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第2節~承~ 第93話 死闘!太陽神の末裔その2

ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!


ではさっそく第93話、はじめます(*´ω`*)


 だが──。


 業火に包まれたアポロンの(ゆが)んだ表情がふたたび穏やかさを取り戻す。金の琴を左脇に抱え直し、左手の指で器用にして優雅に琴線を(はじ)き始める。


  挿絵(By みてみん)


 指先から生まれる旋律は、激しい戦場には似つかわしくないほどに澄み渡っていた。


 金琴の音色が空間に満ちていくにつれ、アポロンを包んでいた炎も消え去っていく。それだけではない。火炎による傷跡はもちろん、あらゆる傷跡までもが細胞レベルで再生していく。


 アポロンの回復スキル『一琴一鶴(イッキンイッカク)』の効果であった。


  挿絵(By みてみん)


 完全に治癒されたアポロンの姿に、勇希と翔也は思わず息を呑む。


  挿絵(By みてみん)


「極月翔也くん」

 アポロンはティータイムに紅茶を注ぐときのような、落ち着きくつろいだ口調で語りかけた。


「ポセイドンに勝利した男。戦闘能力は折り紙付き。そのとき使った『余炎(ヨエン)』『残り火(ノコリビ)』の強化版を新たなスキルで使うあたり、頭脳も明晰ですね」


  挿絵(By みてみん)


「四の五のうるせぇッ!」

 だまって聞いている翔也の傍らから、勇希が再びアポロンに殴り掛かる。


「おぉっと~」

 勇希の拳がアポロンの顔面を貫く寸前、金色の残像が舞う。アポロンは不意を突かれ驚いたものの、後方へバク転して勇希の攻撃を難なくかわした。


 アポロンは片手を地に突き立て倒立する。つづけざま右腕を折り曲げ、倒立したまま頭と両肩を地面につけた。


  挿絵(By みてみん)


 ──なんて体幹だ…。しかも、あの琴……形が自在に変わるのか…。

 翔也はアポロンの所作と不気味に変形する琴を冷静に分析していた。


 アポロンはそのまま話を続ける。


「さすが師匠と言いたいところですが、私との関係においては、あなたもせいぜい団栗の背比べ程度でしょう。ちなみに私はポセイドンに体術勝負で()()一度も負けたことはありませんよ、フフッ」


「なにッ!?」


  挿絵(By みてみん)


 ──あのポセイドンが……!? あいつは……かつて地上人類で最強だった男だぜ……。

 戦友の強さを知る者だけが覚える戦慄が、翔也の脊椎を駆け上がった。


「体術勝負は分が悪いな……」

「翔也さん、俺はまだまだイケますよ」

「勇希ッ、()()だ。()()をやるぞ」

「あれって……ラスボス戦まで温存しないんすか?」


  挿絵(By みてみん)


 ふたりの囁きを耳にしたアポロンはそれを遮るように口にした。


「クッ。()()()()()ものですね。まだ出し惜しみしているような口ぶり……なら、私もギアをひとつあげましょう、フフフッ」


 アポロンは右の掌を天へ向けながらスキルを唱える。


「『バンユウインリョク』」


 ボワボワッとアポロンの右の掌から黒炎が噴き出す。黒煙は次第に丸みを帯び、宇宙の闇を詰め込んだような禍々しい黒玉と化す。


  挿絵(By みてみん)


 表面に無数の小さな稲光を走らせる黒玉は、バチバチバチと電気音を響かせながら宙を舞っている。


  挿絵(By みてみん)


「何だ? てめぇ、俺と似たことしてんじゃねぇッ」


 気色ばむ勇希の傍らで翔也は警戒している。

 ──不気味だな……どんな力があるんだ?


 それでもやるしかないと決意を秘めた翔也は勇希に目配せする。


  挿絵(By みてみん)


「いくぞ、勇希ッ!」

「オッス」


「「『ハクトセキウ』ッ!」」


 翔也と勇希の叫び声が共鳴する。勇希の左手と翔也の右手が重なると黄や赤、オレンジの入り混じった眩い光が放たれる。


  挿絵(By みてみん)


「俺たちの連携コンボ、食らいやがれッ!『旭日昇天(キョクジツショウテン)』『日進月歩(ニッシンゲッポ)』ッ!」


 勇希のあとに、翔也もつづいた。「『気炎万丈(キエンバンジョウ)』『電光石火(デンコウセッカ)』ッ!」


 ふたり同時に唱えた『白兎赤烏(ハクトセキウ)』スキルによって、無数に生じる勇希の日玉と月玉が翔也の燃え立つような紅炎をまとう。


 ()()()ふたりは、それぞれ速度と攻撃力をアップさせるスキルもあわせたのだ。


  挿絵(By みてみん)


 無数の火炎玉はアポロンに向かい飛んでいく。それにとどまらず、ふたりは火炎玉を殴りまたは蹴ることで火炎玉の速度や軌道までも変えた。


 強烈な火炎玉が四方八方からアポロンに牙をむく。ふたりの格闘センスに訓練の成果が上乗せされた見事な連携であった。


 激しい攻防が再び始まる──。


「おらぁッ」「うおぉッ」「フハハハハッ」──。


 三つの影が交錯する度に爆炎がほとばしり、爆発音がフィールドに轟きわたる。


  挿絵(By みてみん)


 だが、決定打が出ない。


「くッ。やはりあのスキル……」

「黒玉の引力っすよね?」

「そうだな。軌道が微妙にズレたり、威力も弱まっているな……」

「こざかしいスキル使いやがってッ」


「なかなか興味深いコンボですよ……フハハハハハッ」


  挿絵(By みてみん)


「うぜえッ、その黒玉、先にぶっ壊してやらあッ」


 勇希が叫ぶ。

「『皆既月食(カイキゲッショク)』ッ!」


  挿絵(By みてみん)


 勇希は翔也の火炎をまとった月玉と日玉をアポロンとの直線上に配置させようとした。


 だが、月玉と日玉は、アポロンの黒玉に引き寄せられ、軌道を変えられてしまう。


「ちッ。これならどうだッ!『皆既日食(カイキニッショク)』ッ!」

 ──軌道を変える暇は与えねぇぜッ。


  挿絵(By みてみん)


 勇希が目の前の火炎日玉に右拳を打ち込むと、それが火炎月玉に激しく衝突し、ビリヤードのごとく弾き飛ばした。


「フンッ」

 アポロンはすぐさま自身の黒玉の上に飛び乗る。


 バゴンッ──。


 空間を削り取ったような衝撃波がアポロンの黒玉を貫き()()()()()大きな穴をあける。


  挿絵(By みてみん)


 だが──穴はすぐに修復されていった。


「ほぉ……やりますねぇ……以前なら穴すらあけられなかったでしょうに、フハハハハッツ」


  挿絵(By みてみん)


 アポロンの嘲笑が響きわたる。


「クソがッ」

 勇希が悪態をつく間にアポロンはふたりの視界から消えた。


「うぉッ」

 翔也の背後に突如現れたアポロンは翔也の右腕を軽く()()()()()()


  挿絵(By みてみん)


 そして、合気道のごとく、いとも簡単に翔也をうつ伏せに倒した。


「てめぇッ」

 勇希が殴り掛かるも、アポロンは再び金色の残像を残し姿を消す。


「逃げんじゃねぇッ」

 怒りに燃える勇希が吐き捨てるように叫ぶ。


  挿絵(By みてみん)


「逃げる?」

 アポロンは声を少し荒げる。


「なんと失礼な……私のスピードにあなたの視神経が追い付けていないだけですよ。そこまで言うなら足を止めて撃ち合いますか?」


  挿絵(By みてみん)


「望むところだッ」

 勇希は即座にアポロンとの間合いを詰めた。


 そのときだった──。


 アポロンが黒玉に向けて掌を広げつつ、スキルを唱える。


「『烈日赫々(レツジツカクカク)』『旭日昇天(キョクジツショウテン)』」


「なッ!?」

 アポロンが紡いだスキル名は、まさに勇希のスキルと同じ名であった。


  挿絵(By みてみん)


 聞きなれたその言葉が耳に届いた瞬間、驚愕に囚われた勇希の動き、思考は刹那止まってしまう。


  挿絵(By みてみん)


「ま、まずいッ」

 それに気づいた翔也は反射的に立ち上がりスキルを唱えた。


「『カチュウノクリ』『イスイメッカ』」


  挿絵(By みてみん)


 翔也は地面を足で蹴り、勇希に体当たりし数十メートルほど吹っ飛ばした。


 ──やはり……アポロンは太陽の使い手……。

 翔也は立ち位置が勇希と入れ替わった格好となる。


  挿絵(By みてみん)


 かなりの衝撃で勇希の方はすぐに起き上がることができない。


「あぁ残念……()()()()()()()葬り去る予定が狂いましたね……さすが、師匠といったところでしょうか、フフッ」


 アポロンの黒玉が真っ赤に染まり始まる。放たれる光が赤やオレンジに輝くとともに、黒玉自体は灼熱の太陽と化していく。


  挿絵(By みてみん)


「ぐああああああああああッ」

 翔也の断末魔がフィールドを揺るがした。






 ──少し時を遡る。


 ヘルメスの黒煙で洸たち一行は分断されたが、洸と久愛、そして紫水の三人は同じ場所に飛ばされていた。


「うぅ……こ、ここは……」

「……どこ?……地底じゃないの?」


  挿絵(By みてみん)


「洸さん、久愛さん、おそらくここは異次元のバトルフィールドっすね」

 紫水がふたりに応える。


 洸たちの眼前には、曇天の下、枯れた木々が立ち並ぶ薄気味悪い荒野が広がっていた。


  挿絵(By みてみん)


「そうそう。地底で諜報活動してただけあって、察しがいいね、文月紫水(ふづきしすい)


  挿絵(By みてみん)


「あッ」


  挿絵(By みてみん)


「さっきの……」

「……ヘルメス」


  挿絵(By みてみん)


 ヘルメスは杖を振るい、黒煙を巻き上げながら、まるで準備体操でもするかのように腕を回したり屈伸したりしている。コキコキと関節が鳴っていた。


  挿絵(By みてみん)


 そして、洸たちに問いかけた。


  挿絵(By みてみん)


「分断されたお前ら三人の相手が、俺ひとりであるわけが分かるか?」


最後までお読みくださりありがとうございます!ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております(*´ω`*)かなり励みになっています!


□語句スキル解説


一琴一鶴(イッキンイッカク)』※再掲

……一張りの琴と一羽の鶴だけを携行した役人がいた話から、旅支度が簡素であること、転じて清廉潔白な役人のことを意味する。ここでは清廉潔白な状態にする、つまり、敵のスキルを解き、回復させるスキル。


余焔(ヨエン)』『残り火(ノコリビ)』※再掲補足

……いずれも消えずに残る火を意味する。ここでは時間差で火炎攻撃をするスキルだが、ふたつ合わせることで消え残りを察知されにくくした上で、さらに火力をアップさせている。これらは翔也がポセイドン戦で使用したスキルで、これらの強化版として『|星火燎原《セイカリョウゲン』を使用した。


万有引力(バンユウインリョク)

……質量を持つ全ての物体間に働く引力のことを意味する。詳細は避けるが、ニュートンが発見した「万有引力の法則」が有名。ここでは強い引力をもつ黒い玉を出現させるアポロンのスキル。のちに太陽化させることができる。なので太陽と同等の引力をもち、アポロンは引力の強度を操作できる。


白兎赤烏(ハクトセキウ)

……時間のことを意味するが「白兎」は月に住んでいるとされる白い兎、すなわち月を指し「赤烏」は太陽の中に住んでいるとされている三本足の烏、すなわち日を指す。ここでは火炎をまとった太陽玉(日玉)と月玉を召喚するスキル。勇希は両玉を召喚する際、『金烏玉兎キンウギョクト)』を使っているが、翔也とコンボスキルを発動させる場合は「赤」の文字の入ったこちらを使う。


旭日昇天(キョクジツショウテン)』『日進月歩(ニッシンゲッポ)』※再掲補足

……月玉、日玉を召喚させているときに掛け合わせると威力と速度が増した無数の日玉、月玉による攻撃が可能となる。


電光石火(デンコウセッカ)

……本来、電光や火打石の火が光る時間の短さから「極めて短い時間」を差すが、転じて「行動が素早いこと」を意味する。ここでは、自身のスピードをアップさせるスキル。


※『気炎万丈(キエンバンジョウ)』『皆既日食(カイキニッショク)』『星火燎原(セイカリョウゲン)』については前話でも解説しているので割愛。


皆既月食(カイキゲッショク)』※再掲

……月、地球、太陽が一直線に並ぶときに起こる現象で、月が完全に地球に入る場合を「皆既月食」と呼ぶ。皆既日食の場合とは異なり、月が見えなくなるのではなく妖艶な赤銅色になる。ここでは勇希が太陽と月を模した光玉を操り、月、敵、太陽が一直線上に並ぶと、敵が透明の球体による攻撃をくらい体の一部がえぐり取られ穴が開く。攻撃が成功すると月玉が赤銅色に一瞬、輝く。


烈日赫々(レツジツカクカク)』『旭日昇天(キョクジツショウテン)』※再掲補足アポロンのスキルについて

……烈日は太陽の激しい光、赫々は光り輝くこと。太陽の光が激しく照りつける様子を意味する。ここでは、太陽を模した「日玉」を出現させるスキルとして勇希が使ってきた。単発でも攻撃可能であるし、その他にも用途のある幅広く使えるスキル。アポロンは太陽神の末裔らしく、太陽に関するスキルを使うのだが、このスキルによって既に召喚した黒玉を太陽と化すことができる。太陽と化した後、さらに威力をアップさせるのが『旭日昇天(キョクジツショウテン)』スキルである。


火中之栗(カチュウノクリ)

……他人のために自ら危険なことをすることを意味する。「火中の栗を拾う」という使い方が多い。語源としては中国の寓話で「猿におだてられた猫が、燃えている囲炉裏の中に入ってる栗を取ったが、猫は火傷をした上に栗は取られてしまった」という話から。ここでは翔也が最終決戦に向けて仲間の窮地を助けるために編み出したスキル。救う過程はイメージによりさまざまだが結果的に自身が身代わりとなるリスクを負う。ただし翔也は身代わりに死ぬつもりで編み出したわけではなく、最後まで大逆転勝利を狙っている。なので『イスイメッカ』スキルについては次話以降にて解説します。


以上です。今後ともよろしくお願い申し上げます(*´▽`*)


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