第2節~承~ 第92話 死闘!太陽神の末裔
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!
では早速第92話、はじめます(*´ω`*)
「ど、どうしてッ!?」
鉄壁の防御スキルのはずの大樹をすり抜けてくる黒い煙に、もっとも驚いたのは久愛であった。
──黒煙の攻撃力が上回っているってことなの……?
そのとき柊龍がスキルを唱える。
「『ウンサンムショウ』」
黒煙の発生源に向かって右拳を鋭く突き出すと、緑と黄緑の光が眩く輝き、その中心から竜巻が解き放たれる。空気を切り裂く旋風が竜巻と化し突き進む。
竜巻は周囲を明るく照らしながら、大樹の内壁にぶち当たった。
だが、黒煙は消えない。
紫水が柊龍に代わって口を開いた。
「柊龍の『雲散霧消』スキルに反応しないってことは攻撃スキルじゃないッ」
──あの竜巻に黒煙が全く反応しないとは……。俺のスキルにも反応しないし……。
紫水は『ケンモンカクチ』スキルを唱えていた。五感を研ぎ澄ましても黒煙の効果は分析できない。
「サポート系ってことか?」
「ブラフ?」
「でも無意味にこんなことしないだろう?」
「何かあるはずだ」
そのとき──。
「ハハハハハッ。そうそう。無意味なことなんてしない。攻撃力が皆無である上に、サポート系でもない黒煙だから安心しろッ」
大樹の外側から、幼さと威圧感の入り混じった声が、空気を歪ませるように響いた。
「だれだッ!?」
「黒煙ではっきり見えねぇ……」
「新手かッ!?」
アヤトが再び日本刀を構え、特訓で強化したスキル『一刀両断』を唱える。
バチバチと帯電した日本刀を、アヤトは黒煙に向け振り下ろした。
だが、黒煙は斬撃の影響を一切受けない。
「いったい何なんだ……この煙……」
──切れないものがないくらいの自信があったのにな……。
黒煙の勢いは衰えず大樹内に充満していくが、洸たちがそれぞれ放つスキルの明るさで敵の姿が垣間見えた。
大樹の外では青い肌の少年が宙に浮いていた。白や群青の入り混じった美麗な羽が背に広がり、静かに羽ばたいている。まとった白装束は金の装飾が施されているものの、どこか禍々しい。羽付き帽子の影が顔の上半分を覆い、不気味な光が瞳に宿る。右手にもつ杖先の中心からは黒い煙がもわもわと噴き出し、まるでありとあらゆるものを蝕んでいくかのようだった。
「まぁ、そう慌てるなよ。今からなぶり殺してやるからなッ 俺は旅の神の末裔、ヘルメス・メルヘ」
「あいつだな……」
「いったい何をする気だ!?」
「旅の神の末裔!?」
「ヘルメス・メルヘ……」
「って、ガキじゃねえかッ!?」
勇希が悪態をつく。
「ガキだとぉッ!? おまえッ 霜月勇希だな?」
少年が杖を振るうと黒煙が意志を持ったように動き始め、勇希にまとわりつく。
黒煙は勇希の全身を真っ黒に染め上げた。
「うおおおぉぉぉッ」
勇希の声がひびく。
「「「勇希ッ!」」」
「「勇希君ッ」」
「あとひとり、だれにするかな……」
少年は品定めするように洸たちを眺めている。
「まぁ、師弟ペアでいいか。師匠の前で死ぬ弟子、逆も然り、どっちになっても楽しめそうだしな……」
再び少年が杖を振るうと、今度は翔也に黒煙がまとわりつき、同様に身体を黒に染め上げていった。
「金髪はこの手で殺してやりたかったけど、アイツのご指名だから仕方ねぇ、アイツにまわしてやらあ、師弟そろってヤられてきやがれッ。フンッ」
「ぐおおおおおッ」
「「「翔也君ッ」」」
「「翔也さんッ」」
勇希につづき翔也のうめき声を聞いた洸たちは二人の名を必死に呼ぶも、甲斐なくふたりは姿を消した。
洸たちもなす術がないまま、黒煙に飲まれ消えていく──。
勇希と翔也は同じ場所に飛ばされていた。
まとわりついていた黒煙はゆっくりと消え、闇の帳が引かれるようにふたりの視界が開ける。
「ここは……」
「どうやら分断させられたようだな」
翔也は辺りを警戒するように見回し小声で勇希に語りかけた。
そこは、ところどころにマグマだまりのある洞窟のような場所であった。
「勇希、そこらのマグマ……」
「偽物っすね。近寄っても熱くないっす」
「異次元空間のバトルフィールドのようだな」
「『コウゲツセンリ』」
勇希が唱えると右手に月を模した玉──月玉が生じる。月玉を中心として辺りが照らされる。
「これ、敵の感知もできるっすよ、翔也さん」
「おぉ、いつのまにそんなスキルを……って早速お出ましだ」
翔也が頭上を見あげながら、右の人差し指で上方を指す。
ドスンッ──。
ふたりのすぐ後ろに金色に輝く者が降り立った。
勇希は振り向きざま、月玉ごと右拳を打ち込む。
だが金色に輝く者は瞬時に後方へ飛び退いた。
「フフッ。ご明察だねぇ~。ここは神殿内部の異次元空間。私と君たち以外だれもいませんよ~フフッ」
敵はアポロンであった。不敵な笑みをこぼしつつ仁王立ちしている。
「てめぇ……待ち遠しかったぜッ」
「私はもっと強くなってもらってから闘いたかったのですがね~霜月勇希君。物足らなさそうだったのでハンデとしてペアにしてもらったのですよ~師弟コンビというのはヘルメスの趣味ですがね……フフッ」
「て、てめぇ、なめやがってッ! どれほど強くなったか、思い知らせてやるッ」
「勇希ッ! 熱くなりすぎるな」
翔也が勇希をたしなめる。
「大丈夫っすよ! 翔也さん、俺、ハートは冷静っす」
勇希が右の拳で自身の胸を軽くたたいた。
「それならOKだ」
「オッス!」
ふたりはアポロンに対し身構える。
「私は、太陽神アポロンの末裔、アポロン・ロポア。冥途の土産にお見知りおきを」
「自己紹介などいらねえ、速攻で終わらせてやるッ!『皆既日食』!」
勇希は十八番の月玉を左手に、太陽を模した玉──日玉を右手に出現させ、月玉だけ軽く上方へ放り投げる。
「以前より強くなったと? 見たところデータ通りのようですが」
アポロンは瞬時に間合いを詰め月玉に近寄るや否や右足で蹴り上げた。
月玉が破裂するときに響いた爆発音を皮切りに、息つく暇もない激しい攻防が、爆発音を伴いながら小一時間ほど続く──。
「……ハァハァ……」
「ハァハァ……フー……」
息を切らす勇希と翔也。
「もう限界ですか? フフッ」
「まだまだぁッ! おらぁッ!」
勇希は無数の月玉、日玉を生じさせ、アポロンへ向け放ち、また拳を打ち込んで弾き飛ばした。
アポロンは次々に玉を殴り、蹴り、かわしていく。
ドゴンッと大きな爆発が起き、爆炎と煙で勇希とアポロンの視界が刹那悪くなった、そのとき──。
「『気炎万丈』『セイカリョウゲン』」
両拳に火炎をまとった翔也が間髪入れずアポロンに飛び掛かる。
だが、アポロンは、翔也が放つ左ジャブを左フックで素早く打ち払い、続けてくる翔也の右ストレートを後方へ体を反りながら右足で蹴り上げた。
翔也は衝撃で吹っ飛ばされる。
「うぐっ……マジですげぇ奴だ……だが……これで十分」
突如、翔也に触れたアポロンの左拳と右足から火炎が立ち上る。
「ぐああああああああああああああッ」
アポロンの顔が歪む。
アポロンの身体を貪るように火炎が広がり、一瞬にして彼の全身を紅蓮の業火が飲み込んだ。
最後までお読みくださりありがとうございます!ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。長編はだんだん読まれなくなるとよく聞いていましたが本当ですね。でも一人でも読んでくださる方がいらっしゃる限り完結までやりきります!!!今後ともよろしくお願い申し上げますm(_ _)m
□語句スキル解説
『雲散霧消』
……まるで雲や霧が消えてなくなるように全て消えてなくなることを意味する。ここでは風の使い手である長月柊龍が竜巻を起こし、敵のスキル効果を吹き飛ばして無にするスキル。
『見聞覚知』
……本来仏教用語で、六識(見ること「眼識」・聞くこと「耳識」・覚ること「鼻識」・「舌識」・「身識」・知ること「意識」を指す。ここでは紫の煙を充満させ、五感を研ぎ澄まし、敵の居場所やスキル効果を分析したりする文月紫水のスキル。
『一刀両断』
……一太刀で真っ二つに切ることを意味する。ここでは日本刀を出現させ、何でも真っ二つにすることができる神無月アヤトのスキル。特訓により以前よりかなり強化されているがヘルメスの黒煙には効かなかった。
『皓月千里』
……月の光が遠くのまで照らしている様子をあらわした言葉。「皓月」…明るく白い月、「千里」…とても長い距離のことを意味する。「皎月千里」とも書くが読みは同じ。ここでは月玉によって索敵やスキル攻撃を事前に感知する霜月勇希のスキル。
『皆既日食』
……太陽ー月ー地球が一直線に並んだときに太陽が月に隠れ、太陽が黒く欠けたように見える現象を『日食』といい、太陽がすべて月に隠れる場合を『皆既日食』と呼ぶ。ここでは『皆既月食』スキルとならんで、霜月勇希の十八番ともいうべき強力なスキル。太陽玉と月玉の延長線上にいる敵に攻撃をする。『皆既月食』と同様、並んだ時点で空間を削り取るタイプの攻撃も可能だが、速攻で太陽玉を打ち、ビリヤードのように月玉をはじき飛ばすタイプの攻撃も可能。
『気炎万丈』
……きわめて意気込みが盛んなことを意味する。「意気衝天」とほぼ同義。ここでは物心両面から攻撃力をアップさせるサポート系スキル。「意」の文字から葉月洸之介も使うスキルだが、AI暴走中第Ⅰ部より、「炎」の文字から、洸のみならず、極月翔也も使用してきたお馴染みのスキル。
『星火燎原』
……当初小さく弱かったものが成長し強大になり手に負えなくなることを意味する。ここでは火炎をまとった拳や脚で少し触れるだけで相手に火炎の大ダメージを与える極月翔也のスキル。かつてポセイドンにとどめを刺すときに使った『余焔』『残り火』スキルではなく、こちらを使った理由は次話にて。
※『余焔』『残り火』
……いずれも消えずに残る火を意味する。常用漢字だと「余炎」が正しい。ここでは時間差で火炎攻撃をするスキルだが、ふたつ合わせることで消え残りを察知されにくくした上で、さらに火力をアップさせている。
以上になります!
次話、果たしてアポロンはこのまま燃え尽きてくれるのか……!?……って……そんなわけありませんよね(;'∀')アポロンがどのようにこの状態から逃れるのか、またその後のバトルの行方は!? お楽しみに(*´▽`*)




