#47 第46話 歳月人を待たずvs冥土の土産
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第46話、さっそくはじめます!
「お前ら、勘違いしてんじゃねぇぞ。この前はたまたま俺様の不意を突いて逃げられただけなんだぜ? ちょっとやそっとの成長で埋まる差じゃねぇのよ」
「うるさいわねっ! 私たちだって相当レベルアップしてるのよっ!」
ハーデスの煽りにつられて、萌莉も声を荒げる。
「レベルだとぉ? 俺様とお前らじゃ次元が違うんだ。次元がなっ。さぁ~終わりにしてやるぜ~」
ハーデスが槍を両手に持ち直し、スキルを唱える。
「『アッキラセツ』『チョウリョウバッコ』ッ!」
「萌莉さん、別のスキルですわ。悪鬼羅刹!? 跳梁跋扈!?」
「オケ!『先見の明』っ!」
萌莉は時を進めハーデスのスキルを早送りで垣間見る。
「美伊ちゃん、カリンちゃん、すごいのが出てくるわ。スキルは使わないみたいだけど、炎と棍棒、パワー型、気をつけてっ」
ハーデスが右腕を前方に突き出して掌を上に向けると、掌上の青黒い火炎が地面へポトリと落ちる。一瞬であたりに炎が広がるが、火はすぐに消えた。
すると間髪入れず、地面の所々が青く光る。
『魑魅魍魎』と『百鬼夜行』のときより数は少ないものの、かなり大きな青いサークルが地面に現れた。
「今度のはな~俺ですらコントロールしきれねぇ奴らだぜぇ~」
地面のサークルから青黒い火炎とともに空想上の強靭なモンスターが這い出てくる。
火を吐く巨大な青鬼──。鋭い目つき、禍々しい角と牙。ウォーという不気味な叫び声とともに三人を睨みつけながら這い出てくる。
棍棒を所持した青ゴブリン──。他よりは少し小さいものの、目つきは鋭い。頭のてっぺんだけ青い毛を生やし、とんがった耳、豚の鼻で、グヘヘグヘヘと気味の悪い声を出している。
一つ目の青いサイクロプス──。青鬼やゴブリンより一回り大きい筋肉質な体。ゴブリンより巨大な棍棒を手に持っている。一つ目がぎょろっと動き、何か探しているかのようだ。
三人やハーデスと比べて優に二倍を超える上背だけでなく、それらが何体も出現したことが、三人の恐怖心を一層煽った。
「ニャニャニャ……」
「さっきの魑魅魍魎よりヤバそうね……」
「一体だけでも手こずりそうですのに……」
サイクロプスが手に持つ棍棒を何度か地面にたたきつけると、地震が起こったかのように大地が揺れる。
「「きゃぁ」」「にゃ……」
三人は立っていられず、しゃがみこんだ。
「フハハハハッ。さぁ、どうする? 泣くか? わめくか?」
高みの見物をするハーデスの声が響き渡る。
「くっ。美伊ちゃん、アレお願い」
「も、萌莉さん、まさかアレを!? ダメですわ。この数を相手にしたら……」
「もうやるしかないよ。一体ずつなんて悠長なこと、言ってられない」
「でも、萌莉さん、時にまつわるスキルを使いすぎでございますわ」
「やらなきゃやられる。三人ともここで死ぬよりはマシよ」
萌莉の言葉に、美伊とカリンの顔が引きつった。
「……って、死ぬ気はないわよ。もし限界を超えても、カリンちゃんもいるし、美伊ちゃんも回復スキル、使えるでしょ?」
「でも……」「……ニャ……」
美伊とカリンは心配そうに萌莉を見つめる。
「ハーデスだったかしら? 次元が違うのかどうか、確かめるといいわ」
「あぁん?」
「……『ゼンビヲツクス』」
美伊が不本意ながらも両手で杖をもち、萌莉に向けて杖を一振りした。
杖先から放たれたハート型のシャボン玉が萌莉の体に触れるとはじけ、霧状になった桃色の光で萌莉を包み込む。美伊の『善美を尽くす』スキルで、萌莉のスキルがパワーアップしたのだ。
「さっきまでとは威力が違うからっ!!! くらいなさいっ!!! 『銀世界』『ゼッタイレイド』ッ!」
萌莉が先ほどより強力なブリザードですべてのモンスターを次々に凍らせていく。
絶対零度とは地球上でもっとも低い温度とされるマイナス二七三・一五度を意味し、あらゆるもの動きが止まってしまう温度である。
「ケッ。性懲りもなく、同じ手を」
ハーデスはモンスターたちの最後尾で余裕の笑みをこぼす。
「何、余裕ぶってんのよ。あんたも凍るのよっ!」
絶対零度の銀世界スキルで、ハーデスも一瞬にして凍っていった。
「よしっ!」
「やったニャっ」
「も、萌莉さん」
「ん!?」
「いったんひきませんか? しばらく凍ったままだと思いますし、時にまつわるスキルを使わずにすみます」
「さ、賛成ニャ……あたしのスキルも、美伊たんのスキルも効かないニャ……」
「……ダメ。いずれ誰かがやらなきゃいけない。何度逃げてもまた同じことよ。これで仕留めて見せるわ」
萌莉はふたりの提案を断固拒否した。覚悟を決めたするどい目で、凍った敵たちをにらむ。
ふたりはまた心配そうに萌莉をみつめている。
「萌莉さん……」「ニャ……」
「いくわっ!『サイゲツヒトヲマタズ』『灰燼に帰す』ッ!」
萌莉が顔の前に両手を構えると、空中に時計が二つ生じた。
萌莉の眼前の時計が光ると形が歪む。すぐさま他方の時計の針が時計回りにグルグルと回転し始め、針がまき散らす光の粒子が銀河系のごとき渦をつくっていく。
萌莉が唱えたスキル『灰燼に帰す』は時を進めて対象を灰とするスキルだが、このスキルの時を進める効力は微力であるため、『歳月人を待たず』スキルで上乗せし、対象の時の経過を爆速させたのだ。
「人類に仇なす者たちよ。すべて朽ち果てなさいっ!」
凍てついた敵たちは朽ちて氷の塵となっていく。
だが、モンスターたちが消えていくにつれて、萌莉の体力も激しく消耗し、萌莉の顔色はみるみるうちに青ざめていった。
スキルは脳内イメージの具現化。ことに対象物だけ時を進めるためには、それ以外のすべてに対して時の巻き戻しを同時並行でおこなわなければならない。
強力すぎる萌莉のスキルはいわば諸刃の剣であった。
「……ハァハァ……」
萌莉はかろうじて立っている状態だ。
「……おねがい……ハァハァ………これで……終わって……」
ふらつく萌莉を美伊とカリンが支える。
「……ハァハァ……あり……がと……」
その言葉を最後に萌莉の意識が途切れた。
美伊とカリンはそっと萌莉を横に寝かせる。
「カリンさん、治癒をお願いします」
「了解ニャ」
カリンが萌莉の回復を始めると美伊は敵陣営の方へ振り返る。
萌莉の強力なスキルが、敵の後方に向かっていることが見て取れた。前方にいる敵から氷塵となって舞い、次々に消えていく。
──おねがい、これで終わってください……。
美伊はモンスターたちの消滅していく様を祈るように見つめた。
だが──。
一体だけ、凍てついたまま朽ちずに残っていた。そう、ハーデスだ。
──遅い。彼だけが残っていますわ。効いていないのでしょうか……。
美伊は凍ったハーデスの傍まで駆け寄る。
──効いてなければまずいですわ。今なら私のスキルが効くかも……。
「『核心を突く』!」
美伊がハーデスにとどめを刺すべく唱え、杖で桃色の光線を放つ。
パリンッ──。
ブーン──。
紙一重の差──。
ハーデスが先に氷をかち割り、またもや槍で美伊の攻撃を無効化する。
「あぁ……」
──間に合わなかったですか……。
「あ~、超イラつくぅ~あ~ウザウザウザウザウザウザウザウザウザぁ~……」
先ほどまでの余裕の笑みとは打って変わって、怒り狂い、鬼の形相で美伊たちをにらみつけている。
「お前ら、調子に乗りすぎだ~」
ハーデスが槍先を美伊に向けて構えると、その目が青白く光る。
「終わりだ。これは回避不能だぜ~『メイドノミヤゲ』ッ」
ハーデスの槍先に青黒い火炎が灯ると、同じ色の煙が辺りを包み込む。ハーデスの顔にうっすらと死神の顔が浮かんだ。
ハーデスの構えた槍が伸び、狙い定めた美伊の方へと向かう。もはや槍というよりは弓矢やアーチェリーに近い。
美伊も防御スキルを唱えようとするが全く間に合わない。
ザクッ──。
「きゃあああ」
伸びた槍先が無惨にも美伊の右脇腹を貫き、その槍先から赤い血が滴る──。
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■語句スキル解説
□『悪鬼羅刹』
恐ろしい魔物を意味し、一般に魑魅魍魎と同義とされる。ただ、ハーデスは魑魅魍魎スキルより巨大な魔物を召喚するように使い分けている。
□『跳梁跋扈』
悪い者などがのさばりはびこること。「跳梁」ははねまわること、「跋扈」はおどりでることを意味するが、どちらも好ましくない者たちが我が物顔でほしいままに行動することを意味する。
ここでは『悪鬼羅刹』スキルで召喚した怪物で攻撃させるスキルを意味する。
□『善美を尽くす』
この上ないほど善く美しくすることを意味する。ここでは味方のスキルをこの上なく強化するスキル。ただ美伊は、萌莉の時にまるわるスキルの副作用を懸念して、萌莉に使わないようにするつもりであった。
□『銀世界』『絶対零度』
銀世界は既出だが、これに『絶対零度』スキルをあわせることで、凍らせるパワーをマックスにまで上げている。ただ味方による強化サポートがないと使えない。
□『灰燼に帰す』
※第一七話より再掲。語義は跡形もなく燃え尽き、灰となること。この意から対象物を灰にするスキルであるが、萌莉は燃やすのではなく時を加速させ朽ちさせる。ただし、灰燼に帰す単発では時を加速させる力は少ない。
□『歳月人を待たず』
月日はどんどん過ぎ去ってゆくこと。転じて月日が経つのは早いから大事にするべきだという意味の故事成語。類義語として光陰矢の如し、烏兎怱怱がある。
ここでは対象物の時間を早送りするスキル。本文にあるように対象物以外はすべて時を巻き戻しているため尋常じゃないほど体力を消耗させる危険なスキル。
□『冥土の土産』
あの世にもっていくものを意味する。冥土はあの世、死後の世界を意味する。
ここでは冥府の王ハーデスの最強スキルの一つで、槍で殺害した敵の魂を文字通り、冥土の土産に持って帰るというスキル。ハーデスは回避不能だと豪語しているが、厳密には魂を冥途に持って帰ることが回避不能なのではなくて、槍の攻撃が回避不能だという意味。それも必ずしも急所をとらえるわけではないので、かなりのブラフだと思われる。
以上です。今回は語句スキル解説がかなり遅くなってすみませんでした。
ここまで読んでくださってる方は少ないかなと思っていましたが、意外に結構いらっしゃると知りました。申し訳ないですm(__)m




