#66 第65話 火を見るよりも明らか
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さっそく第65話、始めます!
梅佳は右の人差し指をこめかみにあて『血眼になる』スキルを唱える。
梅佳の人差し指と右目のあたりに赤い靄がかかる。
梅佳は、左手で美伊の右手をにぎり、勇希たちの残像を追って駆けていった。
「梅佳さん、『血眼になる』スキルを片手で使えるようになってる……改良されたのですね」
美伊の問いかけに、少しはにかんだ表情で梅佳がこたえる。
「両手を使うのでは使い勝手が悪いからのお」
「みなさん、どんどんスキルを改良されていますね。新しいスキルを開発したり……」
「わらわは、改良する余地がもうほとんど無いのじゃがの」
「ふふふ、さすが梅佳さんです。既にお強いですから……」
梅佳は、勇希たちの残像が最上階からさらに上へ向かっていることに気付き、立ち止まる。
「どうやら、あやつらは屋上広場へ向かっているようじゃ」
「屋上広場ですか……お昼休みは他の生徒もたくさん来るはずですわ」
「そんなところで何をするつもりじゃ……」
「もめごとにならなければ良いのですけど……」
勇希たちに見つからないよう警戒しながら、再び梅佳と美伊は駆けていく。
校舎の屋上広場──。
広場中央には大きな時計のオブジェがあり、その周囲を観葉植物が囲む。その付近一帯は生徒の立ち入りが禁止されたエリアであった。
立ち入り禁止エリア以外では昼食をとることが許されているので、お昼休みは生徒でごった返すのだが、まだお昼休みに入ってすぐなので、生徒は見当たらない。
梅佳は美伊の手を取ったまま、屋上に上がる手前で『朱に交われば赤くなる』スキルを唱えた。梅佳と美伊の全身が透き通っていく。
何か言おうとした梅佳に、美伊がしーっと人差し指を口に添えた。
──梅佳さん、ここからは声でバレちゃいますわ。
──そ、そうじゃの……ちなみに美伊よ、わらわとそなたはお互いに見えるようにしておいたぞ。じゃが、あやつらからは見えん。
──了解です! こちらも改良しているのですね。
ふたりが屋上広場に足を踏み入れる頃には、全身が周囲の景色に同化していた。透明人間となったふたりはジェスチャーと口パクで意思疎通する。
──勇希たちが消えたぞ。KAYAを設定したようじゃな。あちらじゃ。
梅佳が指さす方向に美伊も目をやる。
──なるほど、大胆ですけど、生徒は入れないですものね。
観葉植物がたくさん植えられた立ち入り禁止エリアには、もちろん生徒は入れないのだが、そこに異次元空間のKAYAを設置すれば、他の生徒たちに見られないし、植物たちに実害も出ない。
梅佳と美伊は、KAYAに入るため、勇希たちの姿が見えるところまで足を進める。
立ち入り禁止エリアに入ると、勇希たちの姿が再び目に入る。そこで梅佳と美伊は立ち止まった。
勇希が、紫水と柊龍を問い詰め始める。
「単刀直入に聞くぜ。おまえら、敵か? それとも味方か?」
勇希は、ネクタイを外しながら、紫水たちを睨みつける。
「味方だ、って言って信じるのか? あんたは」
紫水がぶっきらぼうにこたえる。
「じゃあ、なぜ昨日、先輩たちが怪我をしたんだ? おまえら敵と一緒に現れたんだよな? 味方なら怪我する前に止められたんじゃないのか?」
勇希は、いつでも殴り合えるとでも言うかのように、上着も脱いだ。
「そ、それは……ん……どこから話すべきか……」
考え込む紫水の傍らで、柊龍はずっと口をつぐんでいる。
「長月柊龍、お前はなぜずっと黙ってんだ? お前が説明してくれてもいいんだぜ?」
「……」
「あぁ、柊龍は無口なだけだ。悪気はない」
紫水が代わりにこたえる。
「そうか。なら、お前が早く説明しろよ、紫水」
「逐一偉そうだな。あんた。トラブルメーカーだろ?ったく……」
「そうかもな。でも、オレは仲間を傷つける奴をぜってえ許さねえ」
一瞬考え込んだ紫水はやれやれと言わんばかりに重たい口を開いた。
「……わかった。ゼロスさんの許可をまだ得てないが……」
「ゼ、ゼロスだと!?」
「もう第二ミッションも終わりだから、大丈夫だろう。勇希、あんたが納得いくように、すべて説明してやるよ」
「第二ミッション!?」
勇希は憤りと驚きが綯い交ぜになったような表情を浮かべる。
すると、そのとき、はじめて柊龍が口を開いた。
「……いいのか? 紫水?」
「仕方ないだろ。味方同士で傷つけあったら本末転倒だ。俺たちのやってきたことが水の泡になる。ゼロスさんには事後報告するしかないだろ」
「……わかった」
頷く柊龍から勇希の方へ目をやった紫水が勇希に問いかける。
「霜月勇希、あんたは自分の出自にまだ気づいていないのか?」
「なっ……俺の出自だと!?」
紫水から出た「出自」という言葉に、勇希は驚きを隠せなかった。
「ま、まさか、お前ら、俺の出自を知っているのか?」
「その様子だと、やはり知らないのだな。そこから話さなきゃならないようだな。っとその前に……」
言った矢先、紫水はスキルを唱える。
「『ヒヲミルヨリアキラカ』」
紫水の指から紫色の火炎が二つ生じる。
それを見た勇希はすかさずスキルを唱えようと身構える。
だが、紫水は、右の人差し指をKAYAを設置した立ち入り禁止エリアの隅に向け、二つの火炎玉を放った。
火炎は何かにぶち当たったように空中で止まるや否や、ボワッと一瞬大きくなってから消えていく。
すると、その場所に隠れていた梅佳と美伊の姿が現れた。
「君たちにも聞いてもらうべき話だろうからね。隠れる必要はないよ。俺たちは君たちの敵じゃない」
──ちっ。このスキルを見破るか……あやつかなりの手練れじゃな……。
梅佳は紫水たちへの警戒心が増すも、やはり敵ではなさそうな雰囲気は感じ取っていた。
一方、美伊は状況がよく呑み込めずあぜんとしている。
「梅佳……おまえ……ついてきてたのか!?」
勇希は突然現れた梅佳と美伊の姿に動揺する。
「ああ、そうじゃ。ただならぬ雰囲気で出ていったからのお。また先走って何かしでかすのではと気をもんだのじゃ」
「いらぬお節介だぜ……ったく……」
梅佳たちに気付いていなかった自分へのいらいらをごまかすように、勇希は梅佳に悪態をついた。
紫水が口を開く。
「いいか?……結論からいう」
勇希たちは固唾を飲んで紫水を注視する。
「俺たちの前世は……」
三人の鼓動が高鳴る。
「……『AI』すなわち『人工知能』だ。勇希、あんたも、そこの彼女たちも、ここにいるみんな、元はAIなんだ」
最後までお読みくださりありがとうございます!ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。今後ともよろしくお願い申し上げます!
□語句スキル解説
『血眼になる』
……目を血走らせているさま。冷静さを欠いていたり、何かに必死になっている場面でよく用いられる。ここでは、人や物を探すためのスキル。対象が残像となって見える。梅佳は今まで両手の人差し指をこめかみにあてて使っていたが、片手のみで発動できるように改良した新バージョンで使用した。
『朱に交われば赤くなる』
……赤色にまぜると赤色になるように、人は周囲の人や環境に影響されやすいことのたとえ。ここでは、周囲の背景と同化して隠れたり、通り抜けたりするスキル。今までは詠唱者自身にしか効果が及ばなかったが、複数人に効果を及ぼせるよう改良した。ただスキル発動前に効果を及ぼしたい相手に触れる必要がある。
『火を見るより(も)明らか』
……燃え盛る火を見るよりも明らかという意から、疑う余地のないほど明らかであることを意味する。ここでは隠れている人や物を明らかにするスキル。潜入や諜報に役立つスキル。
以上になります!
いつもここまで読んでくださる方々、本当に感謝してます(*´▽`*)
第二部からお読みの方にも配慮してきているつもりですが、うまくいってなければ申し訳ないです。もし疑問点があれば感想欄やXの方でご遠慮なく気軽にお尋ねください!
次話でもまだまだ謎解き・伏線回収がありますのでお楽しみに(*´ω`*)




