#59 第58話 堰を切ったように溢れる涙
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!
本章の最終話となる第58話、始めたいと思います!
「そう警戒しなくてもよい。我はポセイドン・ドイセポだ」
「お、お前、まだ生きてたのか!?」
翔也の全身に緊張が走る。
──ヤバいぞ。今は……。スキルが使えないのに……。
だが、あたりを見渡しても人影は見あたらない。
「ど、どこだ? どこにいるっ!?」
「ここだ。すぐそばにいる」
「んだとっ? どこにいやがる? また闘いにきたのか!?」
「違う。大丈夫だ。我はもう闘えぬ。意識のみだからな」
「意識のみ?」
「ああ、そうだ。我ら真の地球人は、本来、意識のみで体は無い」
翔也のすぐそばに無音で空中モニターが出現する。そこに映る青年は深緑の髪に青い肌、首から肩にかけての黒いファー。翔也が闘った当時のポセイドンの姿だった。
「うぉ。な、なんだ」
「体を持たず意識だけで生きておるのでな。これならイメージもしやすかろう」
「意識だけで生きるって、あの不死の技術か!?」
「ああ、地上の文明でも意識のみを不死とすることに成功していたな。まぁ、こちらの世界の技術はまったく原理が違うが、とにかくもう闘えぬ」
「闘えないのに、どうしてここへ来たんだ?」
「貴殿と話をしたくてな」
「な!? なんの話だよ!?」
「せっかくなのでもっと話しやすくしようか。腹を割って話したい」
空中モニターからポセイドンが歩いて出てくるように翔也の目には映った。
ポセイドンは握手するときのように右手を差し出す。
「確かめるがよい」
翔也はおそるおそる右手でポセイドンと握手しようとするがポセイドンの手には触れられない。
「おぉ。言う通りホログラムなんだな。にしてもこの精巧さ……地上の技術の比じゃないな。まるで実体があるみたいだぜ……」
「そうか? ホログラム技術は大差なかろう。我が地上で人として生きていた頃からホログラム技術は大して変わっておらぬ」
「人として??? まさか地底人て、もとは人間なのか?」
「いや、すべてが、というわけではない。我や、貴殿をここに閉じ込めたロキなど、一部の者だけだ。人間といっても文明としては五◯◯万年ほど前の話だ」
「五◯◯万年前って、からかってるのか? 人類の誕生ってもっと後だろう?」
「そうだ。地上では人類、つまりホモサピエンスが誕生したのは数十万年前とされているのだろう? だが、その前も、地球の温暖期に人類は何度か誕生しては滅んでおるのだ」
「そんな説も耳にしたことはあるが眉唾物だと思ってた……まさか本当だったとは……」
「何度かある人類滅亡の原因はさまざまだが、我らの場合は隕石の衝突だ。文明が進んでいたおかげで恐竜のように絶滅はせず地底に避難した者たちは生き残ったのだ」
「ふむ……もとは人類のあんた達が、なぜ地上の人類を滅ぼそうとするんだ? 今の人間が何かやらかしたのか?」
「……少なくとも、我は人類に対して個人的な憎しみはない。それに貴殿たちは直接の原因とは無関係だ」
「話が見えねえな……」
「我ら真の地球人と地上の人類とは長年住み分けをしてきていたのだが、上層の者同士が交わした契りを地上の人類側が破ったのだ」
「契り? 何かしら契約してたのか? 昔からよく言われる地球環境の保護とか、か?」
「いや、地球環境の破壊は無関係だ。だが、これ以上の詳細は話せぬ。口外するのが御法度であるものが多いのだ。そもそも我レベルには知らされていないことも多いだろうがな」
「止められないのか? 人類の滅亡は?」
「我らの認識ではそうであったが……個人的には……貴殿たちのような人間が一縷の望みとなるのかもしれぬと思った」
「……」
それからしばらく翔也は、ポセイドンに疑問をいくつか投げかけ続ける。
ポセイドンは機密情報、特に人類滅亡計画や地底人の戦力に関する情報に関しては固く口を閉ざした。
だが、地底人を含む人類と地球の歴史についてや、ポセイドンの人間だった頃の話などについては惜しみなく答えてくれた。
「あんたが、元世界最強の格闘家だったとはな。化け物じみた強さの理由が分かったぜ」
「謙遜するでない。貴殿も大した手練れだ。それに王座陥落後は落ちぶれ荒んだ生活を送っていたからな。当時は未熟極まりない人間であった」
「あんたこそ謙遜じゃないか? しかし、地上で推測されている歴史って、やはり誤りも多いのだな。逆に都市伝説でも正しいものがあるってことか……って俺にこんなに話して良かったのか?」
「まぁ、貴殿が我から聞いた話をそのまま地上で伝えたところで、誰も信じぬであろう」
「たしかに都市伝説扱いされて終わりだろうな」
「それに、貴殿には悪用しない信頼感がある」
「悪用はしないが、都市伝説の情報を発信するだけでも金は稼げるんだぜ」
「ハハハ、貴殿は冗談も言えるのだな」
「なんだ? バカにしてんのか? てか、あんた、今更だがバトルのときより髪がかなり長いぜ?」
「ハハハ、ホログラムの容姿は好き勝手にどうとでもできるからな。容姿端麗な貴殿たちを真似てみたのだ」
「あんたも冗談言えるんだな、あはは」
死闘を経たせいか、翔也とポセイドンは旧知の仲のように、その後もしばらく質疑応答や談笑を続けた。翔也にとってはありがたい暇つぶしにもなった。
そんなとき──。
「極月翔也!」
突然、ポセイドンが大きな声で翔也を呼んだ。
「ん? なんだ?」
「貴殿の救出に地底まで来ていた仲間がバトルで勝利したようだ。もうすぐ貴殿のいるここに現れるだろう」
「な、本当か? 洸たちか? バトル中だったのか……」
「勝敗の行方が分からぬうちから伝えると、負けた場合に貴殿が辛かろうと思ってな。それにこのバトルで勝てぬようなら、もとより人類の滅亡は免れられぬであろうしな」
──これで極月翔也がロキの卑怯な手で殺される心配もなくなったな。
「あいつら……無茶してんじゃないか……」
「それは再会して確かめるが良かろう。こちらの方がかなりの痛手となるはずだ。わが友よ。我ら側にも、人類の滅亡を好まぬ者がいることを頭の片隅にとどめおいてくれ」
「ああ、わかった」
「最後に、もうひとつ、敵に塩を送ることになるやもしれぬが、このバトルシステムにはコトバの詠唱と、それを具現化するイメージ、あともうひとつ重要な要素がある」
「もう一つの重要な要素? な、何だ?」
「それは自ら追求するがよい。我らがなくしたもの、とでも言えばよいか。もう貴殿は実践できているに等しいが、磨きをかければもっと強くなれるだろう」
「お、教えてくれねえのか」
「これ以上はな。我の身が危うくなりかねん、ハハハッ」
「そうか……でも、なんとなく三つ目の要素のこと、心当たりはあるぜ。後は自身で見つける! ありがとうな」
「礼には及ばぬ。貴殿と一戦交えた後、かつてないほど清々しい気分となった。敗北したにもかかわらずな。格闘家時代でもここまですっきりした敗北はなかった。その礼も伝えたかったのだ。では、また縁があれば会おう。さらばだ」
「俺もアンタは嫌いじゃない。また会おうぜ!」
ポセイドンの姿は音もなく一瞬で消えた。
ポセイドンが翔也の前に現れた真意は、ロキの卑怯な手で捕まった翔也がむげに殺されるのを阻止することであったが、ポセイドンの口からそれが語られることはなかった。
ほどなくして、ナインスに導かれて付近に来た洸と勇希の声が翔也の耳に入る。
「翔也くーん」
「翔也さーん」
「おっ! 洸か? あとは……誰だ? アヤト? いや違う……ん……勇希か? 洸たちと合流できたんだな」
翔也の声だけが洸と勇希の耳に届く。
「しょ、翔也君!?」
「翔也さん、近くにいるんですか!? どこっすか!?」
「ん……俺の方は場所が全く分からないんだ。声ははっきり聞こえてるが」
「大丈夫でごじゃる。まもなく翔也殿がいる異次元の牢獄は消えるでごじゃる」
ナインスが体いっぱいに力を入れると、機械やモニターのある洸たちのいる居場所が一瞬明るくなる。
「な、なんだ、石壁が消えていくぞ!?」
驚く翔也の声が洸たちの耳に届く。
「弥生梅佳がロキを倒してくれたようでごじゃる。なのでロキの作った牢獄もたやすく消せたでごじゃる」
「えっ!? 梅佳ちゃん、もうロキを倒したんだっ!」
「てか、速すぎないっすか。アイツ、なんで相打ちになったんだ!?」
洸たちが梅佳の勝利に安堵する。間もなく二人のすぐそばに赤髪に赤ジャケットの翔也が現れた。
「おぉー。洸っ! 勇希っ! ありがとな!」
「翔也君! 無事で良かった……」
洸は翔也の姿が目に入った瞬間、感極まり目頭が熱くなる。翔也は洸の右手を強く握った。
「無茶をさせちまったな。我ながら情けない」
「そんなことない! みんな喜ぶよ!」
「みんな、無事なのか?」
「う、うん。多少ケガはあるけど、回復できるレベルだよ」
洸はアヤトの状態が気になっていたが翔也には詳細を告げないでいた。
洸と翔也が再会の喜びに浸っている間に、勇希は少し離れてふたりに背を向けていた。わなわなと震えているのが洸と翔也に伝わる。
「勇希っ!」
翔也が勇希に歩み寄っていく。
翔也は、名前を呼んでも振り向かない勇希の肩に、後ろからポンと手をかけた。
「勇希、ありがとな」
「……無事で……よかったっす……」
勇希が体を震わせながら涙をこらえているのがわかり、翔也は肩に置いた手に少し力を入れる。
「大きな貸し、つくっちまったな」
「オレがもらったものに比べたら……こんなの、ちっぽけっすよ」
堰を切ったようにあふれる涙が勇希の頬を伝っていく。
翔也はそれ以上何も口にせず、ただ目を細めて勇希を見守っていた。
黙ったまま立ち尽くすふたりの後ろ姿を、洸とナインスもそばでしばらく見守った。
先程まで無音だと感じていた部屋に機械音が響くほど、あたりを静寂が包み込んでいた。
最後までお読みくださりありがとうございます!第9章はこれで完結となります。勇希と翔也の出会いについてはどこかで外伝?スピンオフ?を短編ででも書きたいと考えています。今まで、ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。かなり励みになっています。今後ともよろしくお願い申し上げます。
今回は語句スキル解説はありません。
次話から新章がスタートします。少しお日にちをいただきたく思いますが、新キャラも登場!? また、洸たちが成長し、バトルも進化する!?というわけで、ぜひお楽しみに(*´▽`*)




