#44 第43話 止まない胸騒ぎ
また予定より遅れてしまいましたm(_ _)mずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!話は地上へと移ります。新章スタートです!
洸たちが地底へ出発して以降、水無月霞凜ことカリンは如月萌莉と卯月美伊とともに、GW期間を利用した「合宿」と称して、美伊の家に寝泊まりすることになっていた。
この合宿中に、バトルの特訓とカリンの母「タマヨリ」の捜索をする予定なのだが、三人が卯月邸の一室で今後の予定を相談していたとき──。
「うぅ……」
突然、カリンは胸騒ぎに苛まれた。梅佳がロキの術中にはまり窮地に立った虫の知らせだったのだが、三人ともに、梅佳のピンチを知ることはもちろん、想像することもできなかった。
胸に手を当て苦しそうにしているカリンに萌莉と美伊が声をかける。
「どうしたの? カリンちゃん、大丈夫?」
「カリンさん、顔が真っ青ですわ……」
「……胸が苦しい……にゃ……」
「どうしよう。病院にいこうか?」
「私もその方が良いと思いますわ」
「だ、大丈夫にゃ……」
しゃがみこんだカリンがふたりに答える。
「じゃぁ、少し休んで様子をみよう」
「では、お客様用のお部屋に移動しましょうか」
美伊が二階にある来客用の部屋にふたりを案内する。室内には、豪邸というにふさわしい高価なベッドに寝具だけでなく、希少価値の高い絵画や骨董品のオブジェもあった。内装は、白と淡い水色を基調にした落ち着いた部屋であった。
「さぁ、カリンさん、横になってください」
美伊に手を引かれ、カリンはベッドの上で横になる。
「どれどれ……」
萌莉も枕元に歩み寄り、右手をカリンの額にあて、それから、自分の額にあてた。
「熱はないみたいだけど、正確に測っておこっか」
萌莉は端末をカリンにかざす。
「ん……微熱もないね」
「気分が良くなるまで休みましょう、私、何か飲み物をもってまいりますわ」
美伊が部屋を出ると、萌莉は改めてカリンを見つめる。
苦しそうに胸に手を当てているカリンの頭をやさしくなでた。
「もしかして、寂しくなった? お留守番を言われてショックだったもんね」
「ん……違うと思うにゃ……たぶん、昔、ママが言ってた、悪い予感みたいなのかにゃ……」
「悪い予感……かぁ。カリンちゃんのいうママって、猫なんだよね!?」
「そ、そうにゃ……」
「ふむふむ……」
頭をなでる萌莉の手のぬくもりを感じたとき、カリンは胸の痛みが少し和らいだのと同時に懐かしさも覚えた。
萌莉も、カリンの口から発せられた「ママ」という言葉を耳にした瞬間、胸の鼓動が高鳴るのに気づいたが、美伊が飲み物を持って戻ってきたので、深く考えるのはやめた。
「カリンちゃん、我が家特製の元気が出るミックスジュースでございますわ」
「ミックスジュース……にゃ!?」
「美伊ちゃん……その色……果物以外も入ってる?」
カップに注がれた飲み物はミックスジュースというにはほど遠い、不気味な濃い紫色をしていて、少しツンと鼻をつく匂いも漂っていた。
「は、はい。いろいろと入っておりますわ」
カリンは上半身を起こして美伊から飲み物のカップを受け取る。
飲み物としては初めて見る色、初めて嗅ぐ匂いに少しとまどうカリンは、おそるおそるカップに口をあて、舐める程度に口に含んでみた。
「……お、おいしいにゃ!」
「よかったですわ! 元気も出ますよ」
「えぇっ!? ホント!? 見かけによらないものね……」
「萌莉さんもよろしければどうぞ」
人数分あったグラスのひとつを美伊が差し出す。カリンがおいしいと言ったとはいえ、いざグラスを手にすると、その色と匂いで飲むのを躊躇する萌莉。
──何かの罰ゲームみたい……。
「萌莉さん、どうぞ。ご遠慮なさらずに」
美伊の圧に屈した萌莉は、観念し、思い切ってごくっと一口飲んでみた。
「……うぅ……な、なにこれ……」
まるで『うげぇ』という文字を書いたように顔をしかめる萌莉が美伊にグラスを返しながら尋ねる。
「み、美伊ちゃん、これ、なにが入ってるの?」
「三十種の果物に、お茄子とパクチーとセロリと……」
「うぅ……も、もういいよ、分かった……」
「蓼食う虫も好き好きって言いますから~萌莉さんには合わなかったようですね、私の家族はみな大好きで毎朝飲んでおりますわ」
「う、うそでしょ……飲める人がいるなんて信じられない……」
「あ、あたしは飲めたから元気が出てきたかも……」
「顔色も少しよくなっておりますわ、カリンさん」
「カリンちゃんが元気になったのは良かったけどさ……」
その時、突然、卯月家の非常警報音が鳴り響く。
「えっ!?」
「なに!?」
「にゃ!!」
美伊の端末が光るや否や、空中モニターが出現する。
「美伊様、何者か不審者が侵入したようです。使用人ロボが一体、破壊されました。危険ですので、地下シェルターに早急にご避難なさってください」
「不審者?」
「はい、ただ……」
「ん!? どうしました?」
「不審者と言って良いのか、人ではなく骸骨のようでもあり、ロボットのようでもあり……」
「わかりました。みなさんも早く地下シェルターへ避難してください。使用人ロボもできる範囲で避難させてください。私たちも地下シェルターへ参ります」
「美伊ちゃん、なにごと?」
「不審者の侵入みたいです。ちょっと窓から確認してみましょう。もし前に襲ってきた敵なら、私たちを狙っているのかもしれませんわ」
萌莉と美伊が部屋の窓から眺めると、敷地の入り口にあたる正門が破壊され、骸骨と機械が融合したロボットのようなものが空中を浮遊しながら正面玄関あたりまでやってきているところであった。
「美伊ちゃん……前に闘った敵とは明らかに違うよね?」
「そうですね……お仲間さんなのでしょうか……」
「私たちを狙ってるとしたら居場所がバレてるってこと?」
「そうだとしましたら、私たちが地下シェルターに逃げたら家族も使用人も巻き沿いにしてしまいますわ」
ベッドから起き上がってきたカリンも二人の間から窓をのぞく。
「うにゃ……」
「カリンちゃんはここで寝てて」
「萌莉さんと私でいきますわ」
「あたしも行くニャ」
「カリンちゃん、さっきまで顔色悪かったのだから無理しないで」
「もう大丈夫ニャ」
「でも、カリンさんはまだバトルに慣れておりませんわ」
「そんなことないニャ」
──ここで揉めてる時間はないよね……。
「わかった。カリンちゃんは、私たちの後方から回復とかサポート役でお願いっ」
萌莉は美伊に目配せする。
「わ、わかったニャ」
美伊も萌莉の意図を察した。
──そうですよね。揉めてる時間はない。それに、私たちを狙っているならカリンさんも狙われているひとり。いっしょにいた方が守りやすいわ。
「では急ぎましょう」
三人は、寝室を出て、エレベーターは使用せず、階段を駆け下りていく。玄関に続くロビーにつくと、今度は慎重に警戒しながらゆっくりと歩き始めた。
「玄関てこっちだったよね?」
「はい、あってますわ」
三人が玄関付近にたどりついた折、すぐ外でドゴンッバキッっと何かを叩き割る音が響いた。玄関から出ると、先ほど窓から見えた敵らしき物体がすぐ目の前まで侵入してきていた。
「んにゃ……」
「うわ……なにあれ……」
「不気味ですわ……」
三人の前に現れた物体は、生命反応を検知したのか、向きを三人の方へと変えた。顔と胴体がガイコツであるものの、腕や腰は機械仕掛けのロボットであった。足らしきものはないが空中に浮いている。
「ギギギギッ」
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□語句解説
蓼食う虫も好き好き……人の好みはさまざまであること。語源は蓼という苦い植物を好んで食す虫がいることから人の好みは一概に言うことはできないということ。
※今回はスキルはありません。次話以降、地底におけるバトル以上の壮絶な闘いがっ……(;'∀')




