#75 第74話 亀毛兎角・脱兎の如し
お待たせいたしました!ずっと読んでくださっている方も、初めてお越しの方も是非お楽しみください!
アレスvsカリン&梅佳のバトルも佳境を迎えます!
第74話、始めます(*´ω`*)
梅佳と雑兵アレスたちの攻防がつづく。
後方から眺めていたアレスは、梅佳に疲れが見え始めたタイミングで、雑兵たちに向けスキルを唱えた。アレスは剣を構えたまま、左の掌を前方へかざす。
「『ガムシャラ』」
アレスの五指から放たれた青白い光が、雑兵アレスたちにまとわりつくや否や消えていく。
すると、これまでアレスを守ることに重きをおいていた雑兵アレスたちが、一転、梅佳を狙って攻撃をし始めた。文字通り、我武者羅に──。
「くっ……」
──雑兵の殲滅より、アレス本体を撃つべきじゃな……。
「『天地神明』『天上天下唯我独尊』」
梅佳が自身の最高峰スキルを唱えると、全身が赤い光に包まれ、その光は梅佳の右拳に収束していく。
梅佳は雑兵アレスたちの攻撃をかわしつつ、レーザーランチャーで狙撃を続ける。アレス本体を攻撃する隙をうかがいながら──。
だが、多勢に無勢。アレス本体を攻撃するどころか、少しずつ、梅佳は雑兵アレスに押され始めた。
ブシュッ、ザクッっと雑兵アレスたちの剣が梅佳を切りつけ、梅佳の全身に切創が増えていく。
「くっ。このままでは埒が明かぬ……」
梅佳が顔をしかめたのを見たカリンが回復スキルを唱える。
「『山紫水明』!」
「カリンっ! 回復より、攻撃サポートじゃ!」
「りょ、了解っ……」
──攻撃サポート……。な、なにがいいの……。
「カリン! ネズミはまだ出せぬか?」
「う、うん……ハーデスとのバトルの後、一度も出せてない……」
「ならば、他のスキルじゃっ!」
「う、うん……」
──たくさんの敵を一斉に攻撃できるスキル……。
カリンは地底世界のレジスタンス「ONZ」のヘラから夢の中で助言を受けた後、小動物に関する語句スキルを追求していた。
ハーデス戦後の訓練で一度も『窮鼠猫を噛む』スキルを発動できずにいたため、他の小動物に関するスキルに磨きをかけていたのだ。
──よしッ! あれだッ!
カリンは両の掌を胸の前で合わせる。掌を花のつぼみのごとく開くと、その中から水色の玉が大量に噴き出す。
「『キモウトカク』『ダットノゴトシ』」
カリンが人差し指で雑兵アレスたちに狙いを定めると、水色の玉は一斉にカリンが差す方へと飛んでいく。
水玉は空中でぶよぶよと変形し始めると、角を生やした空色のウサギへと変形していった。
「うさちゃんたち、アレスを倒してッ!」
カリンが叫ぶ。
梅佳に襲い掛かる雑兵アレスたちに、大量の一角兎が次々と、語義通り脱兎のごときスピードで突進していく。
兎といっても、『亀毛兎角』スキルで生じた、現実には存在しない凶暴なモンスター同然の一角兎。
突進して角で攻撃したり、鋭い牙で噛みついたりと、雑兵アレスの動きを封じていく。
ドゴンッ、バゴンッという衝突音と、ガブッという噛みついたときの音が激しく響き渡った。
「カリンっ! なかなか良いスキルじゃ!」
──この調子なら、アレス本体を撃てる!
カリンの放った空色のウサギたちは、雑兵アレスが出現する度に倒していく。いわゆるリスポーンキルを続けていた。
梅佳の予想通り、次第にフィールド内は見通しが良くなり始めたのだが、先手を打ったのはアレスの方であった。
「『兵貴神速』!」
梅佳とカリンがアレスの声を耳にした刹那、アレスの神速の斬撃が発動する。
斬撃は、梅佳ではなく、カリンを襲った。
バトルの才能という点において、アレスも梅佳と同様、抜きん出ていた。
アレス自身も『兵貴神速』スキルを発動させるタイミングをうかがい、そして、見逃さなかったのだ。
ズバンッ──。
「きゃあっ」
カリンは全身にアレスの斬撃の風圧を感じる。シャボンで減速されたとはいえ、カリンにとっては避けられないスピードと衝撃であった。
「カリンっ!」
梅佳がカリンを助けようとするが間に合わない。
トカゲの尻尾が宙を舞う。
カリンがおそるおそる閉じた目を開く。切断されたトカゲの尻尾が宙に舞うのがカリンの目に入った。
カリンと梅佳がトカゲの方に目をやると、新しい尻尾が生えていた。
だが、ふたりが安心したのも束の間、カリンの顔はすぐに青ざめる。
カリンの目の前からアレス本体を結ぶ直線上に何もない、シャボン玉も雑兵アレスも一角兎も──。ただ剣を構えるアレスの姿だけがカリンの目に入ったのだ。
「『兵貴神速』!」
アレスの第二撃がカリンを襲う。
「カリンっ」
梅佳がアレスとカリンの間に飛び込もうとするも、減速していない斬撃ゆえに間に合わない。
ズバンッ──。
カリンはスキルを唱えようとしたが間に合わず、斬撃の風圧で後方に吹き飛ばされた。
再びトカゲの尻尾が宙を舞う。
だが、今度は──。
「カリンちゃ~ん、ダメだよぃ。攻撃力が凄すぎて、尻尾がもう生えてこないよぃ……」
「えっ!? も、もう!?」
「ごめんだよぃ。ここまでだよぃ……」
言いながら、トカゲは消えていった。
アレスは嘲り笑う。
「ふはははっ。あの爬虫類、意外に底は浅かったな。ふたりまとめてあの世行きだ。直線上に並んでくれるとはな」
「させぬっ!」
梅佳はカリンとアレスの間に入り、真っ赤に染まった右拳に力を込めて構える。
「くらえええっ!!!」
梅佳は十分に溜めてきた『天地神明』『天上天下唯我独尊』のパワーを右拳にのせ、アレスへ放つ!
「『兵貴神速』!」
梅佳の攻撃を意に介さず、アレスも三度目の斬撃を放つ!
ドゴンッ──。
宇宙船や飛行機が墜落、衝突したような、凄まじい爆音とともに、ふたりの周囲を火炎と煙が覆う。
バリンッとアレスの剣が折れる音も響く。
フィールド内に立ち込めた煙が次第に消え、カリンの目にふたりの姿が映る。
梅佳の放った赤い光の玉は、アレスの右ひじから下を吹き飛ばしただけでなく、右脇腹までえぐり取っていた。
燻る紅色の残り火が、依然、アレスの肉体をジューと焼いている。そして、紅の火炎はアレスの折れた剣までも焼き尽くしていく。
だが──。
梅佳の方も無傷では済まなかった。左肩から真下へ、斬撃による傷跡が入っていた。
縦一直線の傷跡から血が噴き出す。
「梅佳ちゃんっ!!!」
カリンが駆け寄ろうとする。
「カリン……来るでない……」
梅佳は振り向かず、右手を後方へ伸ばしカリンを制止する。
──くっ……相殺はできなんだか……カリンが無事ということは……貫通はしておらぬな……じゃが……かなりの深手じゃの……。
「『血となり肉となる』」
梅佳は片膝をつくと、弱々しい小声で、自身に回復スキルを唱える。
──まずいのぉ……。
「あ、あたしも『山紫……』」
「ちがう……カリン」
「えっ!?」
「攻撃じゃ……」
最後までお読みくださりありがとうございます(´;ω;`)ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております!かなり励みになっています!今後ともよろしくお願い申し上げますm(_ _)m
□語句スキル解説
『我武者羅』
……目的に向かってひたすら打ち込むという意味。ここではアレスが召喚した大量の雑兵アレスたちにターゲットへひたすら攻撃させるスキル。
『亀毛兎角』
……現実にはあり得ないもの、という意味。毛の生えた亀、角をもつ兎がこの世にありえないことから転じて実在しないものをさす。他に『兎角亀毛』『亀毛蛇足』『烏白馬角』という四字熟語もあり、同義である。ここでは凶暴な一角兎を大量に生じさせるスキル。
『脱兎の如し』
……兎の逃げ足が速いことから、素早く行動して敵を倒すことを意味する。ここでは『亀毛兎角』で召喚した一角兎たちの速度をアップさせるスキル。
ここまで読んでくださる方々へ、重ねて御礼を申し上げますm(__)m
梅佳が大ピンチ、カリンは『窮鼠猫を噛む』スキルで鼠を召喚できるのか!?
次話もお楽しみに(*´▽`*)




