#56 第55話 四面楚歌・皆既日食・頂門金槌
更新が滞っていて申し訳ありません。活動報告で書きました通り、体調不良で仕事までお休みしたので、さすがに創作活動にまで手が回りませんでした。
もう体調もよくなり、更新頻度も元に戻せそうです。お待ちくださった読者の方々、ありがとうございます。では、さっそく……と言いたいところなのですが、間が空きましたので簡単にこれまでのあらすじをまとめておきたいと思います。※いらないよ!という方は本編へどうぞ!(*´▽`*)
地底人ロキに連れ去られた極月翔也を救出すべく、地底へ向かった洸たち一行は、翔也の居場所付近でロキと遭遇する。梅佳がロキと相打ちとなった後、洸たちはヘスティア、ミダスと遭遇し死闘をくりひろげる。ヘスティアを瀕死にまで追い込み、遅れて現れた勇希の強力な『皆既月食』スキルでミダスも撃破できると思いきや、『金科玉条』スキルで設定したルールによって『皆既月食』の太陽玉、月玉の攻撃がミダスには効かない。なぜ!? 洸たちになす術はあるのか!?
では第55話を始めますm(_ _)m
「なんだとっ!?」
「まさかっ」
「丸い球体を操作できるだって!?」
三人が同時に目をやったのは久愛と梅佳、ナインスを包む勇希の防御黄玉であった。
ミダスの標的になるのではないかという焦燥が走ったのだ。
それを見たミダスが嘲り笑う。
「ハハハッ。大丈夫デ~ス。先程追加シタ三対一ノルールハ、私ニモ破レマセ~ン。他ノ仲間ニハ攻撃デキマセンヨ。ゴ安心クダサ~イ、ハハハッ」
安堵する洸たちに向かって、ニヤリと笑みを浮かべたミダスが続けた。
「デモ、バトルガ終ワリマシタラ、ユックリ、アノ世ニ送ッテ差シ上ゲマスガネ」
「ちっ。身動きできねぇてめぇのピンチには変わりねぇんだよ」
アヤトはミダスに追撃しようと構える。
だが、それより先にミダスが新たなスキルを唱える。
「『リュウキンシャクセキ』」
神々しい金色の光に包まれたミダスの右の掌から火炎が噴き出す。
それに呼応するかのように、剣の刃先に刺さった四角錘からも火炎が噴き出し、みるみるうちにアヤトの剣を燃やしていった。
「『流金鑠石』ハ、カナリノ高温デス。剣ナゾ簡単ニ焼キ溶カシマ~ス。ナノデ、足元ニ、ゴ注意クダサ~イ」
ミダスの言うがごとく、アヤトが出した無数の剣が瞬く間に溶けてなくなっていく。そればかりか、焼け溶けた無数の剣が辺りを火の海に変えていく。
アヤトはいったん引いてミダスとの間合いを取った。
──ちっ。こいつ、やっぱ強えな……。すべて一枚上をいきやがる……。
太陽玉と月玉を消して引っこめた勇希が、ふと疑問を口にする。
「アイツがルールを無限に作れるなら、オレらが絶対勝てないようなルールを作れるってことっすかね……」
「いや、それはないと思うぜ、勇希」
「うん。それならもうすでにもっと僕らに不利なルールを設定してるはずだよね」
「なるほど……」
「今のところ、表面的には平等、公平なルールか、ミダスが不利になるルールしかないようだしな、そういう縛り? 条件? なんだろうぜ」
「だぶん、勇希君の玉を誰でも操作できるってことは、僕らも操れるはずなんだよね」
「マジっすか」
「ゴ明察! ヤハリ君タチハ優秀デスネ。人工知能ニ頼リ過ギタ人類ノ頭脳ハ、コノ二、三十年デ相当低下シテイル、ト聞イテイマスガ、君タチハ実ニ、アッパレ、デス」
「ちっ」──こいつの煽り、マジでうぜぇ……。
舌打ちするアヤト。
洸は試しに両手を前に突きだし、掌を広げ、勇希の玉を操作するイメージをしてみた。
「あ、ほんとに動くよ、やっぱり」
「それなら、洸さん、アヤトさん、玉の直線上にアイツがくるように移動させてみてください。三人で操れば、アイツに勝てるかもっす」
小声で合図を送る勇希。
「「OK!」」
洸もアヤトも太陽玉と月玉の移動を試みるが──。
「だめだ……思うように動かせないっす……」
落胆する勇希たちを、またミダスが嘲笑し煽る。
「ハハハハハ。ルールヲ平等ニ設定デキル、ト言ウコトハ、操ル力ヲ実質的ニ平等トナルヨウ縛ルコトモ許サレルノデス」
ミダスが左手の人差し指を立てて続ける。
「ツマリ、三人デ力ヲ合ワセタトキハ、ソレニ応ジテ、私ノ力モ倍増サレル、トイウコトデ~ス」
「小賢しい真似しやがって」
アヤトは次の手を巡らせるが焦りの色は隠せない。
──ちっ。弾切れって悟らせたくねぇし……。いくか?
そのとき、アヤトに先んじて、洸が一歩前に出た。
「アヤト、勇希君、僕がいくよ」
──アヤトはかなりスキルを出し尽くしてるはずだし、勇希君もこのルールのせいで攻めあぐねてる……まだ未完成だけど……僕がやるしかない。
洸は、勇希とアヤトの返事を待たず、両拳を力強く前に突き出す。
「『シメンソカ』!」
洸が唱えると両拳から放たれた青紫色の火炎がらせん状に交わりながらミダスに向かう。
ミダスが『地獄の沙汰も金次第』スキルで青紫火炎を払うと、火炎は四方へ散っていった。
──よしっ! イメージ通りだ!
洸が前方に突き出した両拳を開くと、両の掌から青紫色の美しい光が灯る。
洸は四方に散った青紫火炎を操り、神獣へと変化させていく。
「……コレマデ……ノ……スキルデ……最モ強ソウ、デスネ……」
ミダスの額から汗らしきものが滴り落ちた。
東には青龍──。
西には白虎──。
南には鳳凰──。
北には玄武──。
ミダスからすれば、まさに四面楚歌の状態であった。
──サスガニ……コレハ……マズソウデス……。
ミダスも応戦すべくスキルを唱える。
「『チョウモンノキンツイ』」
するとミダスの全身が金色の光に包まれ、左手に重厚なハンマーが出現した。金槌も神々しく金の光を放っている。
だが、ミダスが金のハンマーを手にする前に、四神獣が四方からいっせいに襲い掛かった。
玄武が身にまとう蛇はミダスの腰から両足に絡みつき足の動きを封じる。
白虎はミダスの左肩にかぶりつき左腕を封じる。
青龍はミダスの肢体から首を締め上げ、上半身の動きを封じた。
鳳凰は狙いを定めるように上空を旋回している。
──よしっ! これで何もできないはずだ。いけるぞっ!
洸は自信のなかった『四面楚歌』スキルに手応えを感じる。
身動きの取れないミダスの頭部に狙いを定めた鳳凰が、上空から急降下してくる。
「「「いけぇええ!」」」
鳳凰がミダスへと突進するのを洸たち三人は息をのんで見守る。
ガゴンッ──。
爆発音とともに白煙と金色の粒子があたり一面に舞い上がる。
だが──。
攻撃を食らったのはミダスではなく鳳凰であった。金槌がミダスの頭部に迫った鳳凰をすんでのところで叩き落としたのだ。
激しく地面に打ち付けられた鳳凰は粒子となって消えていく。
続けざま、金槌は他の神獣たちにも振り下ろされる。
ガゴンッバゴンッと金槌がヒットする度に神獣たちが呻き声を上げる。
「ハ、ハンマーの動きが速まってる!? ど、どうして……?」
「や、野郎……何のスキルだ!?」
かろうじてミダスを離さずにいる青龍、白虎、玄武。だが、ジリ貧であった。
「ちっ、金槌だけを操作してんのか!?」
「せ、先輩……違います……」
「うん、うっすら手が……」
金槌を握る金色の右腕が三人の目にかすかに映った。
「……私ノ……腕デハ……アリマセン……コレコソ……マサニ……神ノ見エザル手……アッ、ウッスラ見エテル手、ト言ッタ方ガ良イデスカネ!?……ハハハ」
ミダスは息を切らしながら、力のない嫌味と笑いをこぼす。四神獣に追い込まれていたことは明らかだった。
──やっぱりダメか……まだ使いこなせてない……。
落胆する洸を尻目に、ミダスは髪を振り乱しながら他の神獣を薙ぎ払おうと金槌を振り上げる。
その体を包む光はさらに神々しく増していき、青い瞳も白く光っていた。
「洸さんっ! 大丈夫っす! 追撃いきます!」
勇希が声をあげながら、身構える。
「『カイキニッショク』!」
勇希は再び太陽玉と月玉を両手に出現させる。
「ソレハ効カナイ……ト……証明シタハズ……デスガ?」
「わかってるぜ。だから『皆既日食』なんだよっ」
勇希は自身のすぐ前に太陽玉、そのすぐ前に月玉を並べていた。その延長線上にいるミダスに向けて──。
ミダスが左手で二つの玉を操ろうとするのに先んじて、勇希は手前にある太陽玉に渾身の右ストレートを素早く打ち込む。
バゴンッという衝撃音とともに、太陽玉はすぐ前の月玉に激しく衝突し火花を散らす。
月玉はビリヤードのように弾かれ、尋常ではない速度でミダスへと向かっていった。
ドゴンッ──。
鉄球をブロック塀にぶち当てたような爆音が辺りに響き渡る。
「クッ……」
──ヨケキレ……マセンデシタネ……。
ミダスの顔が苦痛で歪む。
勇希の月玉はミダスによって少し軌道をそらされたものの、ミダスの左肩に命中し左腕ごと吹っ飛ばしていた。
太陽玉―月玉―ミダスと一直線に並んだ格好からの攻撃はまさに『皆既日食』をモチーフにしたものだった。
「おぉー! 勇希っ! やったな!」
「これで両腕が使えなくなったぞ!」
「……い、いや……オレ、頭、狙ったんすけどね……」
最後までお読みくださりありがとうございましたm(_ _)m
健康に気を付けつつ、できるだけ更新は続けたいと思います。
■語句スキル解説
『流金鑠石』
……金属や石が溶けて流れるほどの猛烈な暑さ(熱さ)のことを意味する。ここではミダスの『金のなる木』『金字塔』スキルで出現させた四角錘から高温の熱、火炎を生じさせるスキル。
『四面楚歌』
……周囲を敵や反対派の者たちに囲まれ、味方もおらず孤立している状態のことを意味する。語源は昔、中国の楚の項羽が漢の劉邦に追い詰められた際、漢の軍の中から楚の国の歌がたくさん聞こえたことで、漢にくだった楚の人が多いことに絶望し敗北を悟ったという故事。
……ここでは、青龍、白虎、鳳凰、玄武の四神獣を召喚し、敵の四方から攻撃するスキル。まだ洸は使いこなせていないが、後々、強大なスキルへと成長する。
『頂門金槌』
……急所である頭頂部(=頂門)を金槌(=ハンマー)で的確にたたくという意味から転じて、要点を的確に突く助言や忠告のこと。ここではミダスが黄金のハンマーで的確に攻撃するスキル。ゆえに猛スピードで迫る鳳凰もいとも簡単に叩き殺した。ミダスの攻撃の中では最高峰のスキル。
『皆既日食』
……太陽ー月ー地球が一直線に並んだときに太陽が月に隠れ、太陽が黒く欠けたように見える現象を『日食』といい、太陽がすべて月に隠れる場合を『皆既日食』と呼ぶ。ここでは『皆既月食』スキルとならんで、勇希の十八番ともいうべき強力なスキルで、太陽玉と月玉の延長線上にいる敵に攻撃をする。『皆既月食』と同様、並んだ時点で空間を削り取るタイプの攻撃も可能だが、本編ではミダスに太陽玉、月玉を操られるのを避けるために、速攻で太陽玉を打ち、月玉を飛ばすタイプの攻撃に切り替えた。
以上になりますm(_ _)m
ここまで読んでくださった方はAI暴走中オタクです( *´艸`)




