#54 第53話 自家撞着・金は天下の回り物・皆既月食
またまたお待たせして申し訳ありません。ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!挿絵が十四枚になりました(/ω\)
さっそく第53話始めます!
桃色蛇に噛みつかれた「獅子」は突然ヘスティアから離れ、洸を襲い始めた。
「うおっ、な、なんだ!?」
洸は意表を突かれるも、すんでのところで「獅子」の攻撃をかわし間合いを取る。
一方「大樹」はまるで意思をもったかのように複数の蔦を伸ばし久愛にからみついていく。
「きゃあっ」
──な、何なの……。大樹が言うことを聞かない……。
横たえている梅佳を守るため、その場を離れられない久愛を容赦なく蔦が縛り上げていく。
「うぐっ」
──だんだん、しめつける力が強くなっていくわ……防御スキルなのに……『撞着』って矛盾と同じ意味だったよね……そうか……言葉とイメージのつじつまがあわないんだ……。
語意からヘスティアのスキル効果に気いた久愛は他のスキルを試しに唱えるが発動しない。
久愛の顔が青ざめていく。
──『自家撞着』スキルって……すべてのスキルが発動できなくなるの? まずいわ……。
「大樹」の幹の中で意識が遠のいていく久愛を見た洸が大声を上げる。
「久愛ううううううううううう」
洸は久愛の元へ駆け寄ろうとするが、「獅子」たちが立ちはだかり前に進めない。
「どけっ!」
「獅子」たちは洸の命令を全く意に介さず、洸に攻撃を仕掛ける。
──くそぅ……こ、これじゃ、助けにいけない……。
一方、蹲っていたヘスティアは乱れた桃色の髪に触れながらおもむろに立ち上がる。ヘスティアも「獅子」に受けたダメージがすこぶる大きかった。
──この傷、治癒に時間がかかるわ……。でも、あの子を倒せたら……。
久愛は意識が遠のく中、あきらめずスキルを試したり、蔦を引きちぎろうとしたりと必死にあらがっていた。
その久愛に向けてヘスティアが口を開く。
「無駄よ。私のスキル『自家撞着』は解けないわ」
──引き換えに、私のスキルも、もう使い物にならないけどね。あの子を倒したら即、退散ね。手柄はできるからこれ以上は深追いしないわ。
洸は『風雲竜虎』スキルを再び唱え、「青龍」と「白虎」を「獅子」に差し向ける。
──久愛はスキルもすべて封じられてるみたいだ……早く助けないと……。
洸自身には『自家撞着』スキルの効果はまだ及んでいなかったためスキルの発動はできたが、強力な「青龍」と「白虎」も多数の「獅子」とは互角で埒が明かない。
ミダスとバトル中のアヤトも、洸とアヤトの窮地に気付く。
──洸たち、ヤバそうだな……。
だが、アヤトが洸たちの方を一瞥した刹那をミダスは見逃さなかった。
「『カネハテンカノマワリモノ』」
ミダスは左手に出現した六本の金のナイフをアヤト目掛けて放つ。
アヤトはミダスのナイフをかわす。だが──。
「うぉっ」
避けたミダスのナイフは曲線軌道を描きながら再びアヤトに向かってくる。
──今度のは追尾タイプかよっ。
何度かかわしたものの、動きを読んで軌道を修正してくるナイフを避けきれず、アヤトは四本の腕を切り落とされた。
「うぐあっ」
アヤトの呻き声が響く。
「ヨソ見ヲスルナンテ、私モナメラレタモノデスネ。アチラヲ気ニスル余裕ハアリマセンヨ! マァ、腕二本ヲ残セタコトニハ賛辞ヲ送リマショウ、アッパレ、アッパレ!」
「ちっ。いちいちうぜぇな、てめぇ……」
──借り物の腕だからダメージは少ないが……面倒臭い攻撃しやがってっ。くそっ。
他方、洸の目の前で「獅子」たちと互角にやりあっていた「青龍」と「白虎」も、多勢に無勢、徐々に押され始める。
──まずいぞ……。このままじゃ獅子を殲滅できない……。
歯がゆい思いで洸が「大樹」に目をやると、伸びた蔦が鋭い先で久愛の胸を貫こうとしているのが垣間見えた。
「あぁっ久愛ううううううううううううっ」
やみくもに久愛を助けに行こうと駆けだした洸の左肩に「獅子」がかぶりつく。
「ぐあああああああっ」
有利に戦いを進め始めたかに見えた洸たち三人であったが、一気に劣勢となった。
そのときだった──。
「『カイキゲッショク』ッ」
声とともに、突如、月と太陽を模した黄色に光り輝く球体が「大樹」を挟むように現れる。
両玉の間に位置した「大樹」の幹に大きな穴がボコンッと開いた。穴が開くと同時に月玉は幻想的な赤銅色へと変色する。それとともに「大樹」の動きが止まった。
久愛を締め付けていた蔦も力を無くし緩む。久愛はゆっくりと立ち上がった。
──こ、このスキルは……。
久愛の表情が明るくなる。
「まさか……助っ人なの?」
二つの玉の攻撃に意表を突かれたヘスティアが声を上げる。
太陽玉と月玉は洸に噛みついている「獅子」を挟むように移動し直線上に並ぶや否や、その体に穴を開ける。同時に月玉は赤銅色に輝き、「獅子」の動きは止まった。
さらに二つの玉は、不規則にあたりを浮遊しながら回りつづけ、「大樹」や残りの「獅子」たちが直線上に並ぶ都度、ぼこぼこと穴を開けていった。
──な、なんなの……あの攻撃……。
ヘスティアはあっけにとられ、二つの玉の動きをただ呆然と眺めていた。
「「勇希くんっ!」」
「……ちっ。おせぇんだよ……」
現れたのは霜月勇希だった。右腕でナインスを抱きかかえるようにして部屋の入口から久愛のいるところに歩み寄っていく。
勇希は洸たちに向けて頭を下げながら大きな声で詫びた。
「先輩方、マジですんませんでした。後で誠心誠意お詫びします。自分のミスは絶対取り返します」
勇希はナインスを抱えたまま、左手で太陽玉と月玉を操り続ける。
円を描くような動きをさせつつ、不規則に軌道をずらしたり、逆回転させたり、または大きさ自体をも変えながら、「大樹」と「獅子」たちに攻撃を続けた。
勇希の『皆既月食』スキルは、太陽と月を模した二つの玉を操り、その直線上にいる敵を攻撃する。空間を削り取るように、目に見えない球体で対象の一部をえぐりとる。
──訓練の時の比じゃないね。勇希君て、あれでも手加減してたんだ……。すごいな、あの攻撃力……。
自身の左肩に噛みついた「獅子」のダメージが軽症で済んだ洸は、勇希のスキルに感心しながら、久愛の傍に駆け寄った。
「大樹」と「獅子」には勇希のスキルによって黒い穴が無数に開き、徐々に粒子となって消えていく。
「すごいわ、勇希君!」
久愛も勇希のスキルに敬服する。
駆け寄った洸が久愛を労わる。
「大丈夫?」
「うん、体は平気。でも……スキルがまだ使えないみたい……」
「そっか……」
ミダスとヘスティアは、二つの玉を警戒し立ち尽くしていた。人間たる勇希がこれほどの攻撃スキルを使うことに、地底人である彼らでも驚きの色を隠せないでいた。
敵の攻撃が消えたのを確認した勇希も、久愛のすぐ横まで歩み寄る。
「勇希君、ほんとに助かったよ。ありがとう」
「勇希君が来てくれなかったら私たち……やられてたわ……」
「いやいや……もともとおれのせいで迷惑かけちまって……。あ、それより、久愛さん、ナインスをお願いします」
「ナインス君、意識を失ってるの?」
「はい……。オレの意識が戻るのと入れ変わるように。ナインスのやつ……責任感じたみたいで、ぎりぎりまで久愛さんのスキル、ぶっ放し続けてたみたいなんすよね。早く先輩たちに合流するよう言ったっきり、動かなくなっちまいました。もとはと言えばオレの自業自得なのに……」
勇希は右手でぽりぽりと頭をかきながら、久愛の傍らに横たえている梅佳に気付く。
「弥生梅佳も……やられたんすね……」
「そうなの、ロキっていう敵のスキル封じにやられてね」
「瀕死の状態から、自爆して相打ちに持ち込もうとしたんだ」
「オレのミスに端を発してますよね……痛恨の極みっす……」
「勇希君、終わり良ければすべて良し、でいこう! 梅佳ちゃんも生きてるし!」
洸は勇希の肩をポンと優しくたたいた。
「そうそう、勝てばいいのよ。あ、そうだ! 私、今、敵のスキルのせいで回復スキル使えないの。勇希君って、回復スキルもってたっけ?」
「回復スキルって程のものじゃないんすけど……」
そう言いながら、勇希はスキルを唱えた。
最後までお読みくださりありがとうございます。Xの方でも応援してくださっている方がいらっしゃって本当に感謝しております。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々にはもう言葉が見つかりませんが、エタらずにがんばれている原動力になっています。完結まではやめませんのでどうぞよろしくお願い申し上げます。
□語句・スキル解説
『自家撞着』
……自身の言動や文章が前と後ろとでつじつまがあわないこと。自分で自分の言動に反する行為をすること。矛盾とほぼ同義。ここでは、スキルを詠唱した時に、イメージとコトバの辻褄を狂わせ、スキルを発動できなくしたり、既に発動しているスキルに対しては敵ではなく詠唱者や味方を攻撃するという矛盾を引き起こすスキル。よって食らった本人の力ではスキル効果を無効化できない。強力が故に、詠唱者自身も同時にスキルを使えなくなるという縛りもある。ヘスティア自身、最後の手段の覚悟を持って使った。
『金は天下の回りもの』
……お金は常に人の間を巡っているものゆえ現在持っていない人のところにもいずれ巡ってくるということ。ここでは、ミダスが金のナイフをお金に見立て、避けても避けても向かってくる追尾型の攻撃スキルとして使った。
『皆既月食』
……月、地球、太陽が一直線に並ぶときに起こる現象で、月が完全に地球に入る場合を「皆既月食」と呼ぶ。皆既日食の場合とは異なり、月が見えなくなるのではなく妖艶な赤銅色になる。ここでは勇希が太陽と月を模した光玉を操り、月、敵、太陽が一直線上に並ぶと、敵が透明の球体による攻撃をくらい体の一部がえぐり取られ穴が開く。攻撃が成功すると月玉が赤銅色に一瞬、輝く。
勇希の十八番ともいうべき強力なスキル。ちなみに訓練の時は単に「日食」「月食」にして威力をおさえ手加減していた。
以上です!




