# 第86話 金烏玉兎・日進月歩
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!予定より更新が遅くなってすみません。Xの方も数日の間、毎日ロックが続いたのでなかなか復活する気になれず申し訳ないです。こちらの更新は続けます。この第86話と次話の第87話で本章が完結します!(*´ω`*)一挙二話更新します!
では第86話を始めます!(*´▽`*)
アテナはアポロンの方を振り向く。
「終わったわ。これから逃げた連中の後始末もしたいのだけど……」
「ん……それは認められませんね。共闘する指令は出ていないですから……」
と言いながら、アポロンはアテナの頭から足元までをなめるように見ている。
「な、なによ!?」
「いやぁ、返り血ならぬ、返り氷? 返り青? とでもいうのでしょうか、ハハハッ」
アテナは、自身の腕や足を見て、ところどころに青い汚れ、染みがついていることに気づく。
「な、なにこれ、気持ち悪い……拭いても取れないじゃない。あー、ほんっとにムカつく。あの子、最後の最後まで気に入らないわ……」
「まぁ、でも、毒性は無さそうですから、勲章とでも思えばよろしいのでは?」
「……」
アテナは不満げな顔のまま黙っていた。
ほんの少し時を遡る──。
睦月葵大がアテナとタイマンバトルになった後、間もなく美伊は端末が使える地点までたどりついた。
バトル訓練の真っ最中であった洸たちに、美伊が「事の顛末」を伝えるべく端末でコールする。
──BOON~BOON~♪
「美伊ちゃん? どしたの?」
「洸さん、久愛さん……私たち、カリンちゃんの誕生日会の最中に敵三名と遭遇してバトルになってしまって……」
「なっ、なんだって!?」
洸は通話をスピーカーモードに切り替える。
「私は、重症の萌莉さんを連れて近くまで逃げてきました……私たちを逃がしてくれた葵大さんをひとり置いてきています。梅佳さんとカリンさんも誕生日会をしていた店内で敵と闘っているはずです……」
美伊の詳細な報告に、勇希、紫水、柊龍も耳を傾ける。
洸と久愛が美伊にやさしく声をかける。
「わかった。美伊ちゃんは萌莉ちゃんとこちらにきて久愛と合流して、僕たちはすぐ現場に向かうから」
「美伊ちゃん、萌莉ちゃんも一緒に治すからね。私、回復スキルパワーアップしたからね」
「わかりました……」
美伊は気丈に話そうとしていたが、その声は今にも泣きだしそうに震えていた。
「どうする!? 美伊の話からすると一刻の猶予も無いぞ」
アヤトが洸たちに問いかけたとき、空を飛ぶ黒いドローン型スカイカーが近づいてきたことに気付いた。
「えっ!?」
「「敵か!?」」
「いや、違う……翔也さんだよ、俺が頼んだ」
スカイカーは洸たちのいる公園内にある、所定の場所に着陸を始める。洸たちは皆、急いで駆け寄った。
「「翔也君!!!」」
「「翔也さん!!!」」
「よぉ! 勇希から特訓に付き合えって連絡だったんだが……」
「特訓中だったんだけど、今、美伊ちゃんから、敵とバトル中だって連絡が……」
洸がいうと、翔也はそこにいるメンバー全員を見回してから口を開いた。
「マジか、美伊ちゃんたちがバトル中ってことか?」
久愛が翔也に詳細を伝える。
「美伊ちゃんは、負傷した萌莉ちゃんを連れてここに戻ってこれるみたい。残りの三人がバトル中なの。私はここに残ってふたりを待ちます」
「そうか、梅佳ちゃん、カリンちゃん、葵大が闘ってんだな。じゃぁのんびりしてる暇は無いな。久愛ちゃんがここに残るなら、他のみんなは乗ってくれ! 勇希、お前は助手席な。これ、二つに分離できる仕様だから」
「了解っす!」
勇希は威勢のいい返事をしながら、自身の最大防御回復スキル『愛月撤灯』『海底撈月』を、久愛に向けて唱えた。
「あっ、勇希君ありがとっ!」
洸が心配そうに尋ねる。
「久愛、ひとりで大丈夫?」
「うん、万が一敵が来ても防御と回復はできるし、勇希くんのスキルもあるから大丈夫」
「ひとりで戦っちゃだめだよ」
「うん」
翔也のスカイカーに洸、アヤト、勇希、紫水、柊龍が乗り込む。
六名は久愛だけを残してバトルの現場へと飛び立った。
「勇希、タイミングがグッジョブだったな」
翔也が勇希に親指を立てる。
「結果論っすけどね」
少し照れ臭そうにした勇希は、美伊の説明にあったビルの屋上にいる二名の存在に気づいた。
「あ、あそこっすよね!? ん!?」
洸は美伊の話から想定していたのとは異なる状況に焦りを募らせる。
「あれ……敵がふたり……だよね? 葵大君がいない……」
「葵大がやられた可能性があるってことっすよね?」
一転、殺気立った勇希が声をあげる。
「翔也さん、みんな、俺、いくぜっ! 紫水、柊龍は、俺と行くならそのまま、行かないなら翔也さんの方へ移ってくれ」
紫水が勇希を戒める。
「勇希、待って、もうちょっと冷静にいこう。俺と柊龍はそのままでいいが、敵の状況も聞いていたのと違うし、葵大がどうなったかも分からないし」
柊龍もうなずく。
翔也も勇希をたしなめた。
「先走る癖、抜けてねえな。勇希、二手に分かれる案は賛成だが、落ち着け!」
「すんません……」
「あくまで葵大の救援、救出が最優先だ。冷静にな」
翔也は続けて洸に尋ねる。
「洸、俺らは先に店の方へ向かうべきじゃないか? 梅佳ちゃんとカリンちゃんの方も気になるしな」
「そうだね、翔也君、僕たちは先にお店の方へ行こう」
「OK、よしっ分離するぜ」
翔也はスカイカーを分離させると、他方に乗る勇希たちに向かって叫んだ。
「三人とも、絶対無理するんじゃないぞ。俺たちも後で合流するからな」
「了解っす」「「了解」」
翔也、洸、アヤトの三名は、梅佳とカリンがいるであろう店へと向かった。
勇希、紫水、柊龍を乗せたスカイカーの方は、アテナとアポロンの方へ近づいていく。紫水が小声で勇希に声をかけた。
「勇希、ストップ! まだ距離があるから、こちらに気づいてない、ここでいったん止めよう。黄色い男と、白い法衣を着た紫髪の女のふたりだね。明らかに敵だな」
「葵大君がいない……」柊龍がつぶやくように言う。
「おしっ! 止めたぜ! 葵大が捕まってるにしろ、やられたにしろ、はっきりしねえから敵をせん滅する一択だ! 俺はあの黄色いのをヤる。アイツは俺が倒す。いいもの、見せてやるッ」
勇希は空中で停車したスカイカーの座席から立ち上がる。
「ちょ、待てって」
慎重な紫水の助言をふりきり、勇希は身構え、スキルを唱える。
「『キンウギョクト』」
勇希が両の掌を胸の前で構えると、その間に黄色い野球ボール大の玉が生じ、徐々に膨張していく。
勇希は二つの黄玉──日玉(太陽玉)と月玉──を作り出し、それぞれ順に拳を打ち込んだ。
「オラァッ!」
バランスボール程のサイズにまで成長した黄玉たちは、まるで意志をもっているかのように物凄いスピードでアテナとアポロンの方へ向かっていく。
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□語句スキル解説
『金烏玉兎』
……太陽と月のこと。「金烏」は太陽に住んでいるとされる三本足のカラスのこと、「玉兎」は月に住んでいるウサギのことを意味する。ここでは勇希が日玉(太陽玉)と月玉を出現させるスキル。勇希はかつてスキル『烈日赫々』で日玉(太陽玉)を出現させることができたが、これと日食、月食、皆既日食、皆既月食等とのコンボだけでは攻撃に限界があると感じて新スキルを編み出した。敵に当たると爆発して大ダメージとなる。少し次話のネタバレになるが『旭日昇天』『日進月歩』と掛け合わせると威力と速度が増した無数の日玉、月玉による攻撃が可能となる。このスキルの威力は洸や翔也たちが認めており、勇希自身もこのスキルコンボに相当な自信を持っている。
以上です。次話歳87話も同時更新です!




