#65 第64話 嫉妬心と、凛々しくも優しい笑み
お待たせしました!更新が遅れてごめんなさい。久しぶりの仕事上のトラブル処理で週末がすべてつぶれてしまいました(;'∀')
では第64話さっそくですが始めます!
勇希は久愛の治療を受けている洸たちの元へ駆け寄った。
「かなり重症じゃないっすか!? 敵と遭遇したんすよね?」
勇希は蹲る洸とアヤトの症状を見るや否や、改良した回復スキル『愛月撤灯』を唱えた。
以前の巨大な玉ではなく、バスケットボール大の光玉が二つ創り出された。洸たち三人は、夕映えと相まった光玉の美しさに刹那、目を奪われる。
勇希は二つの光玉を洸とアヤトそれぞれに向け放つと、光玉はふたりの怪我をした部位である腕と腹部を包み込む。
「勇希君、『愛月撤灯』小さくしたんだね」
回復スキル『清廉潔白』でふたりの治療を続ける久愛が尋ねた。
「はい! コンパクトにして回復効率を上げてみました。久愛さんのと相乗効果でさらに早く治るはずっす!」
洸は腕と腹部の痛みが速やかにひいていくのを実感し、おもむろに立ち上がる。
「確かに回復が早くなってるね」
感心する洸の傍らで、アヤトも立ち上がりながらボソッとつぶやく。
「月食、日食と区別できるようにしてくれないとな。攻撃のときと見た目が変わらねえから怖えよ」
洸と久愛は苦笑するが、勇希ははっと気づいたように口を開く。
「あぁ、まじでそうっすね。今のままだと治すのか攻撃するのか、見た目で判断できないっすよね。なるほど……まだ改良の余地ありだな……」
強くなることに貪欲な勇希は素直に聞き入れていた。
「勇希君、そもそも敵か味方か、スキルを放つ方向が違うから大丈夫じゃないかな?」
フォローするように言う洸につづけて、久愛はアヤトをおだやかな口調でたしなめる。
「文句をいうなら早く回復系スキルを身につけましょうね、ア・ヤ・ト・く・ん」
アヤトは自身に目を向けるふたりから、無言の圧を感じとる。
「ま、まぁ、治してもらってるのに文句は言えねえよな、ありがとな、勇希」
「いえいえ……って言ってる場合じゃないっすよっ! さっき、紫と緑の奴もいましたよね? 遠目だったからよく見えなかったっすけど、同じクラスの奴らに似てて」
洸も付近を見渡しながら答える。
「いつのまにかいなくなったけど、たしかに制服はうちの制服だったよ、ふたりとも」
アヤトも訝しむ。
「勇希のクラスメイトなのだとしたら、逃げるように立ち去るのは……怪しいか……」
「あいつらも先輩たちを襲ってきたんすか!?」
「いや、俺らにはいっさい攻撃してこなかったぜ」
「うん。むしろ……僕たちの味方をしてくれた気がするんだけど……」
「私も最初は敵だと思ったけど……いきなりヘパイストスっていう大男に攻撃し始めたものね、ふたりとも強そうだったわ……」
「でも、先輩たちが怪我する羽目になってますよね? 味方かどうか疑わしいっすよ……」
勇希は腕を組みながら、考え込む。
「確かに俺もまだ信用する段階じゃないと思うけど、また先走んじゃねえぞ、勇希」
アヤトが勇希にくぎを刺す。
「大丈夫っすよ。明日、学校で聞いてみます!」
久愛がにっこりしながら諭すように勇希に語りかける。
「人違いかもしれないから、穏やかにね、やさしく尋ねてね」
洸は紫色の少年テウメッサに感じた「懐かしさ」の正体を知りたい衝動に駆られていた。
「勇希君、僕も気になることがあるから、もう一度彼らに会いたいんだ。何かわかったらすぐ教えてほしい」
「了解っす! 明日確認して報告しますよ! 今日は先輩たちとのバトル訓練どころじゃなさそうっすね」
「いや、俺はやれるぜ!?」
「僕もできるよ!」
ふたりの言葉を耳にした久愛が口をとがらせる。
「もう、ふたりともっ。ちゃんと治ってからにしてよね。今日はちょっとだけだよ」
結局、四人とも日が暮れるまでバトル訓練にはげんだ。
翌朝、生徒たちが登校する時刻──。
勇希は、日々、翔也からもらったお下がりの空飛ぶボードで登校している。
いつもなら音楽を聴きながら自分の世界に入るタイプなのだが、この日は紫髪と緑髪の少年を探しながら登校していた。
──いねえ……。まさか欠席とかいわねえよな……。
少しイラつきながら、校門前に着く。
校門のすぐ手前で地面へ降り立った勇希は、校門から入ってすぐにあるボード専用置き場にボードを置き、教室へと向かった。
勇希は教室の入り口から教室全体を眺める。
──あいつら、登校早えな……。学校好きなのか!?
席に着いている紫のツンツン頭と緑の長い髪のふたりが目に入ると、勇希はずかずかとまっすぐふたりのもとへ向かう。
そして彼らのそばに着くか着かないかのうちに声を荒げた。
「おい、文月紫水、長月柊龍。お前ら昨日、先輩たちと公園にいたよな?」
「……」
緑髪の少年、長月柊龍は突然のことに驚きつつ、黙って勇希に目をやる。
隣にいた紫ツンツン髪の少年、文月紫水は、頬杖をついたまま鋭い目で勇希を睨んだ。
「ああ、そうだが。それがどうした? 霜月勇希」
「おまえらに聞きたいことがあるから、昼休み、ちょっと面貸せ」
「……」
黙っている柊龍のとなりで、紫水は頬杖をついていた右手をぎゅっと握りしめる。
「ずいぶん偉そうだな。いやだと言ったら?」
「力づくで聞く!」
勇希も胸の前で右の拳を握りしめる。
「あんたにやれるのか?」
紫水は微動だにせず、だが目つきを一層鋭くしつつ、勇希を煽った。
「ここでは面倒なことになるからやらねえぜ。昼休みのお楽しみっつうことでよろしくな」
「……」
「フンッ」
柊龍はずっと沈黙を貫き、紫水はあきれ顔で勇希から目をそらした。
同じクラスのカリンや梅佳、萌莉、美伊が登校する前の出来事であった。
そして、昼休み──。
勇希が目でついてこいと紫水たちに合図して教室を出ていくと、後を追うように紫水と柊龍も出ていく。
昼休みに教室を出ていく生徒は珍しくないので誰も気に留めない中、梅佳だけは三人の動向を目で追っていた。
──ん……? 勇希と、あのふたり……何やら不穏な空気じゃったのぉ……。
梅佳はお弁当をもってやってくる萌莉と美伊に向かって声をかける。
「あぁ、今日、わらわは弁当を忘れたのでな。ちょっと買ってくる。すまぬが美伊、付き添いで来てくれぬか?」
「梅佳ちゃん、お弁当忘れたの?」
となりに座っていたカリンは、梅佳が弁当を忘れたのが初めてだったので驚くとともに、胸がちくんと痛んだ。
付き添いに自分ではなく美伊を選んだからだ。カリンは初めて味わう嫉妬心というものをまだ自覚できないでいた。
「は、はい」
少しとまどいながら美伊が返事をすると、萌莉が横やりをいれる。
「三人の弁当から少しずつ分けたら一人分ぐらいできるわよ~梅佳ちゃん」
「大丈夫じゃ、たまには親子水入らずでランチを楽しむのもよかろう」
「梅佳ちゃん、その話は、しぃー。内緒で」
萌莉が人差し指を口元に添えて梅佳に言う。
「あぁ、そうじゃったな。すまぬ……では……行ってくる」
萌莉とカリンが親子であることは、校内で内緒にする約束を交わしていた。誰も信じられない話であろうし、あれこれ詮索されても面倒だということで──。
「「いってらっしゃ~い」」
萌莉とカリンが手を振る。
梅佳は少しばつ悪そうにそそくさと教室を出ていった。その後を美伊がついていく。
教室を出るとすぐ、美伊は歩きながら梅佳に問いかけた。
「梅佳さん、お弁当を忘れたっていうのは嘘ですよね? 何か別の目的があるのですよね?」
「さすが、美伊じゃの。そうじゃ。勇希のことが気になっての。後をつけるつもりじゃ。最悪の事態を想定したら、わらわひとりでは間に合わないかもしれぬと思ったのでな」
「なるほど、分かりましたわ、いきましょう」
「ランチを食べ損ねるやもしれぬぞ」
「大丈夫です。ダイエットということで!」
美伊は凛々しくも優しい笑みを浮かべた。
最後までお読みくださりありがとうございます。今回からの数話は、AI暴走中第二部の大きな謎が明かされる最大の山場のひとつとなります!ぜひお楽しみに!
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今回は語句スキル解説はありませんm(_ _)m




