#53 第52話 狼に衣・雨後の筍・木に竹を接ぐ
長らくお待たせして申し訳ありません。ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方も誠にありがとうございます!週刊誌のやりくちは死ぬほど嫌いです。あ、すみませんm(_ _)m
では、第52話、はじめます!
洸は八体のヘスティアに囲まれ窮地に立たされていた。さらにヘスティアは洸の立ち位置を中心にして円を描くように移動し始める。
洸の目にはヘスティアが何体もいるように映った。
──このスキルのからくりは何だ!?
ヘスティアの声が何重にも重なって洸の耳に入る。
「手詰まりでしょう? そろそろ終わりにしましょうか」
洸は「青龍」と「白虎」をいったん消し去った。
──これ以上攻撃してもこっちが不利になるだけだし……。分身って、ふつう、本体がどこかにいるはずだよね……。
そして洸は青白く光る右の人差し指で合図し、防御に長けた「玄武」を呼び戻した。
──ヘスティアの本体を探し出さないと。
後方の久愛も、必死に打開策を巡らせる。
──どうすればいいの……? 私のスキルで手助けできる?
洸はヘスティア本体を探索するため「鳳凰」を召喚する。
「『飛耳長目』」
洸が唱えると右の掌に青紫の光が灯り「鳳凰」を象っていった。青紫色を基調とした美しい姿になった「鳳凰」は、洸の掌の上で光る粉をまき散らしながらゆっくりと羽ばたく。
「洸っ! サポートするわ! 『ウゴノタケノコ』」
後方の久愛は、胸の前で緑色に光る玉を創り出す。玉は暗い辺り一帯を一瞬で明るくするほど眩い光を放った。
久愛が放った光玉が「鳳凰」に触れると、シャボン玉のごとくはじけその体を優しく包み込む。
「鳳凰」の体はみるみるうちに一回り大きくなり、爆発で崩れて広くなった部屋の上空をキーキーと鳴き声を上げながら、凄まじいスピードで飛び回り始めた。
──なるほど!『雨後の筍』か! 久愛は「鳳凰」を成長させて能力を上げてくれたんだ!
「さすが、久愛。鳳凰が巨大化したよ。以心伝心だね、ありがと」
「どうしたしまして。でも、洸、これ以上のサポートは難しいかもしれないわ。サポートする度に梅佳ちゃんの治癒が遅くなってるみたいなの……」
「OK。久愛は梅佳ちゃんに専念してて」
「できるかぎりサポートも続けるけどね」
「うん、わかった」
洸と久愛が言葉を交わしている間にも「鳳凰」はヘスティア本体を探すべく上空を飛び続けていた。
「無駄な悪足掻きよ。くらいなさいっ!『オオカミニコロモ』『ジャクニクキョウショク』『ジョウジュウフダン』」
八体のヘスティアが中心にいる洸に向けて右手をかざす。各々の桃色の火炎が獣の姿を象っていく。
最初は犬のようなかわいい姿をしていたが、体ができあがるにつれ凶暴な狼へと変貌していく。
狼たちは桃色の火炎をまといながら洸に襲い掛かる。ヘスティアはさらに間髪入れず、後から後から火炎狼を放った。
「や、やばいっ。 この数は……」
防御力の高い「玄武」でも四方八方から襲ってくる狼をすべて対処することはできない。
──ど、どうする……。
そのとき、上空から「鳳凰」が急降下し、洸に向かってきた。
「鳳凰」は鋭い爪をもった両足で洸の両肩を掴むとそのまま再び上空へと飛翔していく。
火炎狼の攻撃が及ばない高度に到達すると、「鳳凰」は一か所に留まった。
「ありがと……危なかった……」
──久愛のスキルで、知能もかなりアップしてるんだね。スーツの浮力もあるから楽でいいね。
「ちっ。索敵能力だけじゃないの? でも、そんなに長くホバリングできないはずよね」
八体のヘスティアが片膝をつき右の掌を地面につける。
「『イッカノダイコクバシラ』ッ」
ヘスティアが唱えると右手から中心部へ向けて桃色火炎がボワっと駆けていく。
洸がいた中心部で桃色火炎が激しくぶつかると上空にいる洸と「鳳凰」に向けて火炎柱が立ち昇った。
火炎柱はうねうねと竜巻のようにうねりながら「鳳凰」と洸に向かっていく。さらにもうひとつ桃色の火炎柱が立ち昇り、それぞれが意志を持っているかのように「鳳凰」と洸に襲い掛かる。
だが「鳳凰」は洸を掴んだまま難なく火炎柱をかわしていった。
──す、すごいな。普段の鳳凰よりかなり能力が高い……。
洸は久愛のスキルでパワーアップしている鳳凰に感心しながら、あたりを見渡す。
──ヘスティアの本体はどこだ!?
そのとき「鳳凰」の両目から白光がレーザーのように放たれ、久愛のすぐそばの地点を照らした。すると白光によってヘスティアの体の一部が露見する。
──あ、あそこかっ! まさか、アイツ、久愛を……。
「させるかっ!!!」
洸が右の人差し指をヘスティアに向け命じると「鳳凰」はヘスティアのところまでほぼ一直線に急降下していく。
「ヘスティアっ! 久愛たちには指一本触れさせないっ!」
洸は叫びながら構える。「鳳凰」は掴んでいた洸を離す。
「『獅子奮迅』!」
洸は青紫色に染まった右拳をヘスティアに向けてぶっ放した。
右拳から青紫色の火炎が生じる。
『獅子奮迅』スキルの火炎が象ったのは、かつてのライオンではなく、空想上の「獅子」であった。青い鬣に水色の肌。青紫色の光や煙を伴いながら「獅子」たちは咆哮する。
ヘスティアも洸の攻撃に気付き、振り向く。
──ちっ。見破られたか。でも、たしか『獅子奮迅』って、ミダスの報告データによれば取るに足らない弱いスキルだったはずよね……。
ヘスティアは左手を前方へかざし防御スキルを唱える。
「『カナイアンゼン』」
ヘスティアの左手から何も生じない。それ以外の変化も見当たらない。洸は何のスキルか読めず警戒する。
──なんだ!? 何のスキル? カナイアンゼン? 家内安全のことか?
久愛も向かってくる洸の声でヘスティアが接近していることに気付く。ヘスティアのスキル詠唱を聴いて即座に応戦する。
「『キニタケヲツグ』」
──ヘスティアは「家」に関する語句の使い手。『家内安全』ならきっと防御スキルだわ。
久愛が放ったグリーンの光がヘスティアの周囲に出現した透明の防御壁を緑色に染めていく。
──やっぱり防御ね。アヤト君の矢を防いだのはこの透明の防御壁だったんだ。
「洸っ! 大丈夫よ! 壁の防御力も落ちてるはず!」
「OK!」
洸に命じられた「獅子」たちは、勢いそのままヘスティアを攻撃する。
ドゴンッ──。
「獅子」は防御壁を難無く突き破り、そのままヘスティアに襲い掛かった。
「うぐっ」
牙をむき出しにした「獅子」たちが大口を開けて次々にヘスティアにかぶりついた。
──な、なんなの、この威力……。報告データと全然違うじゃない……。それとも、また皐月久愛のスキルのせいなの……?
「ぐああああああああああああああああ」
──うぅ……報告じゃ、ただのライオンだったはず。これはもう……ライオンじゃないわ……幻獣?神獣?の獅子!? パ、パワーが凄まじい……まずいわ……このままじゃヤられる……。
「くっ。やむを得ないわ……『ジカドウチャク』」
苦し紛れにヘスティアがスキルを放つと、ヘスティアの桃色の髪の一部が変形し、蛇のようにうごめきだす。
桃色髪は数匹の蛇となり、洸の「獅子」たちと、『寄らば大樹の陰』で久愛と梅佳を守っている「大樹」に噛みついた。
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□語句・スキル解説
『雨後の筍』
……雨が降ったあと筍が次々に現れることから①物事が相次いで現れること又は②成長がはやいことのたとえ。
ここでは、召喚獣を即座に成長させパワーアップさせるサポートスキル
①『狼に衣』
……善人のようにみせかけて内面は恐ろしいことのたとえ。
②『弱肉強食』
……弱者の犠牲があって、その上にいる強者が繁栄すること
③『常住不断』
……途切れることなくずっと続いていること
①~③はヘスティアの合わせ技で①かわいい動物と見せかけて凶暴な狼を召喚し、②弱者を蹂躙する強力な火炎を発生させ、③その火炎狼で途切れることなく攻撃するスキル。※ヘスティアは「家」や「炉」の他に「衣・食・住」の文字を使った語句スキルを使える。
『一家の大黒柱』
……日本の家屋において最も太く家の象徴的な柱を意味するが、転じてグループを支える重要な人物のことをさす。
ここでは火炎狼を束ねて大黒柱のような太く長い火炎柱を生じさせる攻撃スキルのこと
『獅子奮迅』
……獅子が荒れ狂ったようにふるまうことから、すさまじい勢いで奮闘する様子を意味する。
もとはAI暴走中第一部で洸之介が多用した凶暴なライオンを召喚する攻撃スキルで、ミダスとの初陣でも使用した。第二部では、洸之介が幻獣、神獣の獅子をイメージすることでさらに強化された攻撃スキルとなった。
『家内安全』
……家族に病気や怪我、災害による被害がないことを意味する。
ここでは、ヘスティアが透明の防御壁で身を守るスキル。これにより怪我をせず身の安全が守られる。
『木に竹を接ぐ』
……木に竹を継ぎ合わせても変であることから、前後の釣り合いがとれず、筋道が通らないことを意味する。
ここでは、敵の防御スキルを無効化したり、弱体化したりするスキル。敵のスキルに応じて釣り合いが取れないようにスキル効果が変わる。
『自家撞着』
……撞着=矛盾。つじつまがあわないことを意味する。スキル効果については次話にて。
今回最後までお読みくださり感謝しております。
週刊誌をぶっつぶしたい衝動に駆られる毎日を過ごしております。でも声を上げた被害女性を攻撃するのは違うと思います。敵は週刊誌(中の人と週刊誌を悪用する人たち)一択だと思います。




