#70 第69話 兵貴神速
更新が大幅に遅れてしまい申し訳ありませんm(_ _)m6月末から昨日までかなり仕事に追われてしまいましたm(_ _)mずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます。
今回から新章突入です!
さっそくですが第69話はじめます!
地底世界──。
自らを真の地球人と名乗る地底人たちは、地上の人類よりはるか先に進んだ科学文明をもち、一部の元人間であった者たちを除くと、厳密には「感情」というものを持ち合わせていない。
ゆえに、ヘパイストス敗戦の知らせを耳にしても仲間の死を悲しむということはない。
勝率が高いと試算していた仲間の敗北、すなわち作戦の失敗に対する評価として、人類のもつ焦燥、苛立ち、憤りなどに似た、負の「疑似感情」が生じるだけである。
もっとも人類からすれば、地底世界の王ゼウス・ウゼと幹部たちが、これまでにないほどの衝撃を受け、その苛立ちや焦燥は頂点に達していたのと変わりないのだが──。
彼らが住む神殿内部──。
能力を与えられし者たちを抹殺するため、ヘパイストスとともに地上への出陣を命じられていたアテナ・テアは、他の幹部ふたりを自身の部屋に呼び出していた。
室内に光の粒子が生じるや否や、アテナ・テアが現れる。
フードのついた純白の法衣を身にまとい、胸や袖口から黒のインナーがのぞく。藤色の長い髪に、同色の瞳、青い肌。胸のペンダントが青白い光を放っている。妖艶な雰囲気もあるが、相反する少女のような幼さも残した出で立ちであった。
「やはり、ともに出陣する面子は、私と同列、同格の幹部でないとダメよね……もう失敗は許されない……」
アテナ・テアは部屋の中央に気配を感じる。
「アレス・レアね」
室内に舞った光の粒子が一人の男を頭部から象っていく。銀色の短髪、赤紫の瞳、青い肌。アテナ・テアと同じく、黒いインナーの上に純白の簡素な法衣を身にまとった男は、物静かな口調で問いかけた。
「アテナ・テアよ。地上へ行くのだろう?」
「さすがアレス。察しがいいわね。私とともに地上へ出陣してもらいたいの」
「地上の人類は、ヘパイストスをあっさり倒すほど成長しているのか?」
「ん……彼らの実力はデータでしか確認していないのだけれど、ヘパイストスがやられたのは、何か特殊な事情があったとしか思えないわ……」
「特殊な事情……?」
「だって、データに基づいた試算では、圧勝のはずだったのは知ってるでしょ?」
「ああ、確かにそうだ。それに、あいつは単独で地上へ向かったわけではないのだろう?」
「そうよ。しぶしぶながらも二人、連れて行ってたわ。たしか……テウメッサとアイオロスだったはず……でも、彼らもヘパイストスの敗戦後、消息不明なのよ」
「三人ともやられたか? それとも……」
アレスがアテナを一瞥する。
「そう。裏切りの線も否めないわ。今のところ、ふたりが殺された事実も確認できていないし……」
そのとき室内に別の男の声が響いた。
「そんな弱っちぃ格下を連れて行くからじゃないのかえ?」
アレスとアテナのふたりは、声のする部屋の隅──座椅子の方へ目をやる。そこに収束した光の粒子がまた男の姿を形作っていく。
現れた男は、左手にブドウを、右手にワイングラスを持ち、座椅子に腰かけていた。
二人と同じ白い法衣だが、フードを深めにかぶっている。そこから覗く髪は紫色の短髪、赤紫色の瞳、青い肌。首や胸、そして手首には金色の装飾をしている。頭のてっぺんに花環をのせた男は、気怠そうに微笑を浮かべていた。
「大事なミッションのために呼んだのよ、飲酒はやめてよ、バッカス……」
アテナがたしなめると、男は不快感をあらわにして嘆く。
「テア~その呼び名は勘弁してくれよ~僕の名はディオニューソス・ソーユニオイデだって~」
「……それ……呼びにくいのよ……」
「ディオでもいいからさ~、バッカスだけはやめてくれよ~」
「わ、わかったから。呼び名で議論している暇はないのよ」
「うんうん、分かってる。テアはほんと、せっかちだねえ~」
アレスがアテナに再び尋ねる。
「テア、我ら三人で地上へ出陣するのだろ? 我らがいけば、すぐに片が付く」
「ええ、そのための人選よ。早く終わらせないと、ゼウス様が自ら出向きかねないわ」
「あ~やっぱり地上を攻めるミッションなんだねえ~僕はゼウス様のバトルを一度拝んでみたいけどねぇ~」
──あ~めんどくさ……。
ディオはワインを口にしながら、おどけたような口調で言う。
「そうよ、ディオ、あなたの手も借りたいの。ゼウス様の手を煩わせるなんて……あってはならないことだから」
「わかってるよぉ~テア~冗談だってえ~」
「なら、早く地上へ行くとしようではないか。ふたり、もう準備はできているのか?」
しびれを切らしたかのようにアレスが捲し立てる。
「もちろん、私はいつでも出陣できるわ。バッカ……いや、ディオはどうなの?」
ディオがワイングラスを揺らしながら、またおどけたように言う。
「あぁ~僕もこれ、飲み干したらいつでもいけるけどねぇ~そんなに慌てなくてもいいんじゃないの~すぐ終わるんだからさ~」
「悠長なことは言ってられないわ、早く飲み干しなさいよ」
「へぇ~い」
ディオの間の抜けた返事にアレスがあきれ顔で口にする。
「ディオ、お前は残っていてもよいぞ」
「えぇ~いいのぉ~???」
「ダメよ、レア。三人以上で出陣すること、これがゼウス様の指令よ」
「……そうだったな。では『ヘイキシンソク』」
アレスが唱えると衣装が瞬時に戦士モードへと変わる。右手に刀剣、左手に盾、両肩に肩あて。胸には複雑な形の紋様が浮かび上がり、青白い光を放っている。
そして、それをアテナとディオが視認した時には、すでにワイングラスが真っ二つに割れていた。
「あああああああああ、なんてことを……もったいない、もったいない……あああああああああ、擬態している今しか飲めないていうのにぃ~古の製造法で作った貴重なワインなのにぃ~」
割れたグラスを頭上に掲げ、舌を出したディオは、グラスから垂れる残りのワインを舌で受けてとめる。
「太刀筋が私でも見えなかったわ。さすがね。アレスの『兵貴神速』」
「よいウォーミングアップになった、これで準備OKだな」
「あ~あ、もっと飲みたかったのにぃ~ひどいよ~」
「いきましょう。いざ、地上へ」
三人は光の粒子となって舞い、姿を消した。
最後までお読みくださりありがとうございます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。かなり励みになっています。
□語句スキル解説
『兵貴神速』
……「兵は神速を貴ぶ」ともいう。戦いにおいては何よりも迅速な処理が大切であるという意味。自身の速度を限界突破させるスキル。アレスはこのスキルで速度アップさせ、目にもとまらぬ斬撃を放った。(ワイングラスを真っ二つにしただけですが(;'∀'))
今回は以上です。今後ともよろしくお願い申し上げます。
p.s.
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