#71 第70話 両手に花・甘味処
お待たせしすぎて申し訳ありません。
さっそくですが第70話始めます!
──地底人アテナ、アレス、ディオたちが地上への出陣を企てていた頃、地上は西暦で二〇五四年の六月六日を迎えた。
ヘパイストス戦後、勇希たちは元相棒のAIであることを伏せていたが、その他の地底世界の情報はすべて伝えあい、皆で共有することとなった。
そして、地底人の来襲に備え、みなバトル訓練に励む。もっとも、文月紫水、長月柊龍が加わったこともあって、これまでより高度なスキルを用いた厳しい訓練を日々重ねていた。
だが、二〇五四年六月六日──。この日は、カリンのほか、萌莉、美伊、梅佳、そして睦月葵大の五名は、訓練をお休みとし、駅近くにあるスイーツ店『神甘味処』に向かっていた。
六月六日はカリンの誕生日だったのだ。
ただ、カリンだけは誕生日会であることを知らされていない。
萌莉は「クラスメイトとして」というよりは「母タマヨリとして」ささやかながらカリンのサプライズ誕生日会を開こうとしていた。
五人は駅近くの広場を歩いている。
すると、萌莉が前方にあるビルを指しながら皆に告げた。
「あのビルの二十階にあるお店だよ~」
皆が萌莉の指さす方へ目をやる中、美伊が付け加える。
「あのお店は全国で指折りの名店ですよね。萌莉さんと何度か行きましたけど、ほんとに美味しいスイーツのお店ですわ」
「うんうん、私は日本一だと思ってるw 梅佳ちゃんとカリンちゃんは初めてだよね? 葵大くんも初めてかな?」
「そうじゃの」
──わらわは、学校以外で他人と外食すること自体、初めてじゃがな……。
「僕も初めてです……」
葵大は少しうかない顔でおどおどしている。
「うん! あたしも初めてっ!」
──わくわく、どきどき……。
カリンは喜色満面でスキップしながら、お店のあるビルの方へ一人だけ先に駆けていく。
カリンの後ろ姿を優しく見守る萌莉の顔は、母の顔になっていた。
──猫としては一歳なのよね~。人間なら十七歳くらい? でも高校一年生だから十六歳か。
──久愛さんや洸さんたちにも祝ってもらいたかったんだけどね……まだみんな私の記憶が戻っていないし……。このメンバーがちょうど良いよね……。
萌莉は美伊と梅佳と葵大の三人に改めて礼を言う。
「今日はカリンの誕生日会に参加してくれてありがとう♪」
「くるしゅうない。誕生日会とやらを体験してみるのも悪うないと思うてのお」
──敵がいつ攻めてくるやもしれぬから、カリンたちだけで行動するのは危険じゃしのお……。
「いえいえ、どういたしまして」
美伊の言葉の後に、葵大がおずおずと続けた。
「も、萌莉さん、ぼ、僕は見た目が男なのだけど、いいのかな……?」
「ん!? いいのかなって???」
少し驚いた顔で萌莉が葵大に目をやる。
「い、いや、そ、その……なんというか……僕まで参加しても良いのかなと……」
梅佳が割って入る。
「そなたはAIタマなのであろう?」
「う、うん、そうだけど……今は男子の姿だし……」
「ん!? 意味が分からぬ」
「なんだか男子ひとりに女子が四人もいると周りの目が気になって……」
「そんなことか。そなたはAIタマのとき、おなごだったのであろう?」
「い、一応、設定上はそうなんだけど……」
「なら良いではないか。その時の記憶もそのまま残っているのじゃろ? 心はおなごということじゃ。見た目や性別なんぞ気にするでない」
「……」
「傍目には両手に花、花で良いではないか。周りの目を気にするなどという人間の悪癖まで真似る必要はなかろう!?」
梅佳はニヤリと笑う。
「あはは……たしかに梅佳さんの言う通りなんだけど……」
苦笑いをつづける葵大に、萌莉が真剣な眼差しで語りかける。
「葵大くん、いえ、AIタマ。私ね、AIタマにはむしろ参加してほしかったのよ。私が母として娘の誕生日をお祝いする日がくるなんて、すごいでしょ!?」
「あぁ……たしかに……あのタマヨリさんが娘さんの誕生日祝いをするって考えたら、なんだか感慨深いね」
「ね! そう思うでしょ!? ということで! 今日はみんなで楽しもぉ~」
萌莉と葵大の会話を傍で聞いていた美伊の脳裏に、かつての相棒である久愛のことがよぎる。
美伊はちょっぴり悲しげな表情を浮かべた。
──萌莉さんとAIタマ……いいなぁ……うらやましい……。久愛さんに打ち明けられる日がくるといいけど……。
それを察した梅佳が話題を変えるべく美伊に問いかける。
「ところで美伊、今から行くお店はスイーツ店とのことじゃが、目玉メニューは何じゃ?」
「あ、えと……基本的に何でもおいしいのですけど……和洋折衷メニューがウリのお店なので、あんバターパンケーキがおすすめかなぁ……」
「ほお……あんバターパンケーキ……あんことバターの組み合わせかっ!? うまそうじゃのお!」
「絶品ですわ!」
「あ、ごめ~ん、梅佳ちゃん、美伊ちゃん、今日は誕生日用のデコレーションケーキを予約しちゃったんだ。だからみんなケーキを食べて! 飲み物は飲み放題だから」
「あ、そうでした。ごめんなさい」
「わらわはパンケーキもデコレーションケーキも食べるのは初めてゆえ、どちらでもよいぞ。楽しみじゃな」
──たまには皆、息抜きも必要じゃろうし、何より、AIクウの記憶が戻ってからの美伊は少し元気がないしのお……。
一足早くビルの一階ロビーに着いていたカリンは、空中に浮かぶホログラムのテナント案内を眺めている。
「どのお店だっけ?」
カリンが追いついた萌莉たちの方へ振り返り尋ねる。
「そこよ、赤いローマ字の……」
萌莉のいう赤い字の店名をカリンが読み上げる。
「かみ……かみ……?」
「神甘味処よ~大昔は漢字で「甘味処」と書いて「あまみどころ」って読んでたらしいけどね」
萌莉はホログラムのテナント案内のすぐ前まで歩み寄る。神甘味処の店名を指さし、カリンに説明するのだが──。
「カミカミドコロ!?」
「ちがうっw かみかんみっ!」
「カミカミン、ドコロ……」
皆、笑いをこらえながら親子のやり取りを眺めていた。
「カ、カリンちゃん、英語苦手だもんね。ローマ字読みだから英語より簡単なんだけどなぁ……」
「う、うん……あたし、英語もローマ字も自信がない……」
「まぁ、通称はカミカミだから、いっかw さぁ! 入ろう~」
「ママ~、あたし、パンケーキ食べたい~! パンケーキぃ~」
「カリンちゃん、ごめん、今日は特別メニューを予約してるから、パンケーキはまた今度ね」
「えっ!? 特別メニュー!? 何を注文してるの?」
「内緒!」
「え~」
不満気なカリンを美伊と梅佳がなだめる。
「カリンさん、きっとパンケーキより感動しますわ」
「そうじゃ。カリン、わらわもパンケーキを食べてみたいから、今度一緒に行こうではないか」
「……わかった! パンケーキは今度にする! 梅佳ちゃん、約束だよ!」
「おお、くるしゅうない。約束じゃ」
カリンたちは入り口からビル内に入り、エレベーターに乗りこむ。
この時代のエレベーターは二十階程度ならあっという間だ。
五人が二十階でエレベーターを降りると、すぐに『神甘味処』の店舗があった。
最後までお読みくださりありがとうございます(*´▽`*)
次話第71話は完成済みなので7月24日水曜日にアップします!
※仕事の忙しさだけでなく、第72話まであまり間をあけたくなかったこともあって、第72話の目処が立ってからの更新となりました。待ってくださってた方々本当に申し訳ありません。
ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。Xの方でもフォロワーさんが増えていてうれしいかぎりです。かなり励みになっています。今後ともよろしくお願い申し上げますm(__)m
◇語句スキル解説はありませんが次回予告です!
嵐の前の静けさか、それとも最後の晩餐フラグなのか!? カリンたちがいよいよ敵と遭遇!?その前にAI店員がもてなす近未来のスイーツ店もご堪能あれ♪
第71話 血路を開く・天涯地角
お楽しみに!!!(*´▽`*)




