#84 第83話 ミネルヴァの梟・顰を学ぶ・氷消瓦解
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!1月中に83話目を投稿できず申し訳ありません。1月中に更新するはずだったので2月は少なくとも他の2話分(84話・85話)を更新できるようにがんばりますm(_ _)m仕事は落ち着いたので更新頻度が下がることはないと思います。
では第83話始めます!
次の一手に慎重になっている葵大を、美伊が後方から見守っていた。美伊は萌莉に声をかける。
「萌莉さん、もう少しここで休んでいてください。葵大さんを援護します」
「う、うん……ごめんね……」
美伊はアテナに杖を向けスキルを唱える。
「『一心岩をも通す』!」
美伊の杖の先から放たれた桃色の光線は、アテナの頭部めがけて一直線に走っていく。
だが──。
バシュッ──。
「効かないわよ」
桃色の光線は、アテナの銀色の盾であっさり防御されてしまう。光線は、盾に吸収されるように貧相な音をあげ一瞬で消えてしまった。
「まずはあの盾を何とかしないとですね……」
美伊は間髪入れず、再び仕掛ける。
「『核心を突く』!」
スキル効果で、盾のウィークポイントが解析される。盾のウィークポイントが瞳に映ると、美伊は、狙いを定め杖を向ける。
杖の先から再び桃色の光線が──しかし今度はかなりのエネルギー量で太くなった光線が爆音をともない放たれた。
「ほお、私の『神工鬼斧』と同種のスキルね」
微笑を浮かべるアテナは、美伊の放った光線が、単に盾を狙っただけでなく、盾の破壊に適したウィークポイントを解析して放たれたことにすぐさま気づいた。
「無駄よ。『ヒソミヲマナブ』」
アテナが左の掌を光線に向けると、美伊の放った光線と全く同じ桃色の光線が放たれた。
ドバンッ──。
美伊とアテナの両者が放った桃色光線が衝突すると、相殺され双方ともに消えていった。
それでも美伊はあきらめない。
「『核心を突く』」
だが今度は、光線が放たれる音が最大になるタイミングでさらにスキルを追加した。
「『桃弧棘矢』」
「性懲りもなく同じスキルを……『顰を学ぶ』」
アテナはまた相殺すべくスキル『顰を学ぶ』を唱えた。
『顰を学ぶ』とは「顰に倣う」ともいい、人真似をすること、または、人に倣って物事をすることを謙遜する言い方である。
アテナはこのスキルで敵のスキルと同等のスキルを放ち、スキル効果を相殺することができた。
だが──。
ドガンッ──。
爆音をあげたのはアテナの盾であった。盾の中央付近に大きなひびが入る。
「くっ……私としたことが……あの子、もうひとつスキルをしのばせたのね……」
『桃弧棘矢』は美伊が初めてのバトルで使った、敵の攻撃スキルを無効果するスキルであった。自身の放つ桃色光線に、このスキルの効果をこっそりと付随させていたのだ。
「すごいっ! 美伊さんっ! グッジョブだ!」
「うまくいきましたわ!」
──ふたりでやれるところまでやるか? 少しでも敵の情報を取れた方がいいかもしれないし。
葵大は大きくひび割れた箇所から光の粒子となって崩壊していくアテナの盾を見ながら腹をくくる。
「『梟盧一擲』ッ」
アテナは盾が消え去る前に唱え、再びルーレットを出現させた。
「卯月美伊、だったかしら。あなたはそこの彼のように新しいスキルではなく、既存スキルの組み合わせで創意工夫したのね。敵ながらあっぱれだわ。ご褒美に今度は……もっと楽しませてあげる」
またもやルーレットが電子音を上げながら右回りに回転し始める。ところが今度は上下だけでなく左右も梟の顔に変わっていた。
空中ルーレットの光が向かって左の九時の位置でとまる。時同じくして、アテナの盾も光の粒子となって完全に消え去った。
だが、アテナは盾の消滅を意にも介さずほくそ笑む。
「フフフッ、私のオウルちゃんがお出ましよ」
バッサ~バッサ~と鳥の羽音がフィールドに響く。アテナが右手を上空へ伸ばすと、白と薄紫の梟がその手に向かって飛んでくる。
体の大部分は白いが、眉毛や羽の一部が薄紫色をしている。大きさは地上の梟と大して変わらない。
「お~よしよしっ。久しぶりに暴れられるよ~。おいしそうな餌もいっぱいあるわ」
アテナは腕に止まった梟の頭を撫でながら、梟にやさしく声をかけた。
「な、なんだ……今度は……フクロウ!?」
「あの牛頭よりは、かわい気がありますけれど……あ、牛頭の方はいつの間にか消えていますね」
「うん、牛頭はもう異次元のどこかに消えたけど、あのフクロウ……どんな攻撃を仕掛けてくるんだ!?」
「梟はただでさえ獰猛な猛禽類ですけれど……ただの梟ではすまなさそうですよね……」
葵大と美伊は警戒を解かず身構える。
「さて、私のオウルちゃんの攻撃、堪能してもらいましょう、『正鵠を射る』!」
アテナは光の玉で攻撃した時と同じスキルを唱えるが、此度は手元に光の玉は生じない。光ったのはアテナの腕にとまっている梟の方であった。
ズバンッ──。
「きゃあっ」
葵大と美伊の目に留まらぬスピードで梟は美伊に突進してきた。
「美伊さんッ!!!」
「うぅ……」
右わき腹を手で押さえながら美伊が答える。
「光ったと思ったら、もう目の前にあの梟がいました……」
「な、なんて速さなんだ……大丈夫?」
「『桃弧棘矢』を自分にもかけていたので、大けがには至らなかったですが……」
「とりあえず無事でよかった……でも……あれは厄介だね……」
「どう? オウルちゃんの攻撃。フフフッ。間一髪避けたのは褒めて差し上げましょう。では……」
アテナの右腕に戻った梟が、ホーホーと鳴きながら葵大と美伊を見ている。
アテナはくるりと体を回転させるや否や、葵大と美伊のいる方向とは真逆の方向を向き、梟を再び放つ。
「至近距離からだと軌道が読みやすいでしょう? だから空高く自由に飛ばせてあげるのよ。どこから飛んでくるか分からない方がスリル満点でしょう? フフフッ」
──またあの速度でフクロウを飛ばしてくる気か!? マジでヤバいぞッ……。
「『ヒョウショウガカイ』」
葵大は、先手を打って唱えると、両腕を横に広げ両拳に力をこめる。
葵大の周囲の水蒸気が収束し、水玉になるや否や氷結する。葵大が身をかがめると、周囲の氷のブロックが多数放たれた。
「陳腐な攻撃ですね」
アテナは難なくかわす。氷のブロックはアテナの体の周囲を通り過ぎていく。
氷のブロックは、葵大がスキル『氷姿雪魄』で精霊に作らせた氷の壁に次々と衝突していった。
ドガンバゴンッという衝撃音にまぎれ、ピキピキピキバリンと、氷の壁が割れていく音も響く。
『氷消瓦解』スキルは物事をばらばらにするという語意のごとく、対象物をバラバラに破壊するスキルであった。
氷の壁は牛頭のパワーでも破壊できないほど強固なものであったが、アテナがすでに一部を破壊していたこともあり、壁は次々と連鎖的に崩壊していく。
周囲は霰や雹のような氷の粒がとめどなく舞っている状態となった。
──何をする気かと思ったら、氷の壁を壊した……だけ?
アテナは少し怪訝な表情を浮かべるも、すぐさま葵大と美伊、ふたりの方へ向き直り、静かに唱えた。
「『正鵠を射る』!」
だが、本来なら目視できないはずの、梟が飛んでくる軌道が、氷のおかげでかろうじて見えた。葵大も美伊も梟の体当たりをぎりぎりのところでかわしていく。
だが、梟の攻撃は続く──。
「うぅ……ずっと続けられたら持ちこたえられない……美伊さんは怪我もしてるし……」
葵大は、梟の攻撃をかわしながら再び考える。
──やはり、美伊さんには、萌莉さんを連れていったん引いてもらった方がいい。洸さんたちと合流しないと……。三人で束になっても勝てる保証がない……。
──あれを……やるか……? やるしかないっ!
最後までお読みくださりありがとうございます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しておりますm(_ _)m
◇語句スキル解説
『一心岩をも通す』※再掲
……不可能と思われることであっても集中し専念すれば成し遂げられること。ここでは杖から強力な光線を発射し、物理攻撃では破れないものを貫いたり破壊したりできるスキル。
『核心を突く』※再掲
物事の最も重要な点を鋭く指摘すること。ここでは敵の最も重要な部分=弱点を分析して、鋭く攻撃するスキル。美伊は杖で攻撃しているので光線で弱点を貫いた。
『桃弧棘矢』※再掲+加筆
……災いを払うことを意味する。ここでは敵のスキル効果を消失させるスキルのこと。『核心を突く』と同時に放つことでアテナの『顰を学ぶ』スキル効果を無効にした(正確には無効にまでできなかったので威力を弱めた)。美伊はアテナに気づかれないように『桃弧棘矢』を放っている。
『顰を学ぶ』
……「顰に倣う」ともいい①人真似をすること、②人に倣って物事をすることを謙遜する言い方である。「顰」「顰み」とは眉をひそめること。昔、憧れの美人が眉をしかめた顔まで真似をした女性がいた話からできた言葉。ここでは敵のスキルと同等のスキルを放ち効果を相殺するスキルだが一度目にして解析したスキルに対してしか発動できない。新しいスキルを使い続けている葵大をアテナが厄介に感じているのはそのせいでもある。
『氷消瓦解』
……①物事がばらばらになること、または、②完全に無くなることを意味する。氷が解けて消えるように、屋根の瓦の一部分の崩壊から全体が次々と崩れるようにばらばらになるという意味から。
「氷と消え瓦と解く」「瓦解氷消」ともいう。土崩瓦解氷散瓦解は類義語である。
以上となります。
次話、葵大は何の決意をしたのか!? 乞うご期待(´▽`*)




