#9 第8話 弥生梅佳(やよいうめか)
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果たしてバスケットボール大会の行方は?
では第8話始めます!
「カリン、更衣室へ行くぞよ、はやく荷物をまとめるのじゃ、今日は大会が終わったら下校じゃ」
「そ、そうなのにゃ!?」
「行くぞよ!」
カリンが荷物をまとめ終わるのを見届けるや否や、梅佳はカリンの手を引き、体育館の隣にある更衣室へと急ぐ。
着替えて体育館に着くと6クラスが振り分けられたトーナメント表が貼りだされてあった。
準備運動を始める生徒たち。カリンはストレッチからしてぎこちない。梅佳はすでにバスケットボールを持ってウォーミングアップをしている。
第1試合が開始されるとカリンのクラスは圧倒的な強さを発揮する。登校してからずっと梅佳に気を取られていたカリンは初めて他のクラスメイトを目で追った。
──紫の人、黄色の人、緑の人がすごいにゃ……ピンクの人も女子なのにうまいにゃ……。でも、やっぱりウメたんが一番ウマいにゃ……。
カリンはまだ名前を知らない梅佳以外のクラスメイトのことは髪の毛の色であだ名をつけて呼んだ。
梅佳はパワー、スピード、技術すべての面で、男子すら圧倒し、得点を取りまくる。ゴール下にすばやくドリブルで切れ込んでダンクを決めたかと思えば、ゴール下を固めた相手クラスの守備をあざ笑うかのようにスリーポイントシュートを決める。自分に複数のマークが集まると味方メンバーを上手に活かして得点につなげる──梅佳の可憐にして豪快なプレーに皆、釘付けになっていた。
カリンも試合に出るが、ルールも良く分からず、ボールを受け取ったらすぐに近くの味方にパスを出す。ゴール前でも味方にパスを出す。そうやってなんとか無難に切り抜けた。
クラス対抗戦は誰が出ても良いルールなのだが、どのクラスも自然とバスケが上手い者の出場時間が増えていき、大会も後半になるにつれて白熱した。カリンたちのクラスも多少の苦戦を強いられたが、梅佳たちの活躍で決勝まで勝ち進んだ。
「ふぅ、さすがのわらわも疲れてきたのぉ」
梅佳は赤いタオルで汗を拭きながら、インターバルにカリンのもとへやってきた。
「ウメたん、すごいにゃ。かっこいいにゃ!」
「わらわが出たら楽勝じゃ。優勝で間違いないわ。カリン、応援を頼むぞよ」
「はいにゃ、ウメたんがんば」
カリンは梅佳のプレーを見て気持ちが昂り、応援にますます熱が入る。
ピィ──。
試合終了のホイッスルが鳴るとともにクラスメイトの歓声が沸き起こる。
「やったぁ! ウメたん!」
「カリン、優勝じゃ」
クラスメイト達も優勝の立役者である梅佳たちのもとへ歓声を上げながら駆け寄ってきた。
「やったね」「みんなうまいね」「ほんと、すっごい」「おつかれ!」
こうして入学2日目のクラス対抗バスケットボール大会も無事に終了した。
「ウメたん、いっしょに帰ろう!」
大会の興奮冷めやらぬうちにカリンは梅佳に声をかけた。いつの間にか、カリンの胸は弾み、表情も明るくなっていた。昨日や今朝の忌まわしい出来事を束の間忘れられるほどに。
「お、おう。そうじゃな。そなたと下校するのもよいな」
「あっ!」
「ど、どうした?」
「ダメにゃ」
「なにがじゃ?」
「いっしょに帰られないにゃ」
「どうしてじゃ?」
「先生のとこに行かないと」
「何かあるのじゃな」
「すぐ終わるって言われたけど、何か知らないにゃ」
「なら校門のところで待っておるから、行ってくるのじゃ」
「待っててくれるのにゃ。うれしいにゃ」
「く、くるしゅうない。今日は特に予定もないからのぉ」
更衣室から職員室に向かって小走りでかけていくカリン。その後ろ姿を見送りながら梅佳は校門を出て、そばにある桜の木の下でスマホ(紙くらいの薄さの端末)を出した。
カリンは職員室の入り口でお辞儀をして3歩ほど入ってから英語教師の伊集院白夜に声をかけた。
「伊集院せんせぇ、カリン来ました……(にゃ)」
「カリンさん、向かいの部屋に入って待っていてください」
白夜はそういいながら席をおもむろに立った。
「は、はい……(にゃ)」
カリンは言われるがまま職員室を出て、向かいの部屋に入っていく。すぐに白夜も入ってきた。
「カリンさん、そこに座ってくださいね」
「はい……(にゃ)」
カリンが座ると、白夜もとなりに座り、カリンの方を向いた。
「カリンさん、今日の授業はどうでしたか?」
「あ、はい。あたしには難しい、というか……がんばります……(にゃ)」
「そうですか、でも、もうがんばる必要はありませんよ」
「えっ!? ど、どうしてにゃ?」
カリンは白夜の言葉に驚くあまり、押し殺していた「にゃ」をつけて発言してしまった。
「……すぐ……わかりますわ、クククッ」
白夜はそういうとガバッと突然立ち上がった。みるみるうちに顔色が青く染まっていく。同時に左右の頬にタトゥーのような紋章が浮かび上がる……。
「にゃっ」
──今朝と同じにゃ……。
カリンは立ち上がって逃げようと思ったが、足がすくんで立ち上がれない。
「私は伊集院白夜というAI教師の体を乗っ取った、セレネ・レセ。『能力を与えられし者たち』である貴方を殺すためにここへ呼んだのよ。だから、もう勉強なんてしなくて良くてよ。サクッとやってあげる」
──や、やばいにゃ、に、逃げにゃいと……。
カリンは椅子から転げるようになんとか立ち上がり、部屋の出入り口に向けて駆けだした。ドアに手をかけるカリン。
──あ、開かないにゃ。
ドアをどんどんと叩く。
「だれかぁ、助けてにゃ──」
「むだよ、だれも助けに来ないわ。他の教師たちは会議だし、この部屋は私のスキルで音がいっさい漏れないのよ」
カリンが窮地に陥る少し前──梅佳は自身の端末を開いて異変に気付く。
この時代の生徒管理は完全にIT化されていて、出欠から遅刻、早退などはもちろん、登校、下校まですべて学校のシステムが管理し把握している。生徒たちも自身の端末で、友人の誰がまだ学校にいるのかまで分かるのだ。
「はて? カリンも下校したことになっておる。システムの不具合か。カリンは職員室に向かったはず……虫の知らせか。ヤな予感がするのぉ」
胸騒ぎを覚えた梅佳の足は自然と職員室の方へ向かった。
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