#61 第60話 翔也と勇希(後編)
第61話 翔也と勇希(後編)さっそく始めます!
アイツらの中のひとりが、翔也さんに近づいていった。
「あぁん? お前だれだ? コイツの保護者か?」
「いや、他人だが」
「なら、黙ってろ。施設の関係者でもないなら、今日は大人しく帰れ。通報もすんじゃねえぞ。通報したらどうなっても知らねぇぞ」
「そいつが何したんだ? 何が目的だ?」
「こいつはおれらの仲間をボコッて病院送りにしてくれたんだよ。だから治療費に十億円か、無理なら同じ目にあわせるっていってんだ」
「見たところ、もうすでにかなりボコってるよな? あとどれくらいで同じ目になるんだ?」
「まだまだ始まったばかりだ。これから再起不能にしてやんだよっ、ハハハッ」
「そうか。わかった。なら、あんたらの顔を立てて、この後は俺が引き受けるってのでどうだ?」
薄れていた意識が一気に戻るほどオレは驚いた。
──はぁ?……何……言ってんだ?……この人……関係ねえだろ?
そう思いながら、うっすら見えたその時の翔也さんのすごんだ表情は、今もオレの胸に焼き付いている。
「あぁん? お前ボコっても意味ないだろうがっ! ひっこんでろ!」
「いや、こいつ、なんかムカつくんで、やっちゃっていいっすか?」
「……ま、待て……オレ以外に……手を出す……んじゃねえ……」
オレは声を振り絞ったが、アイツらは聞く耳も持たないし、ガッチリ羽交い絞めにされてたから身動きも取れなかった。
そして、翔也さんのことも羽交い絞めにして、ボコり始めて……。
あぁ……いま思い出してもいらつくぜ……。
翔也さんの顔もオレと同じくらい腫れあがって血だらけになった。
それでも翔也さんが一向に倒れないから、アイツらビビったんだろうな。腕や足の骨を折るって言いだして……。
「まず、右腕からな」
あの鈍い、骨が折れる音も忘れられねえ……。
翔也さん、きっと大声を出すほど痛かっただろうに、ぐっと歯を食いしばるようにして、アイツらに言ったんだ。
「俺の腕……SEとして年収で億は稼げる価値があんだぜ? もう充分釣り合い取れたろ? これで終わりにしねえか?」
その時の翔也さんの顔は後にも先にも見たことがないほど怖かった。薄目しか開いてないオレもゾクッと背筋に恐怖が走ったのを覚えてる。
「やめるわけねえだろ? しゃしゃってきたてめえが悪いんだろがっ」
アイツらがまた翔也さんのどこかの骨を折ろうとしたときだった。
「やめろっ」
リーダー格っぽいのが施設内に入ってきたんだ。
銀髪で首に髑髏のタトゥー入れてて、髑髏のピアスをした男だった。リーダーという割には、華奢な体をしてたと思う。
そいつが翔也さんに声をかけた。
「あんた、名は?」
「……極月翔也だ」
「極月翔也……か。俺の名前は上堂薗忍だ。うちの下のがすまなかった。これでこの件は終わりとさせてもらいたい。俺の名に懸けて、これ以上手出しはさせない。いいか?」
「あぁ、約束してくれるならいいぜ。この施設の関係者全員、勇希も含めて、今後は手出し無用だ。グループへの勧誘もすんじゃねえ」
「わかった。約束は守る。にしても……あんた……気合い入ってるな。相当修羅場をくぐってきたようだな。あんたならひとりでうちの連中、倒せたんじゃないか?」
「へっ、よく言うぜ。この数はさすがに無理だろ……とにかくこれで痛み分けってことだな。約束は厳守しろよ」
「ああ、絶対だ」
あいつらが引き上げていったあと、翔也さんが俺に声をかけてきた。
「勇希、お前が荒れてたのは知ってたよ。いつかこんなことになるかもしれないとも思ってたが、お前が自分で乗り越えないといけない壁だと思ってたからな。今まで何も声をかけてこなかった、すまない」
「……」
──なんで、この人が謝るんだ? オレの名前も知ってるし、いったい何なんだ?
そのときはただ困惑した。
後から聞いた話だが、翔也さんは施設の人からオレのことで相談を受けていたらしい。
翔也さんも荒れてた時期があるらしく、職員より年齢もオレと近いし、気持ちが一番分かるんじゃないかってことだったんだろう。
オレが喧嘩ばかりしてたことも知ってて、喧嘩の現場も何度か居合わせてたって、後に知った。オレが毎度勝つから、助ける必要がなかったらしい。
何より、そのとき、翔也さんがかけてくれた言葉にオレは救われた。
「勇希、お前がどんな道を選ぼうとお前の自由さ。ただ、自分が何者か分からないと嘆くより、何者かになってやるって前に進む方がかっこいいと思わないか?」
刺さった。
自分が何者なのか、自問自答する日々を送ってたオレにはめちゃくちゃ刺さりまくった。
「結果、何者になったか、なんてどうでもいい。生きてるうちに自分が何をしたか、が大事なんだと思うぜ、俺はな」
今までの自分を悔いたからなのか、心が揺さぶられたからなのか、よく分かんねえけど、乾いた心が一気に潤っていくような感覚だった。気づいたら生まれて初めて目から涙を流してた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それから、オレ、翔也さんに弟子入りさせてくれ、って半ば強引につきまとったんすよ、弟子なんて取ってねぇって何度も拒否られたけど、ハハッ」
勇希はまた苦笑いを浮かべながら空を見上げる。昔を思い出し、目頭が熱くなっていた。
「そんなことがあったんだ……さすが、翔也君だ。でも、それだけ喧嘩三昧で、学校にも行かずによくうちの高校に入れたね」
「あぁ、それも翔也さんのおかげなんすよ。学内成績で一回でも一位を取れたら弟子にしてやるって、ハハッ」
「うぉ、そうなんだ。そこから猛勉強したんだね」
「うっす! 鬼勉しました! それまで頭を使ってなかったから、乾いたスポンジが水を吸うような感じでw 一度聞いたり読んだりしたら忘れないっす、オレ」
「おぉ。やるじゃん」
感心する洸。そこにアヤトが割り込む。
「まぁ、陰キャだった俺の過去より、かっけー話でつまんねえ……」
そう言いながらもアヤトの表情はやわらかく笑みを浮かべていた。
「ハハハ、そうっすか、すんません」
──オレ、この話、人にしたの初めてだな。
アヤトに揶揄われても、今まで話さなかったのをもったいなく思うほど、勇希は清々しい気分に包まれていた。
洸がおもむろにベンチから立ち上がる。
「さぁ、そろそろ特訓、再開しよう! 久愛たちもこの後、合流するって」
「なら実戦形式もガンガンやれそうっすね! 回復系のスキル、はやく身につけてくださいよ、先輩w」
「うぜw 生意気なのとつまんねえ話をした罰だ。勇希、俺とタイマンだ」
「ハハッ、別にいいっすけど。オレが本気出したら勝っちゃいますよw」
「ちっ、相変わらずだな。てめぇ、後で後悔させてやる」
「まぁまぁ、ふたりとも」
あわてて間に入る洸だが、アヤトも勇希も顔は笑っていた。
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次話から新章スタート、お楽しみに(*´▽`*)!




