#52 第51話 雲龍風虎・弁慶に薙刀・自由自在
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では第51話はじめます!
久愛は梅佳の治癒に努めながらも、洸たちのバトルの動向を見守り、適宜サポートを続けている。
久愛の傍らで横たえている梅佳は、依然、意識不明のままであったが、久愛の防御スキル『寄らば大樹の陰』による鉄壁の防御壁で守られていた。
「洸っ! スキル効果を無効にしたわ!」
洸は久愛の『捲土重来』スキルによって頭の中にあった白い靄が晴れたような感覚を覚える。
「久愛っ! ありがとう! もう大丈夫だ!」
──よしっ! 記憶が戻ってる! 闘えるっ!
一見動じていないように見えるヘスティアだが、久愛の『捲土重来』スキルには驚愕していた。
──私の『徙家忘妻』スキルをこんなにたやすく無効化されたのは初めてだわ。あの子の防御、サポート能力……やっぱり厄介ね……。
ポーカーフェイスを装いつつ、ヘスティアが次の手を打つ。
「なら、これはどうかしら? 『イッカリサン』っ!」
ヘスティアの右半身から桃色の煙が生じ、人の形を象っていく。陽炎のようにゆらゆら揺れる桃色煙は徐々に実体を持ち始め、ヘスティアそっくりの容姿になっていった。
──ふ、ふたりになった!?
洸はヘスティアの分身に一瞬ひるむも、構わず反撃に出る。
「なら、二対二だっ! 『ウンリュウフウコ』!」
洸が両腕を広げる。両手に青紫色の火炎が灯ると、右手の火炎は青い龍へ、左手の火炎は白い虎へと変わっていく。
──どちらかが本体のはず……。同時にふたり攻撃するぞ。
洸は『雲龍風虎』スキルで再び「青龍」を召喚しただけでなく「白虎」をも召喚したのだ。
いずれも中国の神話、天の四方の方角を司る霊獣である。体色だけは洸のトレードカラーにちなんだ青紫色が混ざっているが、姿形から強暴な獣であることは明らかだった。
「さぁ、いけっ!」
洸が青白く光る両手の人差し指をともにヘスティアの方へ向ける。
「青龍」の体の周りには青紫色の雲がたなびき、「白虎」の体の周りには鋭い風が吹いている。
「青龍」と「白虎」は咆哮しつつ、それぞれ分身したヘスティアへと向かっていった。
だが──。
青龍が先ほどと同じようにヘスティアを雁字搦めにしようとすると、弾けるようにヘスティアの体は粒子となって飛び散り、また二体のヘスティアが現れる。
白虎が両の前足でヘスティアを掴んで押さえつけようとすると、こちらもまた粒子となって弾けて消え、白虎の両前足は空を切った。こちらのヘスティアも分裂したのだ。
「なっ!? ま、また、増えた……」
──このまま攻撃を続けてもヘスティアの数が増えていくだけなのか!?
初手でこそヘスティアを追い詰めた洸だが、今ではヘスティアの真の手強さをじわじわと実感しつつあった。
一方、アヤトとミダスの方は──。
『疾風迅雷』で速度を増しているアヤトの六本の腕が繰り出す連撃──。
これがミダスを防戦一方に追い込んでいた。
ミダスの体に少しずつ切り傷が入り始める。
「ナカナカヤリマスネ……二枚ノ盾デハ限界ノヨウデス……本気デ防御スルトシマショウ!『金城鉄壁』」
ミダスは自身の正面と背後にも左右と同じく金の盾を創り出す。
「私ノ完全防御形態デスヨ。コノ私ヲココマデ追イ込ムトハ大シタモノデス! 褒メテサシアゲマショウ」
「その余裕、いつまでもつかな?」
アヤトは攻撃の手を止めない。それどころか六本の腕になじんできたアヤトはさらに剣技の速度と威力を上げていった。
刀と盾が激しく衝突する度、金属音と爆発音が混ざったような豪快な音が響いている。
「ヌゥ……面倒デスネ……ソレデハ……『金縛り』っ」
ミダスはかつて皐月久愛の身動きを封じた『金縛り』スキルをアヤトに向けて放った。
──ちっ。
アヤトが舌打ちをするかしないかのうちに後方から久愛がサポートスキルを唱える。
「『ジユウジザイ』ッ!」
──『金縛り』スキル対策はバッチリなんだからね。同じ手は何度も通じないわ。
久愛の右手の人差し指と中指の先が黄緑色に光ると、さらに輝きを増した二本の光はアヤトたちの方へ伸びていった。
緑の光の一方はアヤトに、他方は洸に降り注ぎ、アヤトと洸を包み込んだ後、消えていった。
「ふたりとも『金縛り』スキルは封じておいたわ!」
「「サンキュ!」」
「どういたしまして!」
アヤトは『金縛り』スキルをはね返し、さらにスキルを唱える。
「『ベンケイニナギナタ』『イッポンヤリ』ッ」
脇腹から生えていた両手が持つ刀が長く伸びていく。どちらも刀の倍の長さになると、右の刀は槍へ、左の刀は薙刀へと形も変えていった。刀だけでなく、薙刀も槍もバチバチと帯電している。
「オォ……ソレモ古ノ武具デスネ……デモ、ソレデハ刀ヨリ速度ガ落チマスヨ」
「あぁ、確かになっ!」
ガキンッ──。
アヤトが左から右へと薙刀を振るい、ミダスの前にある金の盾を薙ぎ払う。アヤトは『弁慶に薙刀』のスキルで自身の力を倍増させていたのだ。
「グオッ ナントイウ、チカラ……」
「喰らえっ!」
続けざま、右手の槍をミダスの腹へ向け突く。『一本槍』は一撃必殺となる強力な一突きを食らわせるスキルだった。
すかさずミダスも唱える。
「『地獄の沙汰も金次第』っ」
ミダスは金色に光る右の裏拳で槍先を救い上げるように受け流す。
アヤトの槍はミダスの右の方へとそれていき、ミダスの右肩をかすめただけに終わった。
「マダマダ甘イデスネ~。キノコ君ノ攻撃、イツニナッタラ私ニ効クノデショウ?」
ミダスが左手で右肩を治癒しながら、アヤトを煽る。
だが、アヤトはかわされることを予期していたかのごとく、同時に唱えていた。
「『光陰矢の如し』っ」
アヤトの体の周りでは稲光が激しさを増し、その両肩から生えた一番上の両の手にプラチナ色に輝く弓矢が現れる。白光の粒子が零れる中、アヤトは即座に弓を引き、矢を放った。
矢は凄まじい速度でミダスの額へと向かう。
ミダスは再び『地獄の沙汰も金次第』で防ごうとするも、『光陰矢の如し』スキルがもつ「時を早める」効果で間に合わない。
「ナ、ナントッ!」
ザクッ──。
ミダスが額を守ろうと防御した右腕に、アヤトの弓矢が突き刺さる。
「グアアアッ」
ミダスが初めて痛みに呻いた。
腕の傷口から光の粒子が漏れ出し、ミダスの右腕は肘にかけて消えていく。
──コレハ……バトル中ニ治癒デキナイレベルノダメージデスネ……。
「グゥ……」
「今のは効いたよな?」
ここぞとばかりにアヤトが煽り返す。
「ヤリマスネ~キノコ君」
ミダスの額から汗が流れる。
アヤトは構えを崩さず、ミダスを睨みつけていた。
──……かなり自信のある大技だったんだがな……これでやっと腕一本かよ……。骨が折れるぜ……ったく。
同じ頃──。
洸は「青龍」と「白虎」で二度目の攻撃をしかけていた。
だが、ヘスティアの分身はさらに増え、八人のヘスティアが洸を囲む形となっていた。
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□語句・スキル解説
『捲土重来』※再掲・補足説明の追加
……一度静まった土煙が、再び舞い上がるという意味から転じて、一度落ちた勢いを再び取り戻すことのたとえ。この意から、ここでは弱体化などの効果を無効化するスキル。ヘスティアの『徙家忘妻』やロキの『虚言癖』の「スキル封じ」効果をも無効にできる、久愛のサポートスキルの中ではかなりランクの高い強力なスキルである(久愛本人はまだこのスキルの凄さの自覚はない)。
『一家離散』
……家族がばらばらになること。ここでは「炉」や「家・家庭」を司る神の末裔であるヘスティアが詠唱者であることから、ヘスティアがバラバラになる「分身の術」スキルとなっている。
『雲龍風虎』
……龍は雲とともに虎は風とともに現れるとされたことから英雄や豪傑のことを指したり、または優れた者には優れた者が引きつけられることを意味する。ここでは中国の神話、天の四方の方角を司る霊獣「青龍」(※東を司る四神獣)と「白虎」(※西を司る四神獣)を召喚するスキル。※なお洸は『人中の龍』スキルで「青龍」のみを召喚することもできる。
『金縛り』※再掲
……恐怖や疲労等で急に体がこわばって身動きがとれない様子を意味するが、ここでは文字通り相手の身動きを封じるスキル。
『自由自在』
……自身の思いのままにすること、又は、そうできる状態を意味する。ここでは拘束された状態を解除したり、拘束系スキルを跳ね返すスキル。久愛は以前くらったミダスの『金縛り』スキルを無効化できるように訓練と準備をしていたのである。
『弁慶に薙刀』
……強い者が何かを得てさらに強くなることを意味する。「鬼に金棒」と同義で使われる言葉。ここでは自身の力を倍増させるスキル。
『一本槍』
……一本の槍で勝負を決めることから転じて、一つの手段や姿勢を押し通すこと。ここでは武器として槍を出現させた上で、一撃必殺となる強力な槍での一突きを食らわせるスキル。
『地獄の沙汰も金次第』※再掲・補足説明の追加
……閻魔による地獄の裁判も金を出せば有利になるという意味から、この世は金の力ですべてのことがどうにでもなることのたとえ。ここでは金の何かと引き換えに敵スキルをどうとでもできるスキルのこと。ハーデスは「地獄」の文字から同スキルを用いたが、ミダスは「金」という文字から同スキルを用いている。
『光陰矢の如し』※再掲・補足説明の追加
……月日が経つのがはやいことを意味する。ここでは弓矢を出現させて、矢の付近の時の流れを加速させることで拳銃の弾丸並みに速い矢を放つことができるスキル。アヤトが瀕死のロキに向けて放った際はヘスティアの防御壁によって防がれたが、今回のミダス戦においては他のスキルと組み合わせたコンボによって一矢報いることができ、ミダスの腕一本を消すにいたった。
以上になりますm(_ _)mここまで読んでくださった方はAI暴走中Ⅱが大好きな方なのかもしれません。いや、きっとそうです。否、絶対そうです( *´艸`)ありがとうございました!




