第1節~起~ 第89話 突貫工事・一気呵成
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!なろうやXでお声がけしてくださった方々、心より感謝申し上げます。
最終章第1節の~起~はこの89話で終わりです。では始めます!
「敵のボス、ゼウスと、あとは幹部クラス三名だけです」
「俺たちは敵と闘い、未来を変えるように言われてきたんだが、敵を全員倒さなければ未来は変わらないのか?」
「あ、未来の変え方ですね。極月翔也さんらしいご質問。実は……みなさんの世界だけでなく、私たちの世界の科学技術をもってしても未来を確実に変える方法は発見されていません」
「なッ!?」
「未来とは人類の数多ある選択の結果の積み重ね。時を巻き戻した場合、前の世界線とは異なる選択を積み重ねていくうちに未来が変わる可能性があります」
「……」
「異なる選択がなされた量だけでなく、選択内容の質も影響する、ということまでは分かっています。私たちは当初、皆さんが敵を倒していく過程で未来が変わることを期待していました……」
「ってことは……まだ未来は……」
「そう、少なくともゼウスが計画した人類一掃計画が再び実行される未来はまだ変わっていない……可能性が極めて高い……」
ゆっくり目を閉じた翔也が少し残念そうに言葉を漏らした。
「そうか……確実に未来を変えたければ全員倒して計画を阻止するしかないってことか……」
「そうです。ゼウスを倒せば間違いなく計画は止められます。ただゼウスだけを倒すのは難しい……幹部クラスも倒していかなければゼウスにはたどりつけないでしょう」
勇希が頬杖をついたままボソッとつぶやく。
「あの黄色いのも幹部の一人なんだろうな……」
「黄色? あぁ、戦場に来ていましたね。アポロン・ロポアです」
「名前は分かんねぇけど……逃げたのは黄色いのひとりだった。アポロン・ロポアっていうんだな、アイツ……覚えておくぜ」
「霜月勇希くん、現状だと撤退してもらってよかったと言わざるを得ません。彼は敵陣営のNo2だと思っていいでしょう」
「ボスの次に強いってことか?」
「はい……敵の大将、ゼウスの右腕です」
「アイツ、No.2だったのかッ」
「マジか……」
「……」
アポロンと対峙した勇希、紫水、柊龍は顔を見合わせた。
「まだ彼らとの力の差はあります。でも大丈夫。皆さんはすでにアポロン級の敵も倒しています。特にアテナとディオを倒せたことには驚きました……ただ……現状ではこちらも無事では済みませんでした……」
「まだまだ強くならなきゃいけないってことだよね……?」
洸がヘラに問いかける。
「……そう。みなさんにはさらに成長してもらいたいのです。もうこのバトルの第三の要素にも気づいていますよね? 私たちが思うより、皆さんの成長は早い。これは私たちにとって嬉しい誤算なのです」
──第三の要素……。夢の中でヘラさんが言ってたよね……。
洸だけでなく、みなバトルの第三の要素については誰にも相談することなく自身で考え続けていた。
──教えてもらってはダメ、自分の力でたどりつけ、ってことだったから、みんな口にしてこなかったんだよね……。
皆が口に出すのをためらっている中、アヤトが率直に口火を切った。
「第三の要素って、もう話してもいいのか?」
「もう答え合わせをしなくても、みなさん、お分かりかと……」
「意思の強さ……だよな?」
「僕もそうだと感じてた」
「私も同じ……」
アヤトの答えに洸と久愛が続けると、他のメンバーもみな頷く。
「そうです。皆さんは頭脳も明晰。意志の強さと成長の速さの相乗効果で、私たちの予想をはるかに上回る戦士になってくれました」
「…………」
「梅佳さんも、葵大くんも、第三の要素に気づいていたからこそ格上の敵を撃破できたのでしょう。でも私たちは相打ちを良しとは考えていません」
「もっと強くなるしかないってことですよね……」
久愛が言うと、美伊も口を開く。
「猛特訓ですね……」
「そうだ、ゼロスさんは? 最近会ってない……」
洸がヘラに尋ねた。
「ゼロスは今、表舞台に立たせません」
「!?!?!?」
「というより……表舞台に立つことができないといった方がいいでしょうね。そう遠くないうちにすべてお話する日がくるでしょうから、少し待ってください」
「…………」
「あと、この部屋と同じ部屋を皆さんにプレゼントします。洸さんと久愛さんのご自宅の地下につくりましたよ」
「僕の家の地下に?」
「もうつくったの!? 地下!?」
「はい、しばらくの間、この部屋を活用しながら特訓に励んでほしいのです。部屋の詳細は、明日、ナインスから実際の地下室で説明させていただきます」
「こんなすごい部屋が……」
「もうやるしかねえよな」
「そうっすね、俺ガンガン鍛えますよ」
「ヘラさん、ありがとうございます」
「どういたしまして。では、私は、この後、萌莉さんとカリンさんとお話をして、地底に戻りますね」
翌日──。
洸と久愛の自宅──葉月邸と皐月邸の地下に造られた異次元の地下室に皆が集まった。
「うわぁ、すごいすごい。夢の中の部屋と全く同じだわ……」
久愛が目をキラキラ輝かせて部屋を見回している。
「うん、マジですごいッ」
「夢の中じゃ動き回れなかったからな」
「すげー」
「必要な設備も何でもそろってる感じ」
「いやぁ何より、このクオリティの地下室を半日、いや数時間でつくれるのがすげえ」
「しかも遠隔操作でつくったんだよね。地底世界の技術ってヤバいな」
「レベチだね」
「たしかに」
「うむ……」
そのとき、昨夜と同様、部屋の中央にあるテーブルの上に突如、光の粒子でできた蝶の3Dホログラムが幾匹も飛び交い始める。
「「えッ!?」」
「ヘラさん!?」
「ちがうッ」
「「「ん?」」」
光の粒子がテーブルの上で収束していくと頭、胴体、腕、足の順に、白い犬の着ぐるみを着た小さな人形が形作られるや否や、リズミカルに踊り始めた。
「皆の者ぉ~気遣いは無用じゃ~苦しゅうない~でごじゃる」
「「あー」」
「「おぉ」」
「ナインスッ!」
「ナインス君!」
「ちっさ!!!」
かつて地上に訪れた時と同じ、白い犬の着ぐるみをまとったヒト型のナインスが、夢の中のヘラと同様、精巧な3Dホログラムで映し出された。
「おいらがつくった異次元の地下室、いかがでごじゃる? これは夢じゃなく現実でごじゃるよ~」
「もう最高よ、ナインス君!」
「うんうん、めちゃくちゃいいね」
「この時代の地上では造れない部屋でごじゃるッ! 突貫工事で一気呵成に仕上げたでごじゃるッ!」
ドヤ顔のナインスが踊りをやめてピタと制止する。
「作戦会議に使えるメインルームには最先端の機器も置いてあるし、トレーニングルームは異次元空間の性質を最大限活用してるので、広さや環境まで自由に設定できるでごじゃる」
「広さや環境まで!?」
「そうでごじゃる。それから、レスティングルームにはくつろげる癒しのアイテムも揃えたし、睡眠が取れるだけでなく、ケガの回復もできる最新ベッドも用意したでごじゃる」
「回復機能つきのベッドだって!?」
「ふむ。この施設を最大限活用して強くなってほしいでごじゃる……ふたりの死を無駄にしないためにも……」
ナインスは先ほどまでと打って変わってしんみりと視線を下へ落とした。
皆の表情も一瞬くすんだが、それを察した久愛はすぐさま明るい声で答える。
「うんうん、ナインスくんの言う通り、強くなるしかない」
──ナインス君なりに心配してくれてるんだよね……。
「そうですよね……」
──さすが、久愛さん……。私ももっと強くならなきゃ……。もうあんな思い、二度としたくない……。
「だね」
「そうだな」
「うんうん」
「うむ」
「それではおいらはこれにて……さらばでごじゃる」
皆が挨拶をする前にナインスはそそくさと消え去った。
その後──。
洸たちは地下ルームを活用し、いっそう特訓に励む毎日を過ごす。
そして、敵襲のないまま一か月余りが過ぎ、地上は夏を迎えようとしていた。
最終章 第1節 ~ 起 ~ おわり
最後までお読みくださりありがとうございます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。かなり励みになっています。今後ともよろしくお願い申し上げます。
スキル解説はありませんが、語句解説をひとつだけ記載します。
一気呵成
……いっきに仕事を仕上げること。
以上です。
次話から最終章第2節~承~となります。最終決戦へ向けた洸たちの成長をお楽しみに(´▽`*)
※GW中の次話更新が厳しそうです(-_-;)すみません。5月中にあと二話更新するのが目標です。




