#81 第80話 胡蝶の夢・正鵠を射る
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!大変お待たせしてしまい、申し訳ありません。今回から新章がスタートしますが、本章の最初となる本話は、時系列でいうと第71話、第72話あたりを分岐とするストーリーとなります。小出しに交互に書くか悩みましたがアレス、ディオ戦を先に書ききりました。梅佳がある意味命懸けで逃がした他のメンバーとアテナとの闘いが始まります!
今回も一挙二話掲載となります。さっそく第80話を始めたいと思います(*´ω`*)
──時は少し遡る。
弥生梅佳とアレスの死闘が始まる直前のこと。
梅佳は、カリンこと水無月霞凜、如月萌莉、卯月美伊、睦月葵大たちを逃がすためにスキル『血路を開く』を放つ。
四人にまとわりついた赤い帯は、四人を守る巨大な赤い球体へと変貌する。
梅佳は、その球体を『天涯地角』スキルで遠くへと飛ばした。
「「きゃあ」」
「うぅっ」
猛スピードで飛翔する球体の中で四人は口々にスキルを唱えるが──。
「ダメですわ……スキルが全く効かないです……」
「私もダメ……端末も全く使えないし……」
「飛ばされる先まで大人しくしてろってことかな……」
猛烈なスピードに慌てふためく四人だったが、スピードの割に球体内は快適であった。そのためすぐに落ち着きを取り戻し、あれこれと思案を続けた。
その中、カリンがぼそっとつぶやいた。
「ママ……みんな……あたし、梅佳ちゃんを助けに行っていいかな?」
「えっ!? カリンちゃん、スキルが使えないのよ、どうやって助けに行くの!?」
「……ん……試してみたいことがあるの」
「えっ!?」
カリンは目を閉じ両手を胸にあてた。そして小さな声で唱える。
「『コチョウノユメ』」
水色の粒子の粉がカリンの全身を優しく包み込むと、カリンはすぐさま眠りについた。
「カリンちゃん?」
「「カリンさん!?」」
カリンの体から幽体離脱したかのように、うっすらと見えるもうひとりのカリンが動き始める。
背中から生えた、眩く光る美麗な水色の蝶の羽がゆらゆらと羽ばたくと、カリンは宙に浮いた。
カリンの周りで、空色や薄紫色、白色のかわいらしい蝶が舞う。カリンが左の掌を蝶たちの方に向けると蝶たちが集まってくる。
カリンは蝶たちにやさしく語りかけた。
「ありがとう。あたし、梅佳ちゃんのところに戻りたいんだ、お願い……」
カリンはぷかぷかと宙に浮いたまま、今度は三人に向かって口を開いた。
「……初めてだったけど、うまくいったよ。行ってくる」
「待って、カリンちゃん。一人で行くのは危険だから」
「私達も一緒に行く方法を考えましょう、カリンさん」
「は、初めてだとしたら、体が元に戻る保証も……」
「その体はすぐに消えて私のところに戻るはずなの」
カリンが眠ったままの本体を一瞥すると、萌莉が不安げにカリンをたしなめる。
「カリンちゃん、梅佳ちゃんがどうしてここまでしたのか考えたら、やっぱり一人で戻っちゃダメよっ」
三人が真剣に引き留めるもカリンはかぶりを振る。
「……梅佳ちゃんが危険だと判断したのは分かるけど……あの梅佳ちゃんが腕を一本切り落とされたんだよ。早く助けに行かないと……」
「「「……」」」
カリンの言葉に三人とも口をつぐむ。
「ママ、ごめんなさい。美伊ちゃんも、葵大君も、ごめんなさい。あたし、いく。梅佳ちゃんを助けにいく」
カリンはそう言うや否や、光の粒子になって消えると、球体のすぐ外に再び姿を現した。背中に生えた羽はより速く飛べるように細く強靭な羽へと変化していく。
球体のスピードが速いため、三人の目に映るカリンは瞬く間に小さくなっていく。三人の傍らで眠りについているカリンの体も追いかけるように光の粒子となって消えていった。
カリンは振り返らず、すぐに梅佳のいるビルの方に向かい飛んでいく。
──梅佳ちゃん、待ってて。
一方、梅佳は、ビルのフロア全体に設置したフィールド内で、アテナ・テア、アレス・レア、ディオの三人と対峙していた。
アテナが梅佳に告げる。
「弥生梅佳、貴女と一戦交えたかったのですけれど、貴女以外は皆殺しが至上命令なの、貴女の相手はこのふたりに任せることにするわ」
アテナが右腕を前に出し掌を上方へ向けると、赤紫色の玉が生じ、耳をつんざく音がフィールド内に響いた。同時にアテナの体が上下に揺れる。
「レア、ディオ、逃げられることがないようにね、フフフッ」
アテナ・テアは言い残し、光の粒子となって姿を消した。
そのとき、梅佳に加勢すべく戻ってくるカリンに気付いたアテナは、一旦球体の追跡を止め、姿を現すや否や宙に浮いたまま、カリンに向けて攻撃を仕掛ける。
だが、まだ実体が戻っていないカリンには通用しなかった。
──何かのスキルね……まぁ、いいわ。あの子が戻ったところで何も状況は変わらない。アレスとディオが片付けてくれるでしょう。私は残り三人の方を追いかけるとしましょう。
アテナ・テアはカリンを追撃することを諦め、赤い球体が飛び去った方に向き直ると、光の粒子となって消え、再び赤い球体を追った。
カリンの誕生日会をしたカフェ「神甘味処」のあったビルがかなり小さく見える地点で、アテナは赤い球体への射程圏内に入る。
「フフフッ。速いといっても、所詮この程度、『セイコクヲイル』」
アテナ・テアがスキルを唱えると、右手に野球のボール大の宝石が現れる。
アテナが宝石を指でつまみ球体に向けると、宝石から薄紫色の光の玉が発射された。
球体へと飛んでいく薄紫色の球体が、萌莉たちのいる赤い球体に激突する。
「えっ!?」
「きゃあっ」
「うぉっ」
それでも、赤い球体の防御力は、梅佳の仲間を思う気持ちの強さを示すかの如く高かった。
アテナ・テアの放った光玉が大破して散っていくのに対して、梅佳の赤い球体は多少の傷こそつくが、すぐさま修復される。
もちろん、球体中の三人にもダメージはない。
「この球体……」
「頑丈ですわ……」
「梅佳さん、やっぱすごいや、すぐに直ってるし!」
改めて梅佳のスキルの凄さに感じ入る三人であったが──。
最後までお読みくださりありがとうございます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております(*´ω`*)かなり励みになっています!今年の更新は次の話で終わります。
◇語句スキル解説
「胡蝶の夢」
……語源は、中国戦国時代に荘子が夢の中で自分が蝶となって花の上で遊んでいたが夢からさめてみると自分が夢で蝶になったのか蝶が自分になっていたのか分からず驚いたという故事。そこから①夢か現実かはっきりしない様子、または②人の世や人生が儚いことのたとえ、という意味となった。ここでは眠りについた状態から夢の中の自分を蝶のような羽を生やした姿へと変え、本体から離脱させて移動するスキル。本体は後に粒子の粉となって戻ってくるが、それまで他のスキルが唱えられないのと引き換えに敵からの攻撃も受けない無敵の状態。また蛇足だが「胡蝶の夢」の2つ目の意味は、後の梅佳の死を暗示していたと考えると切ない……。
「正鵠を射る」
……本来はものごとの要点、急所、本質をつく、という意味。類義語として「核心を突く」があるが、こちらは卯月美伊のスキルとなっている。ここではアテナが百発百中の攻撃をするスキルなのだが、梅佳の仲間への想いが上回り、梅佳の球体はこのスキルではダメージを一切受けなかった。
以上です。
次話第81話は、10分以内にアップ致しますm(_ _)m




