#74 第73話 天馬空を行く・千軍万馬・堅甲利兵
大変お待たせしてしまい申し訳ありません。文章の方はかなり前に三話分は完成していたのですが、8月はかなり忙しかった上に、挿絵がなかなか完成しませんでしたm(_ _)m8月の更新が少なすぎたので今月以降取り戻せるようがんばりたく思いますm(_ _)m
前話までのかんたんなあらすじ──カリンの誕生日会の最中、襲撃してきた地底人アテナ・テア、アレス・レア、ディオたちに、ただならぬ脅威を感じた梅佳は皆を逃がしたが、アレスの斬撃を前に絶体絶命のピンチに陥る。だが、戻ってきたカリンのスキルで九死に一生を得た。
では第73話、はじめます(*´ω`*)
言葉を失っている梅佳の左腕がないことに気付いたカリンは、一瞬動揺するも、梅佳に近寄り、回復スキルを唱えようとした。
「梅佳ちゃん、腕、治すよ」
「いや、治癒している暇はない。止血はすんでおる。大丈夫じゃ」
「片腕なら、なおさらピンチじゃん。梅佳ちゃん、あたしも闘うからっ!」
言いながら、カリンはトカゲの傍に近寄り、トカゲの顔を覗き込む。
「とかげちゃん、ありがとね」
トカゲは大きくつぶらな瞳でカリンをじろっと見ながら、少年のような声で答えた。
「カ、カリンちゃん……尻尾、切られたよぃ~」
「痛いの?」
「ううん。痛くはないよぃ。新しいしっぽも生えたし。でもアイツ、ムカつくよぃ!」
「あたしたちがやっつけるから、アレ、よろしくね」
「うい。まかせとかげよぃっ!」
カリンとトカゲのやり取りを傍観していた梅佳がカリンに声をかける。
「カリン……礼を言う。そなたが戻ってこなければ、わらわはここで死んでいたかもしれぬ」
カリンは悲しげな表情で梅佳を見つめた。
「梅佳ちゃん……どうしてみんなを逃がしてひとりで闘おうとするの?」
「いや、わらわも勝機がないなら闘うつもりはなかった……隙を見て一度退散すべきじゃと思っておった」
「そんなに強いの?」
「これまでとは次元が異なる強さじゃ……この場にいた五人で束になっても勝てぬと判断したのじゃ」
「ひとりで逃げきれる自信はあったの?」
「まぁ、それは、その……」
カリンの問い詰めに梅佳はたじろぐ。
「五分五分じゃろうな……」
「ダメじゃん! 逃げるなら一緒に逃げる! 闘うなら一緒に闘うもん! あたしは友達を誰も死なせたくないもんっ!」
「……格が違うのじゃ……これまでの敵とは……」
「だとしても……あたしは絶対諦めない! 友達を見捨てて助かっても嬉しくない」
「……」
──カリン……出会ったころとは別人のようじゃな……。
「一緒にパンケーキ食べるって約束、破ったらハリセンボンだからね」
「そ、そうじゃな……約束は……守らねばの……」
「そのために絶対勝つの!」
「……」
──絶対勝つ……か。人間とは根拠のない自信をもつ不思議な生き物……。かつては馬鹿にしたもんじゃったが、この想いが……予想をはるかに超えた力を引き出すのじゃったの……。
──カリンがどこまで意図していたのかは分からぬが、わらわより先に敵の攻撃を攻略したのは事実……。心身ともに大した成長じゃ……。
カリンの想いに応えるように梅佳も前を向く。その表情がきりっと引き締まる。
「カリン、道は険しいぞ」
「うん」
──カリンのシャボン玉はスキルを無効化するが、さすがにあの斬撃は完全に無効化しきれず、斬撃の威力や速度を弱めるにとどまったのじゃな。じゃがトカゲのしっぽ切りで、わらわのダメージがトカゲに転嫁されたということか。
──そして、わらわたちはしばらく攻撃を受けないですむということじゃな……勝機を見いだせるかもしれぬ。
「カリン! 基本的にわらわが攻撃するゆえ、そなたにはサポートを頼みたい」
「うん! サポートする!」
「隙を見て、フィールドを先ほどのシャボンでいっぱいにしてくれぬか」
「了解っ!」
カリンと梅佳がやり取りしている間、アレス・レアは微動だにせず考え込んでいた。
──斬撃の威力があの玉で弱まったのは分かったが、あの爬虫類?……厄介だな。俺の斬撃は弥生梅佳の足にヒットしたはずだ。無限に防御できるのか? もう一発、確かめるか。
合理的な思考をする地底人らにとって、シャボン玉はまだしも、トカゲは不気味さすら感じさせるものであった。
そのときアレスの後方から声が聞こえる。
「ア、レ、ス、く~ん、二対一になっちゃってるけど、大丈夫かえ~? 手伝おうか~?」
「いや、ひとりで大丈夫だ」
アレスが答えると、ディオは少しつまらなさそうな顔をし、おどけたように言う。
「そうか~い。じゃぁ、僕の手が必要になったらいつでも呼んでねぇ~」
ディオはグラスを片手に、腰を深く掛け直し、足を組んだ。左の掌にはまた葡萄をのせている。不敵な笑みを浮かべながら──。
──あっさり終わると思ってたのにね~面白いものが観れそうだねぇ~。猫耳少女のコンビか~。あぁ~地上の人類って実に興味深い生き物だねぇ~。殺さずに飼いたいなぁ~。
アレスが再び身構える。
「水色の猫耳、貴様は水無月霞凜だったな? 先に貴様を葬ってやろう。オレは軍神アレスの末裔、アレス・レア。冥土の土産に名前は教えておいてやる」
アレスは不気味な爬虫類を出現させたカリンを標的に切り替え、剣先を向ける。
「させぬっ!『血の雨を降らす』っ!」
梅佳が先手を打つ。梅佳の左腕、肘から下に、この時代における最先端の銃器──ロケットランチャーならぬレーザーランチャーが生じる。
梅佳は右手を添えてアレスを即座に狙撃した。
ドゥーン──。
レーザーの爆音とともに、銃口から強力なレーザービームが放出される。
「ちっ」
アレスは右後方へステップを踏み、梅佳の放ったレーザービームをひらりと避けた。
──水無月霞凜を先にやる方が困難か……弥生梅佳に攻撃する隙を与えることになるな。
「『水泡に帰す』っ!」
その隙をついてカリンが再びシャボン玉を大量に生じさせる。
梅佳もスキルを追加する。
「『韋駄天』『テンバクウヲユク』」
梅佳が目にもとまらぬスピードでフィールドを移動し始める。
──アレスは斬撃の連発もできぬようじゃな。タメが必要なら斬撃を繰り出せぬよう、かく乱じゃっ! 万一放たれても、シャボンで減速されるし、トカゲもおるっ!
梅佳は、『韋駄天』スキルでただ速くなっただけではなく、『天馬空を行く』スキルで自由奔放に動き回る。
アレスの目には梅佳が分身したかのように映っていた。
「ぬうっ……なかなかのスピードだな。ならば……」
アレスも応戦すべくスキルを唱える。
「『ケンコウリヘイ』『セングンバンバ』」
すると、アレスの前方に、二十体ほどのアレス──と似た兵士が現れる。
「あわわわ……う、梅佳ちゃん、あれなに……分身の術?」
「いや、違う。姿形は似ておるが、アレスらに感じた脅威は感じぬ。胸の紋章もないしの。力の劣る雑兵を多数使って軍隊のような陣形を組むのじゃろう……アレス本体は最後尾で大将のごとく構えておる」
「二十対二のバトルになるってこと?」
「数の上ではそうじゃが、雑兵どもはわらわの敵ではない。すぐに蹴散らせる」
「そうなんだ!」
少しほっとするカリンに、レーザーランチャーを携える梅佳が続けた。
「あくまで二十体ですめばの話じゃが……」
「えっ……!? どういうこと!?」
梅佳は黙ったまま再びフィールド内を俊敏に動き回る。
左腕に出現させたレーザーランチャーで雑兵アレスを撃ちまくる。この時代の最先端技術が詰まったレーザーランチャーは頗る軽いが、威力は凄まじい。
梅佳の姿を目で追えないカレンにとっては、予測できないレーザービームが四方八方から放たれているように見えていた。
ドゥーン、ドガンッ、ドゥーン、ドガンッ、ドゥーン、ドガンッ──。
梅佳のレーザーがヒットする度、雑兵アレスは爆音とともに消えていく。
「梅佳ちゃん、すごいっ! どんどん敵が消えてくっ!」
カリンが感嘆の声をあげる。
雑兵アレスたちは盾や刀で防ごうとするのだが、梅佳の放つレーザーの威力が遥かに上回っていた。
それでも、雑兵アレスは、消えても消えても次から次へと現れ、総数は一向に減らない。
梅佳は壁にもたれながら、体勢を立て直す。
「やはり、そうくるか……根競べじゃな……」
最後までお読みくださりありがとうございます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております!
□語句スキル解説
『天馬空を行く』
……天馬が天空を自由に駆け巡るという意から、着想や行動が自由奔放であることを意味する。ここでは梅佳が自由奔放に動き回り敵を撹乱しやすくするスキルのこと。人工知能同士のバトルにおいては、撹乱しようとしても、動きがパターン化した場合読まれやすくなるが、このスキルを使えば、敵に動きを読まれにくくなる。
『堅甲利兵』
直接的には、堅固な鎧と鋭利な武器をもった兵のこと、きわめて強い兵力を意味する。ここでは、アレスが自身にそっくりな雑兵を出現させ、強力な軍隊をつくるスキル。雑兵たちの力は、アレス本体と同レベルではないが、元人間の地底人らと遜色ない強さはもっている。梅佳が雑兵アレスを脅威に感じなかったのは単に梅佳が強いからである。
『千軍万馬』
……この上なく大きな軍隊のことを意味する。ここでは『堅甲利兵』スキルで出現させた雑兵をさらに増やせるスキル。アレスは一度に出し切らず、倒されたら追加する形をとっているが、これはフィールドの広さにあわせ最適な人数を二十と判断したからである。何人まで出現させられるかはアレス本人も知らない。
以上になります!
次話予告です♪
サポートにまわっていたカリンが値千金のスキルを発動させる!?
第74話 亀毛兎角・脱兎の如し
お楽しみに!
いつもここまで読んで頂き、感謝しておりますm(_ _)m




