#83 第82話 梟盧一擲・氷姿雪魄・薄氷を踏む
今年初更新ですね(;'∀')旧年中大変お世話になりました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
大変お待たせしてすみません。仕事が今週末まで繁忙期だったものでかなり遅れてしまいましたm(_ _)mずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!いいね、感想、ブクマ、評価してくださった方々、かなり励みになっています。本当にありがとうございますm(_ _)m
では早速第82話、始めたいと思います(*´ω`*)
アテナの創り出した光の渦は徐々に実体化していき、六角形を描くと強固な銀色の盾となった。盾は縁こそ金色に光り輝くが、模様も装飾もない簡素なデザインの盾であった。
「教えて差し上げましょう。私が主に使う言葉は、正義の『正』、守護の『守』、そして『梟』」
アテナが右腕を前方へ伸ばし、盾を前に突き出す。
「『アボウラセツ』『キョウロイッテキ』」
アテナがスキルを唱えると、盾から生じた光の粒子が空間に白や紫で彩られた円盤を形作る。円盤はきらきらと輝きながら、上下に牛の顔、左右に梟の絵を浮かび上がらせた。
「さて、貴方達の相手はどちらになるのでしょうね、フフフッ」
アテナが再び盾を前方に突き出すと、円盤の中心が黄色く光り、上に位置する牛の顔も同色に光る。黄色い光は電子音とともにルーレットのごとく時計回りに絵文字を順に照らす。
ルーレットの光は下の牛の絵で止まった。
「フフフッ、ツいてるわね。地獄の獄卒、牛頭と戯れられるわよ~フフフッ」
──梟よりはツいてるってことだけどね、フフフッ。
三人の前に紫の霧が立ち込めると同時に、獣の唸り声が響く。地面から何者かがぬるっと姿を現した。
「な、なんだ!?」
「えっ……」
葵大と美伊は身震いしながら身構える。
霧の中から現れたのは牛の頭の巨人──角を生やし鼻輪をつけ、真っ赤な瞳で、上半身は一糸まとわず筋骨隆々。両手首と腰には朽ちかけた紫色の布テープが巻きついている。
「ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
大きな唸り声と両腕を左右に大きく広げる。
「うわっ……ヤバそうなのが……」
葵大が声をもらす。
「『一意専心』ッ!」
美伊が唱えると、萌莉の背中には天使の羽が生え、右手には桃色の天使の杖が現れる。
天使モードになった美伊は萌莉の方を向いて叫んだ。
「萌莉さんは、少し休んでいてくださいっ!」
攻撃態勢に入った美伊を葵大が引き留める。
「美伊さん、ダ、ダメだ! こいつは僕が相手をするから、美伊さんは萌莉さんに治癒スキルをっ」
「わ、わかりましたわ」
「……ご、ごめんね、ふたりとも……」
美伊は萌莉に治癒スキルを唱える。
──まずは防御だッ!
「『ヒョウシセッパク』」
葵大が唱えると葵大の足元からヒュルヒュルヒュルという声とともに、半透明の白い蝶のような生き物が数匹飛び立ち始める。
どこの言葉ともいえぬ精霊たちの言葉があたりに響くと、葵大たちの耳に思念の声が入った。
──純粋無垢な貴方たちのために、私たちが力を貸しましょう。
「ありがとうっ! 氷の精霊たち、氷の壁を作るんだッ!」
葵大が両手を前にかざすと、下方から右斜め上へ、左斜め上へと、たくさんの氷の精霊たちが飛び立っていく。
「フフフッ、精霊も使えるようになってるのね、やるじゃない」
アテナは、葵大たちの前に氷の壁ができていくのを、半ば楽しむかのように眺めている。
「できるだけ分厚く、広く、丈夫に頼むよっ」
葵大は両手を前にかざしたまま叫んだ。
氷の壁は、上限が見えないほど空高くそびえていく。上だけでなく、上下左右に伸びていく壁は際限なく続いているように見える超巨大な壁となった。
アテナの召喚した牛頭は氷の壁の前につくや否や、太い両腕を振り上げ、殴り始める。
だが、氷の壁にはヒビ一つ入らない。
アテナは笑みをこぼしながら『神工鬼斧』スキルを唱える。
「氷の壁は私のこの斧で壊しましょう。牛頭との戯れはそれからね」
アテナは、梅佳の球体にしたように、葵大の氷の壁の構造などを解析し、銀の斧を放つ。
ガコッバキッ、ドゴンッバキンッ──。
徐々に壁が破壊されていく。
「美伊さん、このままじゃジリ貧だっ。萌莉さんを連れて逃げてッ」
「だ、大丈夫よ……」
美伊の回復スキルで少し顔色が良くなった萌莉が小さな声を振り絞って出した。
「葵大さんっ。ひとりでは荷が重すぎますわ」
萌莉を回復させながら、美伊は立ち上がった。
パリンッ──。
氷の壁の一部が割られると、牛頭がその割れ目から壁を通り抜ける。
「ウォーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
再び咆哮した牛頭は、巨体に似合わぬスピードでドシンドシンッと葵大たちの方へ向かってきた。
葵大はすかさずスキルを唱える。
「『ハクヒョウヲフム』」
葵大が右の掌を地面の方へ向けると、葵大の周囲に青白く光る氷が生じる。氷は地面に触れると即座に溶けて消えていった。
牛頭は気に留めず、ひたすら直進してくるが──。
パリンッ──。
氷の割れる音とともに、牛頭は右足を穴にとられ、身動きができなくなった。
「お、落とし穴!?」
美伊が声をあげる。
牛頭は穴にはまった右足を引き抜こうともがく。
「ハマってくれたね。『薄氷を踏む』の穴は異次元とつながってるから簡単には出られないよ」
「葵大さん、さすがですっ!」
アテナは牛頭を封じた葵大を眺める。
──ふーん……。あの子たちの成長スピードは著しいのね。睦月葵大……あの子……データにあるスキルは使わず、新しいスキルばかり使ってる。それに……。
アテナの顔から笑みが消えた。
──これじゃ、データにある弥生梅佳に匹敵する可能性すらあるじゃない……。
「私が直接、相手をしなければならないようね」
アテナは氷の壁に開けた穴から、壁を通り抜けた。
「私は近接攻撃しない上に、地面に足をつけなくても移動できるから、そのスキルは効かないわよ」
「で、ですよね……」
新しいスキルが功を奏してきたものの、一抹の不安が葵大の脳裏をよぎる。
──次はどうする!? 僕たちだけで、アイツを倒せるのか……!?
最後までお読みくださりありがとうございます!!!次話以降、できるかぎり早くアップしていきたいと思います!PV動画も毎話、Xの方にアップしておりますので、ぜひご視聴ください。またどうか完結までお付き合いくださいませ(*´ω`*)
◇語句スキル解説
『梟盧一擲』
……「梟盧」は博打「一擲」はサイコロ等を思い切り投げることを意味し、①サイコロ等を思い切り投げること、②一か八かの大勝負に出ること、を意味する。類義語には乾坤一擲、 一六勝負などがある。ここでは、アテナが梟と他の何かをあわせて召喚するペットをルーレットで選ぶスキル。ルーレットで止まった個所の獣が召喚される。
『阿防羅刹』
……「阿防」は人の体に牛の頭を持つ牛頭を意味し「羅刹」は人を食べる鬼を意味する。地獄にいる獄卒、牛頭のことを指す。ここでは文字通り、地獄にいる獄卒、牛頭を召喚するスキルであるが、梟盧一擲スキルのルーレットに組み込むことで、召喚された時にパワーアップされる。「阿傍羅刹」、「阿旁羅刹」、「阿坊羅刹」と「防」の字が異なるものもあるがすべて同じ意味。アテナは、スキルで使う字のひとつが「防」であることから『阿防羅刹』を使用している。
『氷姿雪魄』
……梅の花、又は、清く澄んだ心を持った人のこと。梅の花が雪の残る冬の終わりに白く美しく咲くことから。「雪魄氷姿」とも書く。ここでは清らかで澄んだ心をもつ氷の精霊たちを呼び出すスキル。ここでは氷の精霊と交渉して氷で何かを作り出してもらうスキル。今回、葵大は堅固な氷の防御壁を作ってもらった。
『薄氷を踏む』
……薄くてすぐ割れそうな氷の上を踏んで歩くことから転じて、きわめて危険な状況に臨むことを意味する。「薄氷を履む」「薄氷を履むが如し」とも書く。ここでは地面に複数の薄氷の落とし穴を作るスキル。穴は異次元につながり、はまると容易には抜け出せない。
以上になります!ここまで読んでくださった方、重ねてお礼申し上げます(*´ω`*)




