#80 第79話 天網恢恢疎にして漏らさず
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!
第11章最終話の第79話、さっそく始めます(*´ω`*)
「……さすがじゃのぉ。じゃが、こちらもこれが効かぬのは想定の範囲内じゃ。一度使っておるしのぉ」
「君は負けず嫌いだね~」
「フンっ。それがゆえに勝利にこだわり、今があるのじゃ。貴様のワインは消えてなくなったぞ」
「そのようだねぇ~」
──まだ何か奥の手がありそうだねぇ……。
「貴様の強さは本物。それは認めておる。ゆえに、わらわの命を賭したスキルで葬ってやろう」
「……」
──お、奥の手かッ!?
「『テンモウカイカイソニシテモラサズ』」
梅佳は、ディオとの間合いに入ると、数発、ディオに向けて拳を打ち込む。
ディオは瞬時に後方へステップする。
パンチはヒットしないが、梅佳が拳を打つたび、線状の赤やピンク、白の眩い光が無数に放出される。
線状の赤い光は蛇のようにくねくねと伸びると、今度は直線になる。間髪入れず無数の線が網の目状となり、バトルフィールド内に広がっていく。
ディオの体に触れた赤い光は、すぐさま帯状となってテープのようにまとわりついていく。ディオは振り払おうとするも、赤い帯は剥がれない。
「クッ……な、なんだ、これは……」
──剥がせないぞ……。
梅佳が叫ぶ。
「命を賭す覚悟をもてば、貴様と互角以上にわたりあえるのじゃッ!」
赤い帯がさらにディオの全身を縛り上げる。
「グォォオオオ……」
──ま、まずいねぇ……。
苦痛に顔をゆがめながら抗うも、動こうとすればするほど身動きが取れなくなっていった。
「弥生梅佳ッ! 君は自分も水無月霞凜も道連れに、僕を倒すつもりかい?」
梅佳やカリンにまで絡みついている赤い帯をみたディオが問いかける。
「フンッ。心配は無用じゃッ! この帯は悪人しか捕縛せぬ。善人は優しく包み込む。回復効果さえあるぞ」
「見る限り……君も……捕縛されていないか?」
「ははっ、そのようじゃな……わらわも極悪人ということじゃ……前世の罪を償っておらぬからのぉ……」
「覚醒した君は、僕と同等以上の戦士となったということか……こんなスキル、データにもなかったけどね……」
「わらわも初めて使うスキルじゃからのぉ……ふははは」
「君もこれから死ぬというのに、どうしてそんなに平気なんだい……」
「平気なものか……カリンとの約束を守らずに死ぬことは……心残りに決まっておろう」
「そ、そうか……うぅ……ここまでのようだね……もう話すのも……ままならない……」
「そうじゃな……わらわもじゃ……冥土への旅が……貴様と一緒なのは……気に食わぬが……さぁ、ともに参ろう、地獄へ」
梅佳とディオが息も絶え絶えになっている最中、カリンが意識を取り戻す。
梅佳の言う通り、カリンの体に巻き付いた赤い帯はすぐに解けた。ダメージが無いだけでなく、これまでに受けたダメージも回復されていた。
「う、梅佳ちゃんっ!」
「カ、カリン……すまぬ……約束は……守れそうにない……ゆるせ……」
「梅佳ちゃんっ」
カリンは慌ててスキルを唱える。
だが──。スキル効果を無効化する『焼け石に水』も、回復スキル『明鏡止水』も、赤い帯で縛られた梅佳には効果が及ばない。
「うそ、ヤダっ、どうして!?」
カリンは必死にスキルを連打する。
「カリン……無理じゃ……わらわの……最期のスキル……じゃ」
「えっ!? なら解除してよっ! 梅佳ちゃんっ、梅佳ちゃんっ」
「ダメじゃ……カリン……短い間……じゃったが、わらわは……楽しかったぞ……感謝して……おる……」
「梅佳ちゃんッ! どうしてッ!?」
スキルを唱え続けるカリンの想いは届かず、赤い帯にがんじがらめにされたディオと梅佳は意識を失っていく。
「梅佳ちゃんっ!」
カリンは必死にスキルを唱え続けるが梅佳の意識は戻らない。
「梅佳ちゃんっ! ヤダッ起きてッ! 梅佳ちゃんっ……」
『天網恢恢疎にして漏らさず』とは悪事を犯した者は必ず天罰を受けるという意味。このスキルは悪事を働いた者を逃さず捕縛し、命を奪うスキルであった。
だが、皮肉にもスキルは梅佳も悪と判定したのだった。スキルを解除すれば難を逃れることができたのだが、梅佳はディオを道連れに死ぬ覚悟をしたのだ。
「梅佳ちゃん……目を開けてよ……梅佳ちゃん……」
カリンは疲労から両膝をつく。それでもスキルを唱え続ける。
──あれを使うしか……。
「『サンシスイメイ』」
カリンは『明鏡止水』より高度な回復スキルを唱える。
カリンは、訓練で試した際、たった一回で気を失ってしまったため、萌莉たちに使用を止められていたスキルを使ったのだ。
「梅佳ちゃん……おねがい……スキルを解除して……」
だが、無情にも、カリンの放った空色の球体は、梅佳を包んだ後、ただ消えていった。
梅佳の意識は戻らない。
そして、力尽きたカリンもそのまま意識を失い倒れる。
カリンの傍らで、赤い帯が絡まったままの梅佳とディオが、精巧な作りの等身大人形のように立ち尽くしていた。
意識を失ったカリンは夢を見る──。
学校からの帰路──。
桜が舞い散る中、美しい夕焼け空を見上げるカリンと梅佳。
「梅佳ちゃん、パンケーキ、いつにする?」
カリンが問いかけると梅佳はカリンの方を振り向き、ただ黙ってカリンを見つめていた。
──梅佳ちゃん……。
カリンが目を覚ましたのは、もうしばらくしてから──皐月家にある自分の部屋、ベッドの上であった──。
最後までお読みくださり本当にありがとうございます。梅佳の覚悟や想いを感じ取っていただけましたでしょうか?今後のカリンが心配ではありますが(´;ω;`)
今回から漫画風動画を先行して制作しておりまして、その動画の切り取りを挿絵に加工しております。AIの進化により、アニメーションや音楽の制作が興味深いものとなっており、第78話と第79話をまとめたPVのBGMは『悲しき人工知能~梅佳に捧ぐ鎮魂歌』(Xにアップしたものが1番で、今回は2番にしました。作詞は小説の文章と同様、自分で書いています。)
◇語句スキル解説
『天網恢恢疎にして漏らさず』
……『老子』に書かれている古代中国の諺から、天が張る網は広く一見目が粗いようだが悪人を網の目から漏らすことはない、つまり、悪事を行えば必ず捕らえられ天罰を被るということを意味する。ここでは、梅佳の「天」がつく言葉のスキルの最高峰攻撃スキルで、拳から放つ光の縄で敵を捕縛し、そのまま命を奪うスキル。悪を自動的に判定し対象とするため、前世の行いを悪と判定された梅佳の命をも奪った。これは前世の罪も許さないという意味ではなく、梅佳が前世の記憶を残したままゼロスたちレジスタンスに転生させられたことにより、前世と現世を区別されなかったものと考えられる。梅佳自身、自らも悪と判定される可能性を覚悟した上で使用した。ただカリンを守りたいがために。
『山紫水明』
……日に照り映えた山が紫に見え、川が清らかに流れている美しい山水を形容した四字熟語。ここでは、回復スキル。『明鏡止水』より強力な回復スキルとなるため、精神力やイメージ力など詠唱者に高い能力が必要となる。なお第1章でタマヨリが最高峰の回復スキルとしてバトルで使用している。これが梅佳の前世、クイーンキングとのラストバトルで使用されたことと、タマヨリの娘であるカリンが死にいく梅佳に使用されたことを興味深く感じて下さった方がいらっしゃったらご一報くださいm(__)mAI暴走中オタクですw( *´艸`)
次話から第12章が始まります!年内に何話更新できるかは未定ですがご期待くださいませ(*´▽`*)




