#60 第59話 翔也と勇希(前編)
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!今回の話は、霜月勇希と極月翔也の出会いに関する物語です。幕間的な内容となります。当初の構想では本編に組み込まずに、外伝的に短編で公開するかしないか迷っていましたが、新章スタートまで間が空きすぎるのも嫌だったので、変更しました。地上から戻ったあと、特訓中に、勇希が洸たちに独白する➡回想という形をとりました。
では、始めますm(_ _)m
地底世界から無事に地上へと帰り着いた洸たち一行は、さらなる地底人の攻撃を警戒していたが、何事もなくGW最終日を迎えようとしていた。
とはいえ、地上へ帰ってからも、みな、翔也がポセイドンから聞いた「バトルにおける第三の要素」を研究するべく、日々特訓に励んでいた。
GW最終日はしばらく大事を取って休んでいたアヤトが復帰することもあって、洸、アヤト、勇希の三人は、朝から駅近の公園で特訓を重ねていた。
もう夏かと思わせるようなじりじりした太陽のせいで三人とも汗ばんでいる。
「勇希の恰好、バカにしたけど、勇希が正解だな、暑すぎだぜ……ったく」
「もう夏みたいだよね。僕も半袖で来ればよかった。ちょっと休憩しようか?」
洸とアヤトは示し合わせたわけでもないのに、上下の服の色がちょうど反対になっていた。
洸は上着が灰色と青色の中間、いわゆる藍鼠色でズボンが黒、アヤトの上着とズボンの色はその反対という具合いに。
「先輩ふたり、服装見てると兄弟みたいっすね」
「単なる偶然だ」
「たまたまだよ」
揶揄い口調で言う勇希は、デニムジーンズに白いTシャツというラフな格好をしていたので、ひとりだけ涼しげにしている。
洸とアヤトは公園の椅子に座り、勇希はその向かいのスロープ横の階段に腰をかけていた。
今まで遠慮して尋ねてこなかった勇希と翔也との出会いについて、アヤトが唐突に問いかける。
「勇希さ、翔也さんとはいつ知り合ったんだ? 聞いていいのかわかんねえけど、俺たちあまり詳しく聞いてなかったよな」
「僕も気になってた。勇希君にとって翔也君が大切な人だってのは十分伝わってるけど、聞いていいなら詳しく聞きたいな」
「あぁ~、そうっすよね。オレ、先輩たちに詳しいこと話さずに先走って空回りしたり、初対面で超失礼なことしたりしましたもんね」
勇希が空を見上げながら苦笑いを浮かべる。
──そういや、未だにオレの出自は不明なんだよな……。
勇希はふぅと息を吐き、今度は少しうつむき、自身の生い立ちから語り始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二〇五一年の春頃だったか。オレは首都圏のとある児童養護施設の玄関前で倒れていたらしい。
施設の人の話じゃぁ、赤ちゃんが捨てられていたケースはあるが、中学生ってのは初めてで、当初は「家出じゃないか?」とか「戸籍のない子じゃないか?」とか、かなり大騒ぎになってたらしい。
ただ、オレは目覚めたとき、過去の記憶が全くなかった。
しっかり覚えていたのは自分の名前だけ。あと年齢は遺伝子検査で判明したが、親の名前や顔はもちろん、どうして施設前で倒れていたのかさえも、まったく分からなかった。
髪の毛の色も、生まれつきなのかさえ分からないが、金髪というより黄色に近い地毛だった。
そのせいで、学校に通い出してからは校内の同級生や先輩はもちろん、近隣の喧嘩自慢たちから目をつけられて、ほぼ毎日のように絡まれる日々が続いてた。
誰かに相談するわけでもなく、あ、そういえば学校の先生からは何度か髪を黒く染めてみてはどうか? と言われたことはあったな。でもなぜか髪の色は絶対変えたくなかった。
たぶん、自分のアイデンティティというか、もし親なり親戚なり、オレのことを知ってる人がいたら、この髪の色で気づいてくれるんじゃないか?って考えてたのかもしれない。
だが、そんな期待も空しく、ずっと自分が何者か分からないまま施設で過ごしていたオレは、少しずつ心が荒んでいった。
まぁ、オレが他人を信用できなかっただけなんだが、自分の殻に閉じこもって、気づいた頃には心が空っぽになってた。
何も考えられず、ただ自分に触れる者はみんな敵だって思うようになった。
喧嘩だけは負けたことがなかったから、腕っぷしを買われて仲間になれと言ってきた連中も何人かいたが、誰も信用できないから、当然みんな断った。
それで、また、喧嘩、喧嘩、喧嘩──。
あるとき、当時首都圏で一番デカい不良少年グループの勧誘を断った。
その際、幹部クラス数人を病院送りにしてしまって、それが大きな事件の発端になった。
それまでオレは、誰ともつるまず、売られた喧嘩を買う形でしか喧嘩してこなかったから、誰かに迷惑をかけることもないって軽く考えてた。
甘かった。
そのグループの連中、報復しに学校や施設にまで手を出してきやがった。学校には行かなくなってたから被害は少なくてすんだが、施設はそういかなかった。
映画やアニメみたいに、何十人って数で施設を占拠して、施設関係者を部屋に監禁し人質にとって、オレに落とし前つけろってさ。
当時の施設、オレ以外に何人いただろう。職員の大人が数人、就学前のガキから、小中高の学生が十数人はいたかな。
閉じ込められた施設の小さい子らは泣き叫んでるし、職員の中にもひどい怪我を負った人がいて、助けようとしたけど、ナイフとかもった凶暴そうなの十人くらいに阻まれた。
アイツらが要求してきたのは、病院送りにした幹部の慰謝料として十億円払うか、それが無理ならオレを同じ目に合わせるってことだった。逃げたら施設の人を同じ目に合わせるってね。
ここで数十人相手に喧嘩して、万が一勝てても、結局またそれ以上の数でやってくるんだろうって思った。
その度、無関係な人たちがオレのために傷つけられるんだっていう理不尽な現実がつきつけられた。
もう煮るなり焼くなりどうとでもしてくれって。もう頭の中が真っ白になった。
アイツらもオレが十億円なんて払えないのは分かってたから、鼻からボコるつもりできててさ。
素手ならまだ平気だったけど、アイツら、いろんな武器も持ってたし、人質もとられてるし、ってわけでボッコボコにされた。
やられてるうちに意識も朦朧としてきて、目も開かないくらい顔が腫れあがってて。あぁ、もう殺してくれって思った。
そんなとき、現れたのが翔也さんだった。
当時、施設の通信環境の整備とかで、ボランティアとして施設に出入りしてたらしい。オレにしたら、たまに来る業者の人だってくらいの認識だったけど。
当時の記憶はもうかなり薄れてるのに、そのときの翔也さんとアイツらのやり取りだけは鮮明に覚えてる。
「なぁ、あんたら、あのグループの連中だよな? 名も知れ渡ってるあんたらが一人の少年をリンチするって、よほどメンツが傷つけられたか?」
最後まで読んでくださりありがとうございます。いいね、感想、ブクマ、評価してくださった方々この上ないほど感謝しておりますm(_ _)m「後編」は本日深夜24時(4月17日0時)にアップします(予約投稿済)!お楽しみに!
今回も語句スキル解説はありませんが、AI暴走中の簡易年表を書いてみました。
2049年頃~
首都圏でAIが暴走開始
2050年~
洸たちがAIクイーンキング一派と闘い勝利
2051年~2052年
洸たちは平和な日々を送る
➡2051年夏頃、勇希が翔也と出会う。
2053年4月~
洸たちの1度目の高校生活開始
2056年3月
洸たちの1度目の高校の卒業式
=人類滅亡
➡地底人ゼロスによる時の巻き戻し
2054年4月~
洸たちの2度目の高校生活
洸、アヤト、久愛は高校2年生
その他のメンバーは高校1年生
という感じになります。
最近、AI暴走中第1部から読んでなろうの本作にお越しの方もいらっしゃるみたいでとても嬉しいです。ありがとうございますm(_ _)m僕は作家でも絵師でもありません(それらを目指しているわけでもなく、名乗ったこともありません)が、国語教育のための教材を真剣に作成しているつもりなのでご理解をお願いいたします。




