#77 第76話 袋の鼠・鼠が塩を引く
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!三連休ですね!お出かけされる方もそうでない方も、良き連休をお過ごしください。僕はどこにも出かけません……というか出かけられません。仕事なんです( *´艸`)
では第76話始めます!
ネズミの化身──白鼠が、アレスの方を一瞥すると、アレスも身構える。
カリンに対して穏やかに優しく微笑んでいた白鼠は、打って変わってキッとアレスを睨みつける。
これまでの丁寧な話し口調に似つかわしくない形相で不敵な笑みを浮かべ、スキルを唱えた。
「『ネズミガシオヲヒク』」
白鼠は鞭のようにしなる尾を八の字に振るう。尾の動きにそって空色の美麗な光が舞う。
「さぁ、いきますよ」
白鼠は尾の鞭でアレスの体を強打した。
アレスは左腕で防御するも、尾の鞭に触れた左腕は瞬く間にどす黒く変色していく。
「くっ……」
苦痛に顔をゆがめるアレス。
「一発で致命傷とはならずとも、小事が積み重なれば大事になりうるのです」
白鼠がさらに尾の鞭を振るうと、アレスの呻き声と共に、尾の鞭がヒットした箇所すべてがどす黒く変色していく。
だが、アレスも負けじと尾の鞭を左手で絡めとり、白鼠の攻撃を封じた。
「さすがですね。でもチェーンデスマッチのようにはさせませんよっ!『フクロノネズミ』!」
白鼠がスキルを唱えると、法衣のフードを左手で掴みとる。
フードは巨大な風船のごとく膨らむ。白鼠はその巨大な白い袋を左腕で抱えるようにもった。
白鼠はその袋をアレスの頭上に向けて放り投げる。
「むっ!?」
アレスは警戒するも時すでに遅し。
白い袋はアレスの頭から全身を包み込んでいった。
「これで終わりです」
白鼠が静かに言い放つと、白い袋は真空パックのごとくきつくアレスを締め上げていく。
尾の鞭を掴んでいたアレスは、左腕の力が入らなくなり、手を離す。
口もふさがれウゥーウゥーと唸るだけになったアレスに向けて、白鼠が追い打ちをかけ再び尾の鞭を打つ。
すると、尾の鞭は白鼠の手元から離れ、アレスの体に袋の上からまとわりつき、さらに締め上げていった。
白袋と尾の鞭で締め上げられていくアレスの体が半分程のサイズになったところで、パーンと風船が割れたような音とともに袋と尾の鞭が緩み、ドサっと地に落ちる。
袋の隙間からアレスのものと思われる光の粒子が漏れ出て、宙に昇っていった。
「た、倒したの!?」
カリンが不安げに声をかける。
白鼠は、また優しい顔つきに戻り、カリンのもとへと歩み寄って片膝をついた。
「カリン様、ひとまずあの者は倒せました」
「あ、ありがとう……あ、あの……」
「どうかなされましたか!?」
「も、もうひとり敵がいるんだけど……」
「あっ……、カリン様、申し訳ありません。もう一人の方にはおそらく私は勝てません」
「えっ!? ど、どうして!?」
カリンの問いに対し、白鼠がしどろもどろに答える。
「……えっと……単純な力の差もあるのですが……なにより……あのお方は豊穣の神バッカスの末裔ということで、私の主、大黒天と同種の神なのです。私は豊穣の神には逆らえぬ性なのでございます……」
「そ、そうなんだ……」
アレスを倒せたことでほっとしたのも束の間、残った敵を倒せないとあっさり言った白鼠にカリンはがっかりする。
すると、パチパチパチという拍手がカリンの耳に入った。
「いやいやいや。そこの鼠男君。アレスを倒したスキルもあっぱれだけれど、私には勝てないことを分かっているなんて、立派すぎて惚れちゃいそうですねえ~」
カリンは、ディオの皮肉めいた言葉に悔しさを覚えるも、その気持ちはすぐに恐怖心へと変わっていった。
──こ、これからどうすればいいの……。あの敵を私ひとりで倒す? 早く梅佳ちゃんも助けなきゃだし……。
「水無月霞凜ちゃん、だったね? 僕は豊穣の神ディオニュソスの末裔。バッカスの末裔とは言わないでね~……でさぁ、ふたりで僕のペットになる話、まだいきてるけど~どうだい?」
「ふ、ふたり……ペット……」
──梅佳ちゃんとあたし? ペットになるなら梅佳ちゃんを殺さないっていうこと!?
「そうそう、梅佳ちゃんの意見も聞かないとだよねえ~じゃぁ、梅佳ちゃんを治してあげないとねえ~」
「『カキガアカクナレバ、イシャガアオクナル』」
ディオは椅子に腰を掛けたままワイングラスをテーブルの上に置き、長いスキルを唱える。
右手には真っ赤に売れた柿が出現する一方、左の人差し指を梅佳に向けた。
指先から赤い光が放たれ、梅佳を包み込んでいく。
ディオは続けざま、左の掌を開き、再び梅佳の方へ指しながらスキルを重ねる。
「『カラクリニンギョウ』『イトヲヒク』」
すると凄まじいスピードで、今度は左手の五指から白い光が放たれ、梅佳の頭、両手、両足に糸のように絡みついてからすぐに消えていった。
まもなく梅佳が意識を取り戻しパチッと瞳を開く。止血しただけであった左腕も一気に元に戻り、体の傷も消えていた。
むくっと梅佳が立ち上がる。
「梅佳ちゃん!!!」
梅佳が立ち上がったのをみるや、カリンは驚きと歓びの混ざった声で梅佳の名を呼ぶ。
「き、貴様……何の真似だ? わらわを治癒するとは……」
梅佳はカリンの方ではなく、ディオの方へ向き、声を荒げた。
「ふふふ。君を治しても僕が平気なことくらい、君なら分かっているでしょう~?」
「……くっ。たしかに、わらわが貴様らに感じた脅威はアレスのものではなかったようじゃな……今ならはっきりとわかるぞ。貴様、アレスより相当強いのぉ……」
「バレちゃいましたねえ~。証拠もお見せしましょうか」
そういうと、ディオは黄金のV字の胸当てを上方へ少しずらした。
「紋章が三つ……」
カリンが声をもらす。
ディオの胸で三つの紋章が青白く光る。
「……少なくともアレスより三倍は強いということじゃな……」
「ふふふ、どうだろう、三倍ですむのかねえ~紋章って模様が複雑であるほど強いんだ、まぁ、角の数で判断してもいいのだけど、気づいてたかな~? ちなみに、僕みたいに紋章の数が多い者は少ないんだよ~」
「……アレスやハーデスよりも強いってこと……」
顔をひきつらせたカリンがごくっとつばを呑みこむ。
「ふんっ。わらわを治したことを後悔するがよいわ」
梅佳は臨戦態勢に入り、スキルを唱えようとした。
その矢先──。
「先走らない方がいいよ~、さすがにただで回復させるわけないでしょ~がっ」
ディオは右手にのせていた真っ赤な柿をテーブルの上にほり投げ、そのまま右頬から頭部を支える。そして、左手を梅佳に向けて開き、指をいくらか動かした。
「『絡繰り人形』ってスキルはね、対象者を傀儡のように操れるんだよねえ~だから、梅佳ちゃんはもう僕のペットになったも同然なんだよねえ~」
「なっ!?」
梅佳は自身の体の自由がきかなくなっていることに気付く。
「き、貴様っ……」
梅佳が叫ぶも、ディオの指が動くたび、梅佳の体はその意思に反して動いてしまうのだ。
「ふふふ。踊ってみるかい?」
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◇語句スキル解説
□『鼠が塩を引く』
……小さいことが積み重なって大きな成果になること、または、ものが少しずつ減っていき、いずれなくなってしまうこと、という意味。「鼠が塩を嘗める」ともいう。ここでは白鼠の鞭の尾での攻撃やその他、弱い攻撃を積み重ねやすくし、大ダメージにつなげやすくするスキルのこと。
□『袋の鼠』
……袋に入れた鼠が逃げられないことから、どうしても逃げられない状態を意味する。「袋の中の鼠」ともいう。ここでは白鼠の法衣のフード部分を切り離し、袋状へ巨大化させ、敵を中に入れて締め上げるスキル。単発でも袋に入った敵は身動きが取れず、話すこともできず、やがて光の粒子となって消えていくという攻撃スキル。
□『柿が赤くなれば医者が青くなる』
……柿が赤くなる秋は、体に良い食べ物も豊富で、天候も良いことから病に見舞われる人が減り、反対に、医者が商売にならずに青ざめる、という意味である。似たことわざは多く、他に「蜜柑
(みかん)が黄色くなると医者が青くなる」「柚が色づくと医者が青くなる」「橙が赤くなると医者が青くなる」などがある。ここでは、ディオの回復スキルのこと。
□『絡繰り人形』
……本来、ぜんまいや糸、水力等の仕掛けで動く人形のことを意味するが、転じて、人の意志のままに動く人のことも意味する。ここでは、敵を操り人形と化すスキルのこと。ちなみに、豊穣の神であるディオは植物や農作物、農業、食べ物にまつわる文字を使ったことわざ慣用句などをスキルとして使うところ、絡繰り人形の歴史は古く、素材が木などの植物であることからディオのスキルとなっている。
□『糸を引く』
……表に出ず、裏で自分の思い通りに人を動かすことを意味する。糸を引いて操り人形を動かすことが語源。ここれは『操り人形』スキルとセットで、操り人形となった敵を自由に動かすことができるスキル。
以上になります。最後まで読んで頂き、ありがとうございます(*´ω`*)




