#43 第42話 爛腸之食・底が知れる
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!少し予定より遅くなってしまいましたm(_ _)mスミマセン
早速ですが本章最終話の第42話、はじめます(*´ω`*)
倒れているロキの傍らに、金色に輝く装飾のある純白のドレスをまとった女性が現れる。ピンクの長い髪が光の粒子と白煙に絡みつくようになびいている。
「ふう……回復スキルの効きはこちらも遅くなってるのよね。ロキ、残念だけど、あなたを助けるのは私があの子たちを倒した後になるわ。その間に死んだら終わりだからね」
ロキに声をかけながら洸たちの前に立ちはだかったのはヘスティアであった。地底人特有の青い肌に青い瞳。美しさと恐ろしさが同居するようないで立ちであった。
「新たな敵かっ!?」
アヤトが叫ぶ。
「……」
洸は周囲をチラッと見渡す。
──新たな敵……ひとりなのか?
「洸、こいつもスキル封じあるのかな?」
「どうだろう……僕も初対面だから……」
「心配しなくても、私にはスキル封じなんてできないわ。でも彼女よりは強いわよ」
──スキル封じがあるって警戒すると、この子たち、攻め急いで面倒だからね。
「「!!!」」
洸とアヤトが驚いて目を見開く。
──アイツ、なぜスキル封じがないと明かすんだ?
──僕たちを油断させる気か、それとも、本当に自信があるのか……。
ヘスティアは二人を前にまだ微動だにしない。
──私の調査では弥生梅佳並みの攻撃力をもった葉月洸之介と神無月アヤト。あと防御、回復なら弥生梅佳に匹敵する皐月久愛。私が人類如きに負けることはないにしても……私ひとりでは骨が折れそうだからね……万が一、弥生梅佳に回復されでもしたら厄介極まりないし。
「自己紹介でもしておこうかしら。私の名はヘスティア・イテスヘ。ギリシャ神話の炉の女神ヘスティアの末裔よ」
「炉の女神……ヘスティア?」
「洸、何か知ってるのか?」
「いや、ポセイドン戦後、神話関係も調べてたけど、名前くらいしか……」
「それは仕方ないわ。炉の女神って結局、家庭の守護神だからね。表舞台で活躍はしないから逸話も残らないわ。さぁ、これでも食らって焼きただれて死になさい!『ランチョウノショク』!」
スキルを唱えたヘスティアの右の掌上に桃色の火炎玉がボワっと現れる。
桃色の火炎玉は分裂していく。ヘスティアが右手を前方にかざすと、数個の火炎玉が次々に放たれた。
だが、ヘスティアの言葉とは裏腹に、火炎玉は洸とアヤトから逸れていく。
「くっ、久愛を狙ってるのかっ!?」
ヘスティアの桃色火炎玉は梅佳を回復している久愛の元へと向かったのだ。
そのとき、ヘスティアの立つ位置とは異なるところから、さらに何かが飛んできた。
「うわっ」
間一髪で避けた洸の前髪の一部がバサッと切られ、舞い散る。
「まずいっ。他にも敵がいるのかっ」
不意を突かれて洸が避けたのは見覚えのある金色に光るナイフであった。
「「久愛っ!!!」」
梅佳に回復スキルを放っている久愛に、桃色の火炎玉と金色のナイフが襲い掛かる。
だが久愛は左手を梅佳にかざしたまま、右手を前方へかざす。
「『寄らば大樹の陰』!」
久愛の右手から放たれた緑の玉が地面に触れてはじけると、大樹が地面を突き破り防御壁と化す。
火炎玉は大樹の壁にドゴンッとぶち当たると炎を上げる。大樹の表面は刹那、焼けただれるもすぐにかき消され修復されていった。
同時にサクッと刺さった金のナイフも樹木から漏れ出た緑の液体に包まれ溶けて消えていく。ナイフの刺さった跡も即座に修復された。
「どれくらい防げるか分からないけど、とりあえず大丈夫よ。こっちは任せて。後方からサポートもするわ」
──梅佳ちゃんを回復させるまで、やられてたまるもんですかっ!
満身創痍の梅佳を前にした久愛の気持ちは、かつてないほど強かった。
「久愛!」「さすがっ!」
洸とアヤトは安堵するも、すぐに敵の方を振り返り、臨戦態勢に入る。
すると、コツーン、コツーンと何者かが近づいてくる足音が二人の耳に入った。
「アヤト、別の敵がくるよっ」
「ああ、あの金のナイフ……」
新たな敵を警戒する洸たちの前で、ヘスティアも焦燥を隠せないでいた。
──なぜ彼がここに……!?
「コレハコレハ、ヘスティア嬢デハアリマセンカ。ドウシテココニ貴方ガイルノデショウ?」
新たに姿を現したのは、洸たちと一戦交えたことのあるミダス・ダミであった。ヘスティアと同じく青い肌をしている金色の短髪男。額にはかつてのように紋章をうかべていた。
しかし、この度はサラリーマンのようなスーツ姿ではなく、純白金縁の白い衣装にマントをまとっていた。光の粒子と白煙に包まれたミダスは、不敵な笑みを浮かべていた。
ミダスの形相とヘスティアの焦燥が地底人の間にある力の序列のようなものを洸たちに感じさせた。
ヘスティアがミダスに問いかける。
「こ、こちらのセリフよ。貴方こそどうしてここに?」
「ゼウス様ノ命デネ。ロキノ様子ガオカシイカラ、ロキヲ連レテ来ルヨウ仰セツカッタノデスヨ。アナタコソ、人間ガ侵入シテイルノニ報告モシナイデ何ヲシテイルノデショウ?」
「私だって、ロキが変だと思ってたわ。諜報活動の一環で偶然ここに居合わせただけよ」
「アラ、ソウデシタカ。ソレナラ、ソンナニ焦ルコトモナイデショウ、アハハハ。共闘シテ彼ラヲ早急ニ始末シテ、侵入ガアリマシタガ異常ナシト報告スルトシマショウカ」
「この状況なら当然でしょ!? でも彼らを甘く見ない方がよくてよ」
「アハハ、分カッテイマスヨ。私ハ彼ラト既ニ一度戦ッテイマス」
「そうなの? なら彼らの情報はいらないってことね」
「アハハ、何故ソンナニ、カリカリシテイルノカ、私ニハ皆目見当モツキマセンガッ」
「トイウワケデ」
ミダスは金髪の長髪を右手でかきあげながら、洸たちの方を向く。
「再戦トイキマショウカ? ゴ無沙汰シテイルウチニ少シハ強クナッタヨウデスネ。楽シミ楽シミ、デース」
「洸、どうする?」
「アヤト、ちょっと待って」
洸はヘスティアとミダスに向かって話し始めた。
「一応、確認させてもらいたい、極月翔也という仲間を返してくれたら、僕たちは地底から地上にすぐ戻るつもりなんだけど、ダメかな?」
「ン? 他ニモ仲間ガココニイルノデスカ?」
「「!?」」
意外な返答に目を丸くする洸たち。
──こいつ、事情を知らないのかっ!?
──嘘をついているようには見えないよね。
ヘスティアがミダスに早口で答える。
「ロキが捉えたのよ。彼らの仲間をひとり。ロキの目的は分からないけど、少なくともスキルを封じて捉えている人間がこの一帯のどこかに一人いるはずよ」
「ナゼ生ケ捕リシテイルノデスカ? 抹殺指令ガ出テイルノニ!?」
「私に聞かれても困るわ。ロキが勝手にやったことよ」
「ヘスティア嬢、貴方ノ諜報能力ノ底ガ知レテシマイマスヨ。トニカク、彼ラヲ始末シタラ、オ仲間モ即刻、抹殺デス。ソレガ、ゼウス様ノゴ意思デス」
「分かってるわよ」
アヤトが小声で洸に言う。
「……洸、さすがだな。翔也さんが生きていて、この辺りにいるのは間違いなさそうだ」
「うん。まぁ、ワンチャンあるかとも期待したけど、さすがに甘かったね」
「翔也さんを助けるためにはこいつらを倒すしかないってことだな」
「うん、遅かれ早かれだしね」
「サァ、オフタリサン、選バセテアゲマスヨ。二対二ノタッグマッチガヨイカ、ソレトモ、個別にタイマンガ良イカ」
「ちっ、余裕だな……洸、俺は前に金髪と結構やりあったから、金髪は俺でいいか?」
「ん……一対一の方が良いのかな……」
洸はミダスたちの提案に乗るべきか決めかねていた。
「キノコ君ハ私トタイマンデ再戦シタイノデスネ」
「きのこ君だとっ? ふざけんじゃねぇよ」
「君ガ先ニ金髪ト呼ンダクセニ、何テ自己中心的ナ人間ナノデショウ。嫌イナ性格デスネェ」
「そりゃ本望だ、お前に好かれても嬉しくないわ。タイマンしてやるからかかってこい」
アヤトはミダスに向かって声を荒げながら、戦闘態勢に入る。
「じゃあ、私のお相手は貴方ということね」
ヘスティアが洸に目をやると、洸もヘスティアの方へ向きを変え、身構えた。
「……」
──ふたり、仲良くなさそうだから二対二の方が良かったかもしれないけど……。
洸はとまどいつつも、ヘスティアに右手をかざしスキルを唱えた。
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□語句・スキル解説
爛腸之食
食べ過ぎることを意味する。腸をただれさせるほどたくさん食べることが語源。本作では攻撃を食らった箇所が焼きただれ、さらに連続で攻撃を食らってしまうという恐ろしい攻撃スキルのこと。
※次話以降について
今のところ、地上に話を戻す予定です(章立てで少し悩み中です……)洸たちのバトルの行く末が気になるところで申し訳ないです。同時進行している地上の話をどのタイミングでアップするか迷っていましたが、キリがいいのと、これ以上時間がズレると地上の話に戻した時に分かりにくいかなと考えました。




