出してカウンターに置いた。
「美味しかったです。ご馳走様」
「ありがとうございます」
男が店を出る瞬間、振り返った。
「あぁ、そうだ。また来てもいいですか?」
「え? えぇもちろん」
「ありがとう」
嬉しそうな笑顔と共に男は店を出て行った。軽やかなベルの音だけが響いた。
「な、なんだったんだろう?」
ヴィエネッタはびっくりしつつ片付けをした。しばらくするとまた外は雨が降り出し、今日はもうお客がくることはなかった。
*
夜、二階の自宅でくつろぎながらヴィエネッタは昼間の客が言ったことが忘れられずにいた。
「不思議な軍人さんだったなー。はんしんきょくって何だったんだろう?」
情報図書板というタブレットを取り出して調べることにした。動力源は魔力のタブレットに魔力を流し込みながら調べていくのだが、はんしんきょくと打ち込んでも出てこず。
魔法を付け加えたところ、ヒットした。
「展開!」
魔力を乗せて唱えれば、周りに情報が浮かび上がった。
まずは、半身極とはという内容で、生命の半身、別名:番と書かれている情報だった。
「へー初めて知ったわ。ってあの軍人さんの探し物って半身極? あいにくの雨で探せなかったのかしら」
情報をスライドしながら読んでいくと、軍人法という項目が出てきた。半身極という存在は魔力の底上げに適していて、片方が軍人であればもう片方も軍人へとすぐに慣れると書かれていた。
「こんな法律あったのかー知らなかった。でも、訓練も受けていな人間が軍人になっても仕方ないわよね。そもそも半身極って全員が持っているわけじゃないのね。とても特殊なケースかぁー。一緒にいると魔力が向上する仕組みは、まだ解明できていないと……へー2倍から3倍、人によってはそれ以上に跳ね上がる?! すごっ」
びっくりしつつも、ヴィエネッタはタブレットをしまった。
「そういえば、また来るって言ってたなー。意外に可愛い物好きかしら」
*
数日後、本当に軍人の男はやってきた。
「お茶を一杯ください」
たった一杯のお茶を飲みに。
それは一回ではなく、何度も……。女性客が多いから、彼は必然的に奥の席が定位置になった。流石に初日のような軍服ではなく、白いシャツにズボンという出で立ちだが、常連他の女性客からはかっこいい男性がみれると噂になっていた。
そしてとうとう常連の女性の一人、リアがテレパシーで聞いてきたのだった。
『ねぇ! 今日もパルムさん来てるわね!』
『パルムさん? もしかしてあの男性のこと?』
「え!! ごほん、失礼」
いきなり声を出して驚いたリアは慌てて取り繕いながらテレパシーに戻した。
『待って、知らないの?! てかヴィエネッタの彼氏じゃないの?!』
『違う違う、紅茶を気に入ってくれたみたいで来るようになっただけだよ! てかリアさんこそちゃっかり彼の名前きいてるんじゃない!』
『ネームプレートよ。彼軍人でしょ? 胸元に下げてるネックレス、あれネームプレートよ。こないだぶつかった時に見えたの』
「……」
思わずヴィエネッタの手が止まってしまった。注いでいたコーヒーが綺麗な波紋を浮かべながら困惑するヴィエネッタを映し出している。
『ファッションじゃない?』
『いいえ、あれは本物。昔軍人の彼氏がいたのよねー。絶対に肌身離さずつけなきゃ行けないんですって。でも気をつけてね。軍人嫌いの人もいるから』
『はぁ、そうね』
「そうだ! ヴィエネッタにプレゼントがあるんだ!」
唐突にリアはヴィエネッタに紙袋を手渡した。
「え? なに?」
中身を見るとなんとタイトルが”男を落とす方法”という本だった。
「は?! ちょっとリアさん?!」
「よく読んで勉強してね! じゃ! 今日もおいしかたわケーキ!!」
逃げるようにリアは席をたち、店をさって行った。
「もう!」
「くすくす、リアさんという方と仲が良いんですね」
「あぁ、彼女は常連で。よくおしゃべりしに来るんですよ」
「面白い本をプレゼントされましたね」
パルムの視線の先に気づき慌てて本を隠した。背表紙が見えていたのだ。
「あはは、ちょっと暴走しがちなのが玉に瑕で」
慌ててバックヤードに置きに行き戻ってくると、新しい客が来ていた。その人はパルムの横に座り話しかけていた。
あんなイケメンがいたら肉食系女子は飛びつくだろうと思いながら、注文を受けてコーヒーを作っていると、一瞬うっとうしいという感情が流れ込んできた。
「……気のせい?」
振り返れば楽しげに会話する二人。
でもその現象は度々増えて行った。パルムの気持ちなのだろうか? とヴィエネッタは思いつつも自分には関係ないことだとその先の思考に封をした。
新聞では近々隣国とぶつかりそうだとか、商人たちが取引を停止しているとかきな臭い噂が流れ始めているのもあり、ヴィエネッタはただ平穏に生きたいだけなのだと見ないフリをした。
それでも時々くるパルムを拒絶できるかというとできず。
(今日のお茶は甘い香りなのにさっぱりしているな)
「今日お茶はカシュという甘い茶葉を使用しているですよ」
「え?」
「? どうしました?」
「いえ、ありがとうございます」
「いえいえ」
店内に一人の時は思わずパルムが喋ってきたのかと思って返事をしてしまうこともあったのだが、ヴィエネッタは気付いていなかった。
もう常連とかしていたパルムは、雑貨カフェの居心地が良すぎたせいか、カウンターでうたた寝をしていた。ヴィエネッタは珍しいと思いながらも、曇ってきた外の様子を見て窓をしめた。
店内はちょうど他の客が帰ってしまい、二人っきりだ。
無防備に眠るパルムの様子に、思わず裏からブランケットを引っ張り出し肩にかけた。
「軍施設からは遠いでしょうに、いつもご利用ありがとうございます」
小声で普段言えないお礼を言いながら、ヴィエネッタは扉の看板をクローズに変えた。
いつまでも、この心地よい関係が続けばいいのにと思うほど、穏やかな日々が崩れそうな足音に怯えていた。 パルムの寝顔を見ながら、新たに紅茶を入れ、蒸らすために砂時計をひっくり返す。
「私、この雑貨カフェをずっと続けたいですよね。おばあちゃんになっても。町の落ち着けるお店として」
「……」
ヴィエネッタは誰かに聞かせるわけでもなく、客が置いて行った新聞を見ながら呟いた。開いていたページは人気俳優の公園情報だったが、その下には隣国との緊迫した状況が書かれていた。
「ずっと平和だと思っていたのに」
寝ていた彼は慌てて起き上がると、謝罪して珍しく雑貨を買って帰って行った。シンプルなハンカチ数枚と布袋を数枚。店を閉めさせてしまったからと言っていたが、それ以来彼は店を訪れなくなった。
「もう無理なのかな……」
この小さな町は平和だ。新聞の見出しとは打って変わって平和な毎日が続いている。不安を煽るタイトルと同時に、我が国の最強魔法軍という見出し。
「彼も戦っているんだろうか」
リアが持ってきた新聞に思わず呟いてしまった。
「そうでしょうね。……ねぇ、ヴィエネッタは彼に告白しなかったんだ?」
「え? 告白!?」
「結構、このカフェにきてた子たちは彼に告白してたよー」
「え、うそ」
「本当本当、カフェから出てからアタックしてた子いたんだからー。まぁ、みんな振られてたけどね〜」
「そ、そうなんだ」
「……ヴィエネッタは彼のことどう思ってたの?」
「どうってただの常連客よ」
「へー……常連客のためにお店閉めちゃうんだー」
「なにを」
「私前に見たんだよねー、ちょっと飲もうって思ったのにクローズになってるし、でもカウンターでのんびりお茶入れながら、寝てるパルムさん眺めてるヴィエネッタをー」
「え?!」
リアの言葉に思わず顔を赤らめてしまった。
「好きなら告白しちゃえばよかったのにー」
「だから、そうじゃないって」
「そうーおー?」
「そうよ」
「私は恋だと思うけどなー」
「えー?!」
「周りが焦ったく感じるほど、のんびりとした恋よねーヴィエネッタの恋って」
「そういうんじゃないって」
「はいはい」
リアの言葉のせいか、一瞬本当に彼のことが好きだったのだろうかとか、これが恋なの?! と焦るも。本で読んだ恋愛と全然違うから大丈夫と自分に言い聞かせ落ち着かせた。
*
数日後、嵐のようにふりしきる雨の日で、一応店は開けたがもしかしたら無駄かもと思い直していると扉のベルが鳴った。
「いらっしゃいませ…」
そこには、まるで初めてきた時と同じ格好のパルムが立っていた。
びしょ濡れの中、でも前回と違うのはフードだけあげた顔にアザがあり、頬にはガーゼが貼られていた。
「だ、大丈夫ですか?!」
「すいません、見苦しい姿で。治療済みですから。あの、紅茶を一杯お願いします」
「え?! わ、わかりました」
コートを脱いだパルムはぎこちない動作で椅子に座り紅茶を飲むとホッとした表情をした。
「あの、安静にしてなきゃいけないんじゃないんですか?」
詰襟の隙間から見えたのは包帯だ。結構ボロボロな様子に思わずヴィエネッタが声をかけると、困ったように微笑まれてしまった。
「あははは、ちょっとヘマをしてしまって肉弾戦しちゃったんですよね」
「えぇ?!」
「でもこの通り、無事ですから」
「それは、よかったですけど……」
そう話している間に、パルムのアザがスッと消えて行った。
「え、あざが……」
「あぁ……やっぱりヴィエネッタさんの紅茶は違いますね」
「……」
少し悲しげに言われた言葉にヴィエネッタは言葉をつまらせた。
なんとなく気づいていた。でも確証になることなんて一つもなく、自分の魔力量が変わるわけも能力が向上することもなかった。だから勘違いだと思っていたのだが。
「私……別に………………」
「えぇ、ヴィエネッタさんは普通の癒し魔法を使っただけですよ。私の魔法と相性がよくあざが消えただけです」
「……そ、そうなんですか?」
「えぇ、魔力向上もしていない。ただ俺の魔力の調子が少し良くなるだけなんです」
「……」
あまりにも綺麗な表情でいう姿に、ヴィエネッタはなんとなく嘘をついていると思ってしまった。いつも紅茶を飲んでほんの少し会話するだけの関係、それなのに今話す姿は全てを覆い隠すような表情と雰囲気だ。
「あの、今日はおやすみなんですか?」
「いえ……仕事の途中です」
変わらない表情に、ヴィエネッタはこれも嘘だと思った。
盗聴器付きの軍服、命令されてきたのだろう。
「どうして私の店に来たんですか?」
「……あなたが俺の半身極の可能性があったんです。でも違いました」
「それってどうやって証明するんですか?」
「完全に本人の主観と、能力テストですね」
「……私も少しだけ調べたんですけど、能力の引き揚げって私には何も上がっているようには思えないんです」
「えぇ、そうでしょう」
「…………あの、半身極じゃなくても、また飲みに来てくださいませんか?」
「よろこんで」
そういうと、パルムは店を後にした。
「なんだろう、ちょっとガッカリしちゃった………本当は私、彼の半身極じゃないかって期待してたのね」
わかっていたのに、どこかで期待していたことに気づいたヴィエネッタは苦笑しながら空になったカップを片付けた。
そしてなんとなしに半身極についてまた調べて読んでしまうのだった。どうして自分は彼の半身極じゃなかったのだろうかと……。いろいろ読んでいると、必ずしもこれが正解というものはないらしく、大多数がとか特殊例としては片方にだけ影響があったとかいろいろ出てきていた。
「変化の度合いって人によってまちまちなんだ……でも、魔力値が上がるっていうのは共通認識なのかな?」
いろいろ調べてると、危険な情報もあったりと一般魔法では知り得ない世界があるようだということはわかったが、逆に魔法特化で使う人々にはとても重要なことだということもわかった。
*
日に日に激化してく戦争に、とうとうこの街にまで攻撃が届くようになってしまった。
それは真夜中の皆が寝静まった夜。爆音と共に飛び起き外を見れば、燃え盛る炎と頭上に飛ぶ火魔法と水魔法。綺麗な防御魔法の陣が浮かび上がる星空の下、軍人たちが飛んでいた。
「魔法軍だ……」
地上では陸軍の人たちが消化活動と住民救助を行なっていた。そして大声で地下倉庫にがある家は隠れるようにと叫んでいた。
慌ててヴィエネッタは寝巻きの上から服を着込み、貴重品をかき集めて地下の倉庫に隠れた。外では爆音が響き、時々怒声や悲鳴が聞こえた。
「早く終わってよ」
地下倉庫にしまってあった商品のぬいぐるみを抱きしめながらヴィエネッタは音を止むことだけを願い続けた。魔法軍が来ているということはパルムも来ているのかもしれない。そう思うと先日のボロボロな姿を思い出し胸が苦しくなった。助けに来て欲しいけど、あんな姿の彼は見たくないと、我儘な思いが沸き起こった。
「だめ、怖いから変な想像するのよ。次に彼が来たら、疲労に効く紅茶を用意しよう。そうだ何がいいかな」
必死に別のことを考えて怖さを紛らわしながら音が止むのを待った。
どのくらい時間がたったのか、真っ暗な倉庫の中ではさっぱりわからず、おそるおそる地下倉庫から顔を出してみた。地下倉庫の扉は少し重かったが、開けたところ物が落ちて扉にぶつかっていた。
慎重に1階の店内を覗いてみると、窓ガラスは一部割れて、店内が砂埃で汚れていた。
道は破片が落ちているが、誰もまだ外には出ていないようで、人の姿は見当たらなかった。
「ど、どうしよう。どこに逃げればいいのかな」
大きく炎上していた方向には避難所としても使える学校があったはずだ、もしもそこが攻撃されていたらどこに逃げればいいのか。
恐る恐る窓に近づき頭上を見れば、まだ軍人たちが空を飛んでいた。
「助けに来るのを待ったほうがいいのかな?」
とりあえず食料もあつめて鞄に詰め、食欲はないが逃げるために体力が必要だと思いパンにかじりついた。
「どうしよう、いつもおいしいパンが美味しくないや」
震えながらすぐに地下室に逃げられる位置で様子を窺っていると、誰かが店内に入ってくる音がした。
ガラスを踏み締める音に、怯えながらゆっくりとヴィエネッタは地下室へと移動していると
「ヴィエネッタさん、ご無事ですか?」
「! パルムさん?!」
聴き覚えのある声に思わず飛び出せば、そこには煤だらけ軍服姿のパルムが立っていた。
「パルムさん!!」
「ヴィエネッタさん!! よかった無事で!」
思わず抱きついてしまったヴィエネッタだったが、今は知り合いに出会えたことで嬉しく恥ずかしさなど吹き飛んでいた。
「よかった。本当によかった」
「パルムさん!! この街はどうなっちゃうんですか?!」
「大丈夫です、敵軍は追い返しましたから」
「あ、パルムさんは怪我はないですか!? すいません。戦ってくれているパルムさんのことを考えず」
「いいんです。ヴィエネッタさんが無事であれば俺は……」
ギュッと抱きしめられ、ヴィエネッタは胸に広がる苦しさと安堵さに涙が溢れた。
「私、パルムさんのことが好きみたいです。あ、すいません、何言ってるんですかね、こんな状況で、すいません」
思わず口走った言葉にヴィエネッタは慌てた。怖さと嬉しさと、もうしかしたらもう会えないかもしれないおいう思いだけで、感情が先走ってしまった。
「いいんです。俺も貴方のことが好きなので、先に言われてしまい男として恥ずかしいですが」
「パルムさん」
パルムは嬉しそうに、そして悲しげにパルムは首元のバッチを引きちぎっって壊した。
「え、紋章!」
「これ、盗聴器なんですよ」
「え」
「筒抜けになってるのは恥ずかしいので、壊しちゃいました。ヴィエネッタさん、この戦争が終わったら俺と結婚してくれませんか?」
「私でよろしければ、喜んでというか、すぐにでもしてもいいですよ」
「ありがとうございますって、え?! すぐに?!」
驚くパルムにヴィエネッタは手を繋ぎながら言った。
「半身極でなくても、相性がいいと少しだけ魔力が向上するらしいですよ。魔法契約結婚っていうのをするんですよね。実はちょっと調べちゃいました」
「そ、それは。でもいいんですか? ヴィエネッタさんは、この雑貨カフェで」
「こんな状況ですしお店もぐちゃぐちゃですから。それでどうしますか? 未来の旦那さま」
「うっ……よろしくお願いします」