第1節~起~ 第88話 正夢・白昼夢、再び
更新が遅くなって申し訳ないです。
詳しくは活動報告に書きますが高熱で仕事もお休みせざるを得ない日々を三週間ほど過ごしておりました。半年前にも人生初の肺炎を患い、この短期間で二度も長期の体調不良で仕事まで休むという情けない状況でした。
早速ですが、最終章の第1節にあたる第88話をはじめたいと思います。
地底世界──。
銀色の短髪で全身黒いスーツをまとったゼロスと、空色の長髪に紺色のリボン、淡い空色のドレスを身にまとった猫耳少女姿のファーストこと、ヘラ・ラヘが、地底世界の空に設置した異次元空間でアテナ戦の顛末を見守っていた。
彼らレジスタンスメンバーは、既にナインスをあわせて三名となっていた。
地上の能力者たちがアテナを無事倒せたことに安堵する一方、梅佳だけでなく葵大まで失った洸たち一同のことを案じている。
「みんな落ち込んでるよね……」
ヘラが悲しげな表情で遠くを見つめている。
「またみんなに会いにいかなきゃ……」
となりで膝を抱えて座っているゼロスも静かに口を開く。
「僕も会いに行きたいんだけどね……」
「それは仕方ないわ。ゼロス、あなたはここから動けない……」
「……」
「だから私が行ってくる」
「うん……」
ゼロスがヘラの方を向いて、微笑を浮かべながらねぎらう。
「以前、ヘラが彼らにしたアドバイス、かなり功を奏してるよね」
「いえ、あの子たちがすごいのよ、成長の速さ、意志の強さ……これは嬉しい誤算……」
「……だね」
「じゃぁ、行ってくる」
ヘラの顔の前で、人差し指が白く光る。
「『正夢』『白昼夢』」
ヘラが唱えると同じ人差し指からカラフルな光がこぼれ始め、収束した強い光がハートマークを描く。
ハートマークが完成するや否や、白光はヘラの全身を包み込み、ヘラは姿を消した。
「よろしくね。いってらっしゃい」
──ヘラ……今回は実体ごと行ったのだね……。
以前と異なり、ヘラがスキル効果を強化させて地上へ旅立ったことにゼロスは少し驚いたものの、再び物憂げな表情で遠くを見つめた。
ゼロスがおもむろに指で印を組むと、激しい光が幾重にも生じる。光が収束して一筋の光になると、S字に波打ち、設置されていた異次元空間ごとゼロスは消えた。
地上──。
勇希、紫水、柊龍がアテナを倒した頃、洸、アヤト、翔也は、梅佳とカリンの救援に向かっていた。
三人はカリンの誕生日会をしていたお店「神甘味処」のあるビルに到着する。エレベーターを降りた矢先、翔也が驚いて声をあげた。
「おぉっと、フロア全体をフィールドにしてるのかっ!? 神甘味処ってどこだ?」
「目の前のそこっすよ」
前方を指さすアヤトと翔也は足早に店内に入ろうとする。
「ふたりとも待ってッ!」
洸はスキルを唱える。
「『飛耳長目』『鳳凰銜書』」
洸の掌から生じた青紫色の光はすぐさま小さな鳳凰の姿を象る。バサバサっと羽ばたいた鳳凰は、洸の掌から店内へと飛び立っていった。
洸の端末に鳳凰の瞳がとらえた店内の状況が映し出される。
「カリンちゃんが倒れてるッ! 他は誰もいない……」
「どういうことだ?」
「梅佳も敵もいないだって?」
そう言いながら、三人は店内に飛び込むように入っていった。
「カリンちゃんッ」
洸が真っ先にカリンの傍に駆け寄る。アヤトと翔也は念のため周囲を見渡してからカリンの傍へ歩み寄ると、カリンが静かに意識を取りもどす。
「ん……」
「カリンちゃんッ!? 良かった! 意識はあるッ! カリンちゃん、大丈夫!? 梅佳ちゃんは?」
カリンは、ハッと何か思い出したような表情をした後、そのまま上体を起こして店内をキョロキョロと確認する。何かを思い出したように眉を顰めると、そのまま突っ伏してしゃくりあげるように泣き始めた。
──まさか、梅佳……ヤられたのか!?
──梅佳はかなりの手練れのはず……。
──梅佳ちゃんが倒されたってこと!? だとしたら……カリンちゃん……一番の親友を目の前で……。
洸はカリンをやさしく抱き起こし、背負いながら声をかけた。
「カリンちゃん、ひとまずみんなのところに戻ろう」
四人はバトルフィールドとなった店内を後にした。
カリンが梅佳と共闘して敵二人、アレスとディオを倒せたこと、だが、梅佳もまた葵大と同じく、敵の一人、ディオとは相打ちの形となって死んだことを知ったのは後のことである。
一方で、敵二人だけでなく梅佳の姿までなかった謎は解明しないままとなった。
その日の夜──。
「な、なんだ!? この部屋……!?」
洸が声をあげる。
ヘラのスキル『正夢』『白昼夢』により、洸たち八人は見たことのない未来仕様の部屋に集められた。
白を基調とした室内には空中モニターが数個ある。部屋の中央にあるテーブルの天板もモニター画面であった。
ただ、梅佳、葵大はもちろん、萌莉とカリンの姿もない。
「みなさん、こんにちは、いや、こんばんは、ですね……」
──こ、この声、聞き覚えがある……。
洸が声の主の心当たりを思いうかべていると、間もなくテーブルの中央に、白や紫色をした3Dホログラムの蝶が飛び交い、同時にハート型の無数の光も舞い散った。
光が収束していくと猫耳の水色髪の少女が上半身から映し出されていく。
「あッ! ゆ、夢の中で……アドバイスしてくれた人だッ! ヘラさん……でしたっけ?」
久愛が声をあげる。
「みなさん、ご無沙汰しております。ヘラ・ラヘと申します。今回は、みなさん一斉に夢の中で集まっていただきました」
「「「えっ!?」」」
「「夢ッ!?」」
「みなで同じ夢を見てるってことでしょうか……?」
美伊がヘラに尋ねる。
「そうです、私のスキルで、萌莉さん、カリンさん以外はここに集まってもらいました」
「「「マジか!?」」」
「ということは……夢を操れるってことか……? すげぇスキルだな……」
アヤトが感嘆の声をあげる。
「お久しぶりです」
「ご無沙汰しています」
紫水と柊龍はヘラと直接会ったことがある上に、夢を操るスキルのことも知っていたので、落ち着いて耳を傾けていた。
「この度は、大事な仲間をふたりも亡くしてしまう結果となり、本当に申し訳ないです……」
皆の表情が瞬時にくもる。
「でも皆さん……本当によくがんばってくれました。だから、今、敵陣営の方が皆さんよりも相当焦っているはずです」
「ヘラさん。ひとつ確認したい。敵はあとどれくらいいるんだ?」
翔也がいぶかしそうに尋ねる。
最後までお読みくださりありがとうございます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。次話は明後日までには更新いたしますのでよろしくお願い申し上げます。
□語句スキル解説※再掲(一部追記)
『白昼夢』
お昼間に目を覚ましたまま空想にふけること又はその際に見る夢のような映像のことを意味する。白日夢ともいう。ここではヘラ・ラヘ(ファースト)が会いたい人のことを思い空想にふけることで、意識のみその人の夢に干渉できる。本来意識のみの存在である地底人にとっては意識のみとなることは特別なことではないが、このスキルにより他人の夢の中に意識を移動させられる。今回は前回のスキル使用時より強力なスキル効果を発揮させている(『正夢』の解説)。
『正夢』
夢の中での出来事が現実となること又は現実となった夢のことを意味する。ここでは『白昼夢』スキルで空想にふける間、他人の夢に干渉し、その他人の夢を現実に起こさせるスキル。前回、ヘラは個別に助言するにとどめていたが、今回はスキル効果を最大限発揮させた。洸たちを心配して様子をうかがいにくるだけでなく、洸たち一同を夢の中に招いて伝えたいことを伝えている。ヘラの能力のひとつは夢を操るスキルであることが判明した。
『飛耳長目』※洸のスキル、再掲
……ものごとの観察にすぐれ、見聞がひろく、ものごとに精通していること。「千里眼」と同義。この意から、鳳凰を召喚して、敵の視察、諜報活動をするスキル。
『鳳凰銜書』※洸のスキル、再掲
……天子の命令が書かれた文書を天子の使いの鳳凰が持参することを意味するが、ここでは鳳凰が観察、諜報した記録をデータとして詠唱者に送るスキルのこと。




