#55 第54話 愛月撤灯・金科玉条・剣山刀樹
最近更新が遅れ気味で申し訳ありません。ミダス戦も佳境となります。
ではさっそく第54話始めます!
「『アイゲツテットウ』『カイテイロウゲツ』」
勇希が胸の前で両の掌を上下にして構えると、その間に黄色に輝く玉が生じる。
「うわっ。まぶしぃっ」
久愛は黄玉の発する光の強さに思わず目をつぶる。
黄玉は徐々に膨らんでいき、直径二メートルほどまで巨大化すると、久愛と梅佳、そしてナインスをすっぽりと包み込んだ。
「オレの最高防御スキルなんで、久愛さんはこの中でふたりといっしょにゆっくりしててください」
ナインスを優しく抱きかかえる久愛は、ヘスティアの攻撃で乱れた髪もそのままに勇希に尋ねる。
「これ、すごいスキルね。もしかして、中にいるだけで回復されてるんじゃない? 回復スキルなの?」
「あ、はい、微力っすけど。回復というよりは防御がメインっすね。久愛さんの回復スキルの足元にも及ばないっすよ。でも、オレが死なない限り、ずっと守ってくれるし、敵のスキル効果も無効にしてくれるはずっす」
そう言いながら勇希が黄玉に右拳を打ち込む。勇希の髪がなびく。
勇希の右拳は黄玉にめり込んでいくが腕を引くとすぐに元通りになった。
「物理攻撃もこんな感じで大丈夫っす! 味方は自由に出入りもできますよ!」
「おぉ~すごいっ! 勇希君、心強いわ。スキルが使えるようになったら、ナインス君も絶対回復させるわ」
「よろしくっす! あいつら、ぶっ倒してきます!」
勇希は洸とアヤトに顔を向ける。
「先輩方もしばらく休んでもらっても大丈夫っすよ」
「冗談言ってんじゃねぇ。後輩一人戦わせるわけにはいかねぇだろ」
「僕も大丈夫、敵は強いよ」
「じゃぁ、三人でやっちゃいますか!」
「あぁ、言われなくても俺はアイツを絶対倒すっ」
「さぁ、いこう、仕切り直しだ!」
洸たち三人は再び戦闘態勢に入る。
身構えた三人に対してミダスは悠長に構えている。
「ソウ言エバ、日本ノ諺ニ三人寄レバ文殊ノ知恵トイウ諺モアリマシタヨネ? アレモ、ナカナカ素晴ラシイ諺デスネ~」
「ああん?」
突然、間の抜けた会話をし始めたミダスにアヤトがキレる。
「ソコデ、私カラノ、ゴ提案ナノデスガ~タイマンハ止メテ、貴方タチ三人ト私トデ、三対一ノ勝負ハ、イカガデショウ?」
「お前は俺とタイマンっつったろうがっ!」
アヤトはさらに声を荒げる。
──ダメージの大きいヘスティアを逃がすつもりか?
ミダスの意図を察した洸がヘスティアのいた方を一瞥する。
「ああっ」
「「!?!?!?」」
洸が急に上げた大声にアヤトと勇希が驚く。
「洸、どうした?」
「ヘスティアがいなくなった……もうひとり、倒れてたロキっていう敵も……」
「ほんとっすね いつのまに」
「アラ、彼女タチ、ドコニ行ッタノデショウ!?!? ウワァ~困リマシタ……私、ヒトリデ三人モ相手ニ、シナクテハ、ナリマセンネ~」
ミダスのわざとらしい演技にアヤトが激高する。
「最初からそうするつもりだったんだろうがっ。見え透いた小芝居しやがって」
「イヤイヤ、私は、今、片腕シカ、アリマセンシネ~三対一ナンテ、不利極マリナイデスヨ~貴方タチニトッテ三対一ノバトルノ方ガ有利ナノハ間違イアリマセ~ン」
「アヤトさん、三人で手っ取り早く倒してから、残りのヤツらもヤッちまいましょう」
「くっ」
不満げなアヤトに洸も声をかける。
「アヤト、三対一の方が勝率は上がるし、しばらく久愛もサポートできないから……」
「わかったよ」
しぶしぶ三対一を受け入れるアヤト。
「他の敵は鳳凰に追わせておくよ!『飛耳長目』っ!」
洸は鳳凰を召喚し放つ。
「デハ、約束ハ必ズ、守ッテモライマスヨ~『キンカギョクジョウ』ッ!」
ミダスが左の人差し指を立ててスキルを唱えると指の先に金色の光が灯る。
「他ノ敵ヲ攻撃シタ違反者ニハ、キツイ罰ガアリマスノデ、ゴ注意ヲ!」
──トリアエズ彼女タチニハ、無事デイテ、モラワナイト、私ガ勝ツトシテモ、彼女タチヲ死ナセタラ、ゼウス様ニ会ワセル顔ガアリマセンカラネ。
ミダスの心中とは裏腹に、三人はスキルの効果らしきものが発動しないことで、かえって警戒心を強めている。
──な、なんのスキルを唱えた?
ミダスと剣を交えてきたアヤトは特に警戒心が強くなっていた。これといって強烈な攻撃を仕掛けてこないミダスがまだ何か隠していると感じていたからだ。
「ソウ警戒シナクテモ、言葉通リデスヨ。私ノ『金科玉条』ハ、バトルニ大事ナルールヲ追加デキルノデス。ソレダケノスキルデ~ス」
──トイッテモ、奥ノ深イスキルデスケドネ~。
「じゃぁ、さっそくオレからいかせてもらいます!『皆既月食』!」
勇希が前傾姿勢で両腕を広げ、両の掌を上に向ける。
それぞれの掌の上には、太陽と月を模したテニスボール大の玉が一つずつ出現した。 駆けだす勇希の掌の上で、ふたつの玉は徐々に膨らんでいく。
「黄色ノポニテ君、ソレ、ナカナカ興味深イスキルデスヨネ。デモ先程、見セテモライマシタノデ、私モ、ミスミス喰ライマセンヨ!『金のなる木』『キンジトウ』」
ミダスが左拳を顔の前で握りしめると、その背後に大木が生えて急生長していく。
大木の幹から伸びた枝が結実し、金色に輝く。
「勇希君、気をつけて、金色の玉が降ってくるよ」
「洸、今回は玉じゃなく、逆さになったピラミッドみたいだぜ」
かつてのバトルで金色の丸い球体が降ってきたのとは異なり、この度は逆さまになった四角錘が無数に結実していた。
「オォ~ゴ明察! サスガ、キノコ君!『金字塔』ノ語源ハ、ピラミッドナノデ~ス」
ミダスは右の二本の指でピラミッドを模したオブジェを掴みながら笑みをこぼしていた。
「うぜぇっ!『ケンザントウジュ』!」
アヤトが一本の刀を投げ捨て、両膝をつき、両手で持ち直した刀を力強く地面に突き刺す。
バチバチバチバチバチバチ──。
刀が刺さったところから、前方へ稲光が扇状に広がり走っていく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ──。
地鳴りとともに、大木がめぐらした枝の真下からバチバチと帯電した剣が無数に突き出し、刃先が天井に向かって垂直に伸びていった。
あちこちの剣からひっきりなしに走る稲光が周囲を断続的に明るくする。
アヤトは立ち上がり、両刀スタイルに戻って構える。
「なめんじゃねぇ。一度見たスキルは対策済みだぜ!」
アヤトが左手の刀を一振りすると、地面から伸びた剣が、大木から降ってくる金色の四角錘に、ザクザクッと刺さっていく。
同時に、剣に囲まれたミダスは身動きが取れなくなった。
「みすみす食らいませ~んってか?」
アヤトがミダスの口調をまねて揶揄い返す。
「クッ。マダ、コンナスキルヲ残シテイタノデスカ? アッパレ、キノコ君!」
「勇希君! チャンスだっ!」
勇希は、太陽玉と月玉を操り、ミダスを挟むように移動させる。そして──。
「くらえっ!」
太陽玉─ミダス─月玉が一直線に並んだ!
「終わりだっ!」
…………………。
だが、ミダスへの攻撃は発動しない。
「ダカラ、ミスミス喰ラワナイ、ト忠告シタデショウ。ハハハハハ」
ミダスは左手の五指で何かを操作するような仕草をしながら嘲笑する。
「なぜだ? 攻撃が発動しない……」
「勇希君!? どういうこと?」
「オレにもよくわからないっす。こんなこと初めてで……」
「何かやってやがるな。アイツ」
「ソウソウ、言イ忘レテイマシタガ、私ノ『金科玉条』デ追加デキルルールノ数ニ上限ハ、アリマセン。『丸イ球体ハ誰デモ操作デキル』トイウルールヲ追加シマシタ。一直線ニ並ブ直前ニ玉ノ位置ヲ、ホンノ少シ、ズラシタノデ~ス」
──アクマデ、数ノ上限ガ無イ、ダケデスガネ~。
最後までお読みくださりありがとうございます。ミダスのカタカナセリフが少し読みにくいとのご指摘がありどう改善するか検討中です。ひらがなルビ振りする方向で考えております。決定次第、ミダスのセリフすべてに反映させようと考えています(*´▽`*)ご指摘は本音で嬉しいです。より読みやすくできるようしてまいります。
最近もブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々がいらっしゃいました。本当に感謝しております。かなり励みになっています。今後ともよろしくお願い申し上げます。
□語句・スキル解説
『愛月撤灯』
……極めて激しくものを大切にしてかわいがることを意味する。「月を愛して灯を撤す」ともいう。語源となったのは唐時代の中国、酒の席で美しい月をみるために灯りを消させたという故事である。
ここでは、玉の中にいる者を大切に守るスキル。微力ながら回復・治癒の効果もある。
『海底撈月』
……実現できないことに労力を費やし無駄に終わること。海面に映っている月をすくいあげようとすること(=「撈月」)が語源。「海底に月を撈う」とも読み、同義語には、猿猴取月、海中撈月、海底撈針、水中捉月、水中撈月と数多くあり、みな同じ意味である。
ここでは、『愛月撤灯』スキルをさらに強化するもので、敵のスキルが効かず、無駄に終わらせるという強固な防御スキル。
『金科玉条』
……貴重なきまりごと、転じて、自己を支える教訓や信条、人が最も重視すべき法律や規則を意味する。
「金」は黄金、「玉」は宝石、「科」や「条」は法律を意味する。
ここではミダスの十八番スキルでバトル中に敵味方の双方を縛るルールを設定できるスキル。ルール違反者には罰として大ダメージがあるが罰の内容は不明。相手も縛るために公平、平等なルールでないと設定できない。またルールの数に上限はないがルールが拘束する程度、態様に応じた質的な上限は決まっているので無限というわけではない。ミダスはずる賢く数に上限がないことだけを洸たちに伝えている。ただこのスキルは相手の頭脳、創意工夫次第で詠唱者に不利な結果となりうる。
『金字塔』
本来「金」の字に似ている塔の意でピラミッドのことだが、転じて、後世に遺るような優れた業績のことを意味する。
ここでは単発で使用するとピラミッドを模した金色の四角錘で攻撃するスキルであるが一対三のバトルであることからミダスは『金のなる木』スキルと合わせることで攻撃の数を増やした。
『金のなる木』
……いくら使っても無くならないほど多くの財源のこと。ここでは金の丸い実が半永久的に放出されるスキル。洸たちが初めてミダスと闘ったときにミダスが使った。
『剣山刀樹』
……地獄にある剣の山と刀の林のことを意味し、転じて酷い刑罰や危険な境遇のことを意味する。
ここでは地面から無数の刀剣を出現させて攻撃したり、敵の攻撃を防いだりするスキル。
以上となります!
最後まで読んでくださりありがとうございます(*´▽`*)




