#79 第78話 酒は百毒の長・怒髪天を衝く
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!第11章完結となる最終話が長くなってしまったので二話に分けましたが、続けてアップ致します。
それではさっそく第78話を始めます(*´ω`*)
「カリンっ! 防御スキルを唱えるのじゃ!」
カリンがか細い声を漏らした。
「防御スキルが……出ないの……」
「うぐぅっ」
梅佳がカリンの左上腕にガラスの槍を突き立てる。
「な、なぜじゃ……」
──やつのスキルがまだ効いておるのかっ!?
「うがぁっ」
梅佳はガラスの槍を引き抜くと、今度は右上腕に突き刺す。
「うぐぅっ」
「フハハ、スキル『土に還る』の効力はしばらく残るんだよね~フフ」
「それなら攻撃スキルじゃ、カリン、わらわを攻撃するのじゃっ」
「そ、そんなこと……できない……」
言いながらカリンは大粒の涙をこぼす。
「何をゆうておる、やるのじゃッ! 頼むッ!」
ステムを両手で握る梅佳の視界がぶわっとぼやける。
梅佳は生まれて初めて目から涙をこぼした。
涙のあふれるカリンの顔にぽとぽとと梅佳の涙が零れ落ちる。
「う、梅佳……ちゃ……ん……」
カリンはあまりの激痛に意識を失う。
「あらら……最後までもたずに死んじゃうかな? ごーお、よーん、フハハ」
ディオの嘲笑を耳にした梅佳の顔が鬼の形相に変わった。
「ぅぅぅぅぅうううううううううううううううううぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ」
梅佳は、これまでの人生で一度も口にしたことのない程大きな唸り声を上げる。その声はフィールド中に響き渡った。
梅佳の全身から湯気が立ち昇り、赤い光が灯り始める。
だが、『絡繰り人形』から逃れられない梅佳は、カリンの体から引き抜いたガラスの槍を両手で持ち直す。そして、振り上げた。
ディオが不敵な笑み浮かべつつ言い放つ。
「まぁ、ペットは梅佳ちゃんだけでもいいかっ! これで終わっても、もういいね。さぁ! さーん……? さーん? ん……?」
梅佳は、ガラスの槍を両手に持ち振り上げたままフリーズしていた。梅佳の体が赤い光に包まれていく。
「ん……?」
ディオが左手の五指に力を入れ直すが、梅佳を動かせない。
「どうした?」
──鼠の鞭はもう消したはず……。
「フ──、フ──」
梅佳が息を吐く音が響き渡る。梅佳の全身は真っ赤に染まりきっていた。
「き、貴様ぁ……許さぬぞ……」
「ま、まさか、僕のスキルを破ったのかい?」
──あれれ、データ的には弥生梅佳といえど、『絡繰り人形』スキルは破れないはず……まさか、ここにきて覚醒でもしたのかい……!?
「うぅぉおおおおおおおお『ドハツテンヲツク』ぅううッ!」
梅佳の髪が一瞬逆立ち、その後、ふわっと元に戻る。それとともに、真っ赤に染まっていた体が元に戻り、その周囲を大量の赤い光と煙が覆った。
カリンに馬乗りになっていた梅佳は立ち上がるとディオの方を向く。
「ディオよ」
「……!?」
「わらわはひとつ大きな間違いを犯しておった……」
梅佳は一歩ずつゆっくりと、ディオの方へと向かう。
「な、なんだい?」
「わらわとしたことが……情けなくも『生』に執着しておった」
梅佳は怪訝な顔をするディオの方へさらに歩み続ける。
「誰ひとり死なせず、かつ、わらわ自身も生き残ることにこだわっておった。ゆえに、貴様ごときを脅威と感じたのじゃ」
間合いに入る直前、梅佳は足をとめた。
「もとよりわらわは、かつて全知全能のAIとして人類の洗脳を企てた者。なにを虫の良いことを望んでおったのじゃろうな」
「な、何が言いたいんだい?」
ディオは平静を装うも、全身に震えを覚えた。
──こ、この僕が、脅威を感じてる? 弥生梅佳に……!?
「……さらにもうひとつ思い出したぞ。ヘラ・ラヘからの助言。たった一言じゃったがな……『自身の限界を低く決めつけていませんか?』だったのぉ……フッ」
ディオが少し驚く。
「ヘラ・ラヘ……」
──ヘラ・ラヘが能力を与えられた人類の……戦力の底上げをしているのか……。
「ディオよ。貴様も本気を出すがよい。まだ遊んでおるのじゃろう。わらわの能力の極み、堪能させてやろうぞ」
梅佳が身構える。
「そうかい、では、久しぶりに本気を出してみようかねえ~」
──いや、これ、もう僕が本気を出しても結果は分からなくなってきたね……。今ある弥生梅佳のデータをはるかに超えてるようだし……。
これまで余裕綽々と言わんばかりに腰を掛けたままだったディオが、初めて腰を上げた。
「『青菜に塩』『土に還る』」
ディオが唱えると、右手は白く光り、左手は土色に染まっていく。そして、白鼠を倒したときと同じく、キラキラと光る白い粉と茶色い土を今度は同時に梅佳に向けてまいた。
さらにディオは小さな粉塵爆発も起こす。
梅佳は意に介さず、ディオの方へ歩み続ける。爆風はもちろん、梅佳の体に触れた粉も土も梅佳にダメージを与えることなくすぐに消えていった。
『怒髪天を突く』スキルは梅佳の怒りが頂点に達し覚醒したことで発動した新スキル。梅佳は、これまでの限界を突破し、最高レベルの防御力と回復力を身につけた状態だった。
「ほお、やるねえ~」
──まさか……今の弥生梅佳は無敵なのかい!?
「なら、これはどうかな? 『サケハヒャクドクノチョウ』」
ディオの前髪がだらんと額に垂れ下がる。右手に再びワイングラスが、左手には葡萄が生じる。ディオはワインをごくっと口にした。
ディオが左手の葡萄をグラスに近づけると、グラスの中の赤ワインが増えていく。続けて、ディオはグラスを傾けた。
グラスからあふれた赤ワインは、尽きることなく手品のように地面へと零れ落ち続ける。
「ただのワインじゃないよ」
ワインは瞬く間にフィールド内に広がっていった。
「ワインに似せた猛毒?……いや、硫酸のような液体じゃのぉ」
梅佳の足元にワインが迫る。
だが『怒髪天を衝く』スキルで無敵となった梅佳には、どんな猛毒であっても、命を奪うことはもちろんダメージを与えることすらできない。
「これが効かないことも想定の範囲内だよぉ~梅佳ちゃんにはねぇ~」
ワインは、負傷し倒れていたカリンにも迫っていた。
「はやく助けないと、カリンちゃん、死んじゃうよ~」
「フンッ!『天上天下唯我独尊』!」
梅佳の拳に赤い光が灯るや否や、膨張していく。
「貴様は卑劣なことしか思いつかぬようじゃな……くらえっ」
ドゴンッという爆音とともに、かつてロキとヘスティアを一瞬で消し去った赤く光る球体がディオに炸裂する。
赤い球体がディオにぶち当たり、爆風と火炎がディオの周囲を包み込んだ。
だが──。
「フゥ……なかなかの……攻撃だねぇ~」
爆風と火炎がおさまり、再び姿を現したディオはその法衣の一部が燃えただけで、他は無傷であった。
最後までお読みくださりありがとうございます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。次話の第79話も間もなく更新しますので、お時間がございましたら、ぜひ続けてお読みくださいませm(_ _)m
◇語句スキル解説
『酒は百毒の長』
……酒には良い点が全くなく、毒そのものであるということを意味する。対義語として「酒は百薬の長」がある。ここでは、ディオが手品風にワインに似せた猛毒や強酸性の液体を大量に流し攻撃するスキル。
『怒髪天を突く』
……「怒髪、天を衝く」「怒髪、冠を衝く」や省略して「怒髪天」などと書かれる。本来は、激しい怒りで逆立った髪の毛が天(又は冠)を突き上げるという話から、すごい剣幕で怒る様子、または、そのような形相のたとえのことを意味する。ここでは、これ以上ない怒りのパワーにより防御力や回復力を極限まで高めるスキルのこと。梅佳自身、これまでは使用できなかった。ディオの『絡繰り人形』スキルに操られた梅佳が、自らの手でカリンを殺してしまうかもしれない状況で限界突破を果たし使えるようになったスキル。
次話の第79話で第11章が完結します!ぜひそのままお読みくださいm(_ _)m
衝撃の結末が待っています(´;ω;`)




