#57 第56話 一騎当千・千手の誓い
さっそくですが、第56話はじめます!(*´▽`*)
「グゥ……許シマセン……許シマセンヨ……私ノ両腕ヲ奪ッタ代償ハ……大キイデスヨ……『頂門金槌』『頂門金槌』」
ミダスは再び『頂門金槌』を、しかも二連続で唱えた。ミダスの左右に金槌が二本出現する。
「消エルノデス、消エルノデス──」
今までの余裕っぷりとは打って変わって、同じ言葉を繰り返しながらミダスは二本の金槌を八の字に振り回す。
「あぁ……神獣たちが……」
召喚した四神獣はミダスの金槌の打撃によってことごとく消えていく。
「ヤベぇスキルだな……」
「神獣の次は僕たちに……くるよね?」
焦燥感に駆られる洸とアヤトに対して、勇希は好機ではないかと感じる。
──両腕をなくしたってことは、もうオレの玉は操れないよな?
「『皆既日食』!」
勇希はミダスに向けて再び太陽玉と月玉を呼び、攻撃を試みる。
だが──。
ふたつの玉が現れるとすぐさま金槌が振り下ろされる。
バゴンッ──。バゴンッ──。
ミダスは玉を操ることはせず金槌で破壊したのだ。
ふたつの玉はともに粒子となって消えていった。
「我ガ金槌ハ……無敵デス! 全テ破壊シ、消シ去リマスッ!」
「ダメか……アイツ、マジで強いっすね……オレの日食も月食も効かないってことっすか……」
「でも、このままじゃ、僕らもあのハンマーの餌食になるだけだよね」
洸は『四面楚歌』『獅子奮迅』スキルを、勇希は『皆既月食』『皆既日食』スキルをダメ元で連打する。
洸の神獣や獅子も、勇希の太陽玉や月玉も、現れては金槌に叩き潰される。
奮闘するふたりの姿が、アヤトの脳裏にいろんな思いをかけめぐらせた。
アヤトは最後の切り札である未完成スキルをイメージしつつ、覚悟を決めようとしていた。
──このままじゃ、遅かれ早かれ全滅だ。やっぱ俺がヤツを倒すしかねぇ。
──思えば、なんでこんなに必死に闘ってんだろうな、ハハッ。昔は、自分のこと以外信じられなかったのにな。
──前のAI事件のときだって、初めはゲーム感覚で敵を倒して楽しんでただけだった。俺が人類を救う義理なんて無ぇ、っていきがってたのにな……。
──大事な人を守ってるだけ、その延長線上で人類を救えるならそれでもいいやって、思えるようになって。そうだな。俺、こいつらのためなら……ハハッ。
乾いた笑いをもらすアヤトの表情がキッと引き締まる。
──一歩間違えば俺の身も危ういが……万が一ここで散ったとて、みんなが助かるならそれもまた良し。こんな風に思える日がくるなんてな……ったく……。
──それぐらいの覚悟をしないと倒せない強敵なんだってもう充分、分かった。初戦の因縁なんてもう関係ねぇ。
──最悪、道連れにしてやる。たとえ相打ちでも……俺の勝ちだっ!!!
アヤトは両手に持つ刀をそばに置き、静かに口を開いた。
「洸、勇希」
「「!?」」
「俺が仕留める。絶対仕留めてみせる。巻き込みたくねぇ、少し離れててくれっ」
「「えっ!?」」
アヤトのただならぬ形相に、洸と勇希は息が詰まりそうになる何かを感じた。
「『イッキトウセン』『センジュノチカイ』!」
アヤトは胸の前で指を組み、両の人差し指を合わせたタイミングで目を閉じた。
神々しい白銀の光がアヤトを包み込む。その後方には千手観音がうっすらと浮かび上がる。
アヤトがキッと目を開き、叫んだ。
「くらえっ。俺の最高スキルっ!」
アヤトの両腕に再び二本の刀が現れる。漆黒の柄と鍔と銀の刀身がバチバチと帯電し光る。
アヤトは溶岩のように赤くなった地面を凄まじいスピードで跳ねるように駆けていった。
アヤトは地面を蹴って飛び、ミダスとの間合いを詰める。
応戦するミダスは金槌でアヤトに殴りかかる。
カキンッ──。
アヤトの周囲に突如、無数の手が現れ、それらが所持する刀で金槌を防いだ。
「カ、刀ゴトキデ……我ガ金槌ハ……防ゲマセンヨ」
力技で押し切ろうとするミダスの金槌に対して、千手の一部がさらに援護し、防御に回る。
「うるせぇっ! 四の五の言わず散れぇえええええええええええ!」
アヤトがミダスに右の刀を振り下ろし、右肩から腹を斜めに切り裂く。
その刀の軌道とは垂直に、左肩からも他方の刀を振り下ろした。
切り割かれた十字の切創を境にしてミダスの体は四分割される。
「グハッ」
呻くミダスに向けて、さらにアヤトの後方から刺突の攻撃が無数に放たれた。
ザクザクザクザクッ──。
四つに割れたミダスの体を千手の剣が串刺しにしていく。
「すごい! アヤト!」
「アヤトさん、あんなすげぇスキル、まだあったんすね……」
勝利を確信した洸と勇希が興奮し、声を上げる。
「クッ……コ、ココマデノ……ヨウデス……ネ、デモ……貴方トハ引キ分ケ……デス」
ミダスが蚊の鳴くような小声で吐き捨てると、その体は粒子となって消失していった。
「やった! 倒した!」
「アヤトさん! すげぇっす!」
だが──。
ドサッとアヤトは前のめりに倒れた。
「「えっ!?」」
「最後まで……うぜぇこと……しやがって……刀を一本……操ったのか……やってくれるじゃねぇか……」
「アヤトぉおおおおおおおおおお」
「アヤトさんっ」
洸と勇希がアヤトの元に駆け寄る。
一本の刀がアヤトの背中に突き刺さっていた。
「まずいっ。久愛っ!!!」
洸が呼んだときには、すでに久愛もすぐそばまで駆け寄っていた。
ヘスティアのスキルで使えなくなっていた回復スキル『清廉潔白』を久愛が悲壮な面持ちで放つ。
「お願いっ。アヤトくん。死なないで」
必死にアヤトを回復させる久愛。
これまで誰がやられても気丈に振舞えていた久愛も、目に涙を浮かべていた。
「うぐっ……」
アヤトが呻きながら口を開く。
「すまねぇ……まだ、隙が多いスキルだったから……下手うっちまったぜ……」
「そんなことないよ。ミダスは倒せたよ」
「話さないでっ! アヤトくん。まだ傷口がふさがってないから」
「あぁ……わかった……回復よろ……」
そういうとアヤトは意識を失った。
勇希は、まだ梅佳とナインスがいる防御黄玉を近くに移動させる。
防御黄玉をいったん消去した勇希は再び『愛月撤灯』スキルを唱え、久愛たちを黄玉で包み込んだ。
「久愛さん、よろしくっす。洸さん、残りの奴ら、追いかけましょう」
「そうだね、翔也君も早く助けなくちゃ」
「私はここでみんなを一刻もはやく回復させるわ」
「この中だとひとまず安心だね。僕と勇希君でいってくる」
洸は『飛耳長目』スキルで飛ばしていた鳳凰からヘスティアの居場所の情報を受け取る。
「ヘスティアと、あともうひとり、ロキ!?、ふたりとも同じところにいるみたいだ」
「洸さん、いきましょう」
洸と勇希が駆けだそうとしたときだった。
「待てっ」
「「!?!?!?」」
洸たちの後方、防御黄玉の中から声が聞こえた。
中で横たわっていた梅佳がパチッと目を開き、おもむろに立ち上がる。
「梅佳ちゃん! もう大丈夫なの!?」
傍にいた久愛が声をかける。
「皐月久愛、かたじけない。そなたのおかげでもう大丈夫じゃ」
久愛に一礼をした梅佳は、黄玉の外へ出て、洸たちに詫び始めた。
「葉月洸之介、霜月勇希、なんと詫びてよいか言葉がみつからぬ。本当に申し訳なかった」
「治ったんだね。梅佳ちゃん」
「オレは何も言う資格ねえよ、梅佳の言う通りになったからな。オレの方こそ皆の足をひっぱっちまった」
「いや、そんなことはない、勇希。そなたがいてくれたから最悪の事態は避けられたのじゃ。わらわは敵の力を見くびり下手をうった。すべてはわらわの責任……」
「梅佳ちゃん、大丈夫、誰も悪くない。終わり良ければすべて良しだよ。これから残りの敵を倒しにいくから、一緒に行けたら心強い」
「そのことじゃが、そなたたちは極月翔也の救出に向かえ。残りの敵はわらわが倒す」
真剣な眼差しで右拳を握りしめる梅佳の髪がふわっと風になびいた。
最後までお読みくださりありがとうございます!
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本章はあと2話で完結します!お楽しみに!
□語句・スキル解説
『一騎当千』
……千人分の戦力に値するくらい強いことを意味する。ここではまさに千人分の攻撃ができるようになるスキル。
『千手の誓い』
……本来、観世音が千手、千眼で一般民衆を救おうとして立てた誓いのことを意味する。ここでは、千手観音のご加護を受け、千本の腕を攻守に用いるスキル。『一騎当千』と組み合わせることで、アヤトは究極の攻撃力、防御力を手に入れ、見事にミダスを撃破したのだが……。
※まだ慣れていない未完成スキルのまま使用したアヤトは千眼の方を使いこなせていなかった。千眼の力まで十分に発揮できていればミダスの反撃も見破れていたのかもしれない。
以上になります。
次話では本領を発揮した梅佳が大活躍……かも!?
第57話 天上天下唯我独尊・天地神明
お楽しみに!




