#6 第5話 金縛り・金に糸目を付けぬ
ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当にありがとうございます。
明日も第6話を更新しますのでよろしくお願いいたします(*´▽`*)!
↓では、第5話、はじめます(*´ω`*)↓
「アヤト、やるしかない」
「あぁ、いくぜ! 『ユビヲサス』!」
アヤトが右手の人差し指を男性に向ける。するとアヤトの指がバチバチバチっと帯電し、男性に向かってビーム光線のごとき電流が発射された。
男性は避ける気もないようにそのまま電流を受ける。
「オォ、痛イ痛イ! 電流ハ痛イデスネ」
──ちっ。この程度は効かないってか。
アヤトが舌打ちをすると、男性がゆっくりした口調で三人に語り掛ける。
「自己紹介シテオカナクテモイイデスカ? 誰ニ殺サレタカ分カラナイノハ悲シイデショ?」
「うるせぇよ」
アヤトが叫ぶ。その間にも、アヤト、洸のふたりは打つ手を模索する。
──『指をさす』程度の電流攻撃が効かないのか、それとも属性とかあるのか。僕の『テヲヤク』を試すか、それとも大技を出すべきか……。
洸が結論を出す前に、アヤトが再び攻撃を仕掛けた。
「『デンコウライゴウ』!」
アヤトは男性に向けて右拳を突き出す。すると、先ほどの攻撃よりはるかに大量の電流が生じ、アヤトの拳から放たれるや否や、クモの巣状に広がっていった。
──ここだ!
「『シシフンジン』!」
それを見た洸も素早く右拳を男性に向けて突き出した。
洸の拳に生じた青紫色の炎がすぐさまライオンの姿を象っていく。
アヤトの放った蜘蛛の巣状の電流が男性を捕捉し、痺れとともに男性の自由を奪った。
「コ、コレハ……チョットマズイデスネ……」
初めて男性の表情に焦りが生じる。そして3体の火炎獅子が男性に食らいついた。噛みついた箇所から青紫色の火炎が一気に広がっていく。
「グハッ……アツイ、イタイ……」
男性の顔が一瞬ゆがんだ。だが、すぐに息を大きく吸い込んで全身に力をこめ、低い声を発する。
「『イツマデモアルトオモウナオヤトカネ』!」
すると男性の身体を覆うように白い膜がはり、その膜が発光するや否やアヤトの蜘蛛の巣電流も、洸の火炎獅子も一瞬にして消えてしまった。
「『いつまでもあると思うな親と金』モ良イ言葉デスヨネ。オ金ハ大切デス。スグ無クナリマス。アナタタチノスキル効果モ、スグニ無クナリマース!」
ミダスが勝ち誇ったように右親指を立てた。
「「……!」」
AI暴走事件で使っていたメインスキルをあっさりと消されたことに驚愕する洸とアヤト。
「自己紹介シマショウ。私ハ『ミダス・ダミ』ト申シマス。『ミダス』デカマイマセン。ギリシャ神話ニ出テクルミダス王ノ末裔デス。ミダス王ハ触レタモノヲ黄金ニカエタソウデス。サァ、次ハコチラノ番デス。『カネノナルキ』!」
ミダスが唱えると洸たちの頭上に樹齢1000年を超えるような大木が出現した。幹も枝も葉も一般的な木であるものの、金色の花を無数に咲かせている見たこともない木だ。
「な、なんだ……?」
「落ちてくるのか?」
洸とアヤトは頭上とミダスの両方に気を配りながら身構える。
「モウアナタタチ、終ワリデス」
ミダスは右手の指をパチンと鳴らす。すると金色の花の中心からピン球ほどの金色の球が2、3個生じ落下する。そして徐々にバレーボールほどの大きさとなって洸たちに向かってきた。
とっさによけるふたりだが、地面に落ちた球がめり込んでいるのを目にして度肝を抜かれる。
「やべぇ……鉄球レベルじゃねぇか……」
「マジか……当たったらヤバいぞ」
洸とアヤトは焦燥と恐怖を覚える。
「サァ、今度ハモット数ヲ増ヤシマスヨ」
再びミダスが指を鳴らすと、あたかも倍速再生のような速度で無数の金の球が生じる。
──ちっ。マジでやべぇな。
──こ、この数は避けられない……。
洸とアヤトは必死に策を考えるが、無情にも凶器たる金の球が降り注ぎ始めた。
そのときだった。
「『バジトウフウ』!」
久愛が洸たちの後方から右手を前方にかざし発声した。
すると久愛の右手が即座に光り輝き、膨張するや否や、拡張して円を描く。円は次第に魔法陣と変化し、洸とアヤトの頭上に浮遊した。
パシュン、パシュン、パシュン──。
パシュン、パシュン、パシュン──。
水面に銃を撃った時のような音が無数に鳴り響く。ミダスの攻撃が無力化されたのだ。
「ホウ、オ嬢サンモ戦イナレテイマスネ。防御系ノスキルデスカ、美シイデス」
ミダスは本心か皮肉か分からない賛辞の言葉を発した。
「もし、あなたがAIとして人類に攻撃するなら私も戦わなきゃいけないの」
久愛の言葉から決意、覚悟のような力強さを感じた洸とアヤト。
「久愛、ありがとう、助かった」
洸の言葉に続けてアヤトがアドバイスする。
「そう、そんな感じで、あのときのようにスキルを発動すればいい」
「わかった。洸、アヤトくん、私もサポートするから」
「久愛、気をつけて、このバトルは物理的なダメージを受けるはずだから」
洸も久愛を心配して助言した。
「うん、わかった、気をつける」
「デハ、防御系ノオ嬢サンカラ始末スルトシマショウ。『カナシバリ』!」
ミダスは久愛の方を向いて両手を前方にかざす。
すると、文字通り、久愛は体が身動きできなくなる。
──な、なにこれ……動けない……声も出ない……。『馬耳東風』が出せない……。
「『カネニイトメヲツケヌ』!コレデオワリ……デス」
ミダスが両腕を広げると、左右の腕の上に金色に輝く紙幣が数枚ずつ現れ、きれいに並び浮遊した。ミダスがまた指を鳴らすと、それら紙幣は柄のない刃の部分──金色の刀身へと姿を変えていく。
そして、刃先は久愛の方へ向き、次々に襲い掛かった。
「『獅子奮迅』!」「『電光雷轟』!」
洸とアヤトが久愛のそばに駆け寄りながらスキルを唱えた。すると蜘蛛の巣電流が次々に刀身をからめとり、火炎獅子がひとつ残らず焼き尽くした。
だが、ミダスは不敵な笑みを浮かべながら高らかに言い放つ。
「マダマダオワリマセンヨ、金ニ糸目ハ付ケナイノデスカラネ」
またミダスの両腕上方から金の刃が放たれる。洸とアヤトは再びスキルを唱える。するとまたミダスは刃を放ちつつ、さらにスキルを重ねた。
「コレナラドウデスカ? 『スジガネイリ』!」
洸とアヤトは再度同時に火炎獅子と蜘蛛の巣電流を放つが、一本だけふたりの攻撃が効かず、久愛の身体へと突き進んでいく。
──やべぇ、久愛がやられるっ。
アヤトが思ったときには洸が久愛の前に飛び込んでいた。洸は右腕を精一杯伸ばす。
──とどけぇえええええええええええええ。
──きゃあああああああああああああああ。
声を出せない久愛は迫りくる金の刃に心中で悲鳴を上げた──。
最後までお読みくださりありがとうございます。
ブクマ、評価等が励みになります。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
以下、語句の意味です。
※一部スキルの解説をつけましたのでネタバレ防止をなさりたい方や考察されたい方はスルーしてください。
金のなる木
いくら使っても無くならないほど多くの財源のこと。
※ここでは金の球が半永久的に放出される。
金に糸目を付けぬ
惜しみなく多くの金を使う様子。糸目を付けない凧がどこまでも飛ぶさまにたとえている。
※ここでは金のお札が変形した刀身が限りなく発射される。
金縛り
身動きが取れないこと。
「金縛りにあったように」と言ったときは、恐怖等で急に体がこわばって身動きができない様子。
※ここでは文字通り相手の身動きを封じること。
以上です。