#51 第50話 籠鳥檻猿・快刀乱麻・捲土重来
更新が遅れて申し訳ありません。ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!本話は、第6章第42話に続く箇所になります。地底での洸たちの戦いの続きになります!
洸之介「久愛、僕たちってさ……」
久愛「なぁに?」
洸之介「主人公だったよね?」
久愛「そ、そうね」
洸之介「出番が少なすぎない?」
久愛「……た、たしかに……」
アヤト「お前ら、まだいいぜ。俺なんてまともに良いとこナシだぜ」
洸乃介・久愛「……たしかに……」
アヤト「…………(少しは否定してくれても良くね? まぁしばらく俺たちの出番だけどな)」
では第50話始めます!
「『人中の龍』『ロウチョウカンエン』!」
洸の右手に青紫色の火炎が灯り、龍の頭を象っていく。青紫龍は目にもとまらぬスピードでヘスティアに向かっていった。
ヘスティアはロキを守るときに使った防御壁を再び出現させようとするが──。
──ま、間に合わない。
青紫龍はヘスティアの不意をつき、その肢体に絡みついていく。
「ぐっ」
『籠鳥檻猿』とは籠の中の鳥、檻の中の猿、転じて、自由が奪われた状況を意味する。洸は『人中の龍』とあわせることで、青紫龍にヘスティアの肢体を雁字搦めにさせて自由を奪ったのだ。
──ま、まずいわ……。
ヘスティアの表情が苦痛で歪む。
洸は青紫色に光る右の人差し指を青紫龍に向ける。
すると、青紫龍はさらにヘスティアを締め上げた。龍は頭部から尾にかけて一回り大きくなっていく。
「ぐあああっ」
ヘスティアの呻き声が響く。
──これで倒せたらかなり楽になるぞ!
ヘスティアが意識を失いかけた矢先──。
ミダスの声が響く。
「『カネノキレメガエンノキレメ』」
ザクザクザクザクザクッ──。
──りゅ、龍が細切れにされたっ。
洸が驚き、ミダスの方へ目をやると、右手に金色のナイフを持ちながら不敵な笑みを浮かべるミダスの姿が目に入った。
ミダスは金色のナイフをいくつか放ち、ヘスティアを縛り上げる青紫龍を千々に切り裂いたのだ。
解放されたヘスティアはしゃがみこんで、ごほごほと咳き込んでいる。
「イヤァ、見事ナ龍デスネ。シカシ、マァ、ナンデスカ、『金の切れ目が縁の切れ目』トイウ諺。地上ノ人間タチハ金ガ無クナッタ人ヲ相手ニシナクナルナンテ、ナント無慈悲ナ生物ナノデショウ」
アヤトがキレ気味に声を荒げる。
「てめぇ、タイマンって言ったろっ」
「洸トヤラノ、フライング攻撃ヲ防イダマデデス。ソモソモ仲間ヲ手助ケスル余裕ヲ与エテイルノハキノコ君デスヨ。私ヲ責メル前ニマズハ自分ノ至ラナサヲ反省シナサイ」
「うぜぇっ! 地底人のくせに口だけは達者だなっ」
「口ダケカドウカ、マタ思イ知ラセテアゲマショウ!『金に糸目を付けぬ』」
ミダスが両拳を胸の前で握りしめると、ミダスの頭上あたりに金色の紙幣が数枚ずつ綺麗に並び浮遊する。ミダスが指を鳴らすと、紙幣は金の刀身と形を変えていった。
ミダスは両腕を前方に突き出し、金の刃をアヤトへ放つ。
「そのスキルは一度見てんだよっ!『疾風迅雷』『カイトウランマヲタツ』ッ」
アヤトは自身をスピードアップさせ、右手に帯電した日本刀を出現させる。
アヤトの黒髪がふわっとなびいた。
カキンッカキンッ──。
アヤトは向かってくる金の刃を両の刀で次々と左右に薙ぎ払っていく。
「根比ベスルツモリデスカ? 私ノ刃ハ無限ダトイウコトヲ、オ忘レデ?」
「くっ」
──たしかに、これがずっと続くならジリ貧だ……。
攻めあぐねるアヤトの傍らで洸がスキルを唱える。
「『盲亀の浮木』『タイショクカン』」
梅佳を守った亀と蛇の守護神「玄武」を再び召喚する。
アヤトがすっかり隠れるほど巨大な「玄武」がアヤトの前でミダスの方を向く。青紫色の体の周りには白煙が立ち昇っていた。
「玄武」は大口を開けてミダスの放った金の刃をすべて飲み込む。後続の刃は蛇の尾で薙ぎ払い、また亀の口で次の刃を飲み込む。
『大食漢』スキルによって「玄武」は底なしの食欲になっているのだ。
「オォ~何トイウ生物! スバラシイ! デスガ、タイマンデハナカッタノデスカ?」
ミダスの言葉に、洸が珍しく揶揄うように言い返した。
「さっきのお返しだよ。助太刀する余裕があったからね」
「ソウデスカw! ナラ私達ガ悪カッタヨウデスネw 反省スルトシマショウw」
「アヤト、玄武を使って! 攻撃に専念できるよ」
「あぁ、ありがとな。でも、洸、もうこっちは気にしなくていいぜ」
「うん、僕も自分の相手に専念するよ」
アヤトはミダスを睨みつける。
「ミダスッ! てめぇだけは絶対ぶちのめすっ!」
「威勢ガ良イノハ嫌イデハアリマセンヨ!」
「『デンカノホウトウ』『リョウトウヅカイ』」
アヤトが唱えるとアヤトの左手にも帯電した日本刀が生じ、いわゆる二刀流のスタイルになった。
刀にまとわりつくように稲光が走り、バチバチバチッと大きな音も響く。
「くらえっ」
アヤトがミダスに向けて刀を振るう。
「ソンナ遠クカラデハ当タリマセンヨ! 間合イトイウモノガ分カッテナ……」
「ふんっ」
アヤトの帯電した刀の切っ先がミダスの腹を切り裂く。間一髪で致命傷は避けられたものの、ミダスの腹に血がにじんだ。
「グォ……」
──刀ガ伸ビマシタカ……? ソレトモ帯電ガ関係シテイル?
アヤトは手を止めない。
「何度モ同ジ手ハ通ジマセンヨ!『キンジョウテッペキ』」
ミダスの胸の青いペンダントが眩く光るや否や、両サイドに金色に輝く円盤状の盾が出現する。盾が完成するとその中心がさらに強い光を放った。
「おらぁーー」
アヤトの雄たけびが響く。
ガキガキン、バチバチバチッ──。
衝撃音とともに稲光が走る。だが、アヤトが左右から振るった太刀はミダスの金の盾に見事に防がれた。
一方でミダスの盾にはヒビ一つ入らない。
「ふんっ! まだまだっ! 『アシュラドウ』っ!」
アヤトは動じることなく次の手を打つ。
アヤトの背後に阿修羅がうっすらと浮かぶ。
その瞳が光るや否や、アヤトの両肩と両脇腹あたりから左右二本ずつ新たな腕が生え、その四本の手にも帯電した日本刀が現れた。
稲光が走る度に、暗い周囲が一瞬で明るくなり、雷鳴が轟く。
「ホォ。興味深イ。仏教デイウトコロの阿修羅像デスカ!」
「余裕ぶっこいてんなっ! いつまで持ちこたえられるか、勝負だっ!」
アヤトは六本の刀でミダスに連撃を繰り出す。
ガガガキンッガガガキンッ──。
アヤトの六本の刀が繰り出す強烈な攻撃をミダスは二枚の盾で見事に防御する。
アヤトとミダスの攻防が始まった頃──。
ヘスティアが洸に向けスキルを唱える。
「『シカボウサイ』」
ヘスティアが前に伸ばした右の掌から霧状の光の粒子を噴出させる。
──な、なんだ!?
洸はステップでかわし直撃は免れた。
だが、霧は桃色に変色しながら広範囲に急速に広がっていく。そのため、洸は『徙家忘妻』スキルの霧をもろに浴びてしまう。
──ん!? え!?
洸は頭に白いモヤがかかったように感じた。洸の記憶の一部が欠落したのだ。
「フフフ。貴方、スキルを思い出せなくなったのよ。言葉だけでなくそれに必要なイメージもできないわ」
──まずいっ。なんだこれ……。スキルで使う言葉だけが思い出せない……。こ、これ……スキル封じと同じじゃないかっ。
焦る洸にヘスティアが追い打ちをかける。
「『爛腸之食』」
スキルを唱えたヘスティアの右の掌上に桃色の火炎玉がボワっと現れ、分裂していく。
ヘスティアが右手を前方にかざすと、桃色火炎玉が次々に放たれた。
スキルを唱えられない洸であったが、ヘスティアの桃色火炎玉を難なくかわしていく。
アヤトが『疾風迅雷』の速度アップの効果を洸にもかけていたのだ。
「私の火炎玉も無限に続くわよ。スキル無しでいつまでかわし続けられるのかしら? 食べてもいいいのよ。桃色だから桃の味がするかもね」
ヘスティアは後から後から桃色火炎玉を洸に向けて放ち続ける。
──よけてばかりじゃ倒せないぞ……。どうする!?
防戦一方となっている洸の後方から、久愛がサポートスキルを唱える。
「『ケンドチョウライ』!」
久愛の右手から放たれた光は土色の粒子となって洸に降り注がれた。
最後までお読みくださりありがとうございます。あまり読まれなくなりましたが完結までやり遂げます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。かなり励みになっています。今後ともよろしくお願い申し上げます。
□語句・スキル解説
『籠鳥檻猿』
……籠の中の鳥、檻の中の猿、ということで自由を奪われている状態のたとえ。ここでは相手の自由を奪うスキルであるが自由の奪い方はイメージや組み合わせるスキルによって変わる。
『金の切れ目が縁の切れ目』
……金がある時は人が寄ってきてちやほやされるが、金がなくなると相手にされず人が離れていくという意味。ここでは文字通りの意味で金の刃で入れた切れ目によって何かを断ち切るスキル。
ミダスはヘスティアを縛っている龍を金の刃で断ち切ったのである。
『快刀乱麻を断つ』
……複雑に絡まった麻を刀できれいに断ち切ることから転じて、難題を見事に解決すること。ここでは敵の攻撃を見事にかわしたり、実力差のある敵であれば、速攻で見事に切り倒すスキル。
『伝家の宝刀』
……代々、家に受け継がれている名刀という意味から転じて、ここぞという大事な時だけに使う物や手段を意味する。本文では詳細な説明を割愛したが、実はこのスキルによってアヤトの二本の刀は第一部でタマヨリが使ったムラサメとムラマサとなっている。さらにアヤトの特性である雷が帯電する形でさらに威力が増している。
『両刀使い』
……文字通り二本の刀を使うという意味だが、転じて、二種類の対になったものを両方使ったり好んだりする場合一般を指すようになった。
ここでは二刀流の名人級の剣技が身につくスキル。
『金城鉄壁』
……金の城、鉄の壁、つまり、きわめて堅い守りのこと、転じて、つけいる隙がない堅固さを意味する。
ここでは堅固な盾を出現させる防御スキル。
『阿修羅道』
……たがいに憎み合い、争いが絶えない世界のこと。阿修羅が戦闘の神とされたことから。
ここでは自ら阿修羅のごとく激しく攻めることができるスキル。アヤトは実際に腕を六本にして凄まじい攻撃をしている。
『徙家忘妻』
……転居の際に妻のことを忘れて置いてきてしまった逸話から、転じて物忘れがはなはだしいことを意味する。
ここでは敵の記憶の一部を失わせ、スキルに必要な語彙力を奪うスキル。
ロキの『虚言癖』と同じくスキル封じの効力をもつ恐ろしいスキルである。
『捲土重来』
……一度静まった土煙が、再び舞い上がるという意味から転じて、一度落ちた勢いを再び取り戻すことのたとえ。
ここでのスキル効果は次話で明らかになります!
以上になります。
長文、最後までお読みくださりありがとうございました!




