母の味
それはある日のこと。
父と僕が御飯を食べている時のことだ。
「今日の煮物美味しいね~~」
「鰹節と昆布に椎茸と煮干しを使ってるからな」
「味の相乗効果ね」
いや本当に美味しい。
いや本当に。
お母さんの料理が美味い。
訳では無い。
お父さんが作った料理だからだ。
お母さんではなく。
お父さんの料理なのだ。
お父さんが仕事をやめ専業主夫になってくれ本当に良かった。
そうでなければ死んでたろう。
僕らの心と身体が。
というかストレスと高血圧に結石などで。
「ねえ……」
「何だ?」
「何でお母さんの御飯は塩辛くて生臭いの?」
「火を通せば良いと思ってるからなアレは」
婦人会に行ってるお母さんの愚痴を言う僕。
それに対し神妙な顔で話すお父さん。
「あれでもマシになった方だぞ」
「ドコが?」
ジト目でお父さんを睨む僕。
「出汁を使うようになったろ」
「……」
僕は絶句した。
「今まで出汁使ってなかったのおおおおおおっ!」
「火を通して味をつければ良いんだと」
「それであの味……」
毒のように辛い味噌汁。
やたら醤油の匂いが強く生臭い魚の吸い物。
それらを思い出しゲンナリする。
「味音痴なのお母さん?」
「いや……普通」
「なのに何でクソ不味い御飯なの?」
「時間がないし面倒くさいからだと」
「……お父さんお願いだから今度からお母さんに御飯作らせないで」
「分かった」
お父さんが御飯を作れない時は自腹でオカズを買おうと決めた僕でした。
ええ。
数日後。
父が入院してお母さん御飯を作る羽目になりました。
不本意ながら。
「蜜柑の缶詰をカレーに入れたの全部食べてっ!」
「お母さんんんんっ! 自分で食わないうものを作って人に食わせるなあああああっ!」
「彩りを考えて作ったの」
「マトモに作れえええええええええええっ!」
他にもお母さんの味は有りますが一番を言えばアレです。
灯油入のぼた餅。
無理に食べて吐きました。(実話)