#40 第39話 因果応報・飛耳長目
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!今回の話は少しグロいので鬼滅の刃や呪術廻戦レベルのグロさも苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
では、第39話はじめます!
──こやつ……いつスキルを唱えた? 会話の中か……小癪な……。
元全知全能のAIならではの能力で、瞬時に現状分析ができてしまう梅佳の表情が曇る。
──ここはいったん引くか……。
梅佳が出入口の扉に一瞬、視線をやった。
「言っておくけど、逃げるという選択肢は無いわよぉ~。この部屋、今はどこからも外へ出られないからね~キキキキキ。通信ももちろん、ム~リ、キキキキキ」
梅佳の脳裏に人生で二度目の敗北の文字がよぎる。一度目は前世の最期。洸たちに負けたときだ。
──どうシミュレーションしても勝算が見い出せぬ……わらわの二度目の人生がこんな情けない最期になるのか……。
「これが本当の最後通牒よぉ~私の仲間になりなさい。そうすれば私の右腕として手厚い待遇をするわ~キキキキキ」
「断るっ」
即答だった。一ミリの迷いもなく梅佳はロキの誘いを拒否する。
前世の梅佳なら現状を即座に分析し合理的な判断をしたにちがいない。だが前世の記憶が戻ってから、梅佳の心境に明らかな変化が起きていた。
──あやつらをだれ一人死なせない。極月翔也も必ず助ける。それでせめてもの罪滅ぼしになるならと思っていたのじゃが……。
梅佳はふぅーとため息をもらす。
──われながら情けない……勇希に偉そうなことを言ったことも謝らねばならぬのぉ……。
梅佳に「ロキなら楽勝だ」という油断が全く無かったといえば嘘になる。会話の中にスキル名をしのばせるなど、いつもの梅佳なら気づけたはずだった。
極月翔也の居場所を聞き出すまでは不用意に攻撃もできないという状況であったとはいえ、「らしくない」自身の油断や判断ミスを梅佳は呪った。それでも──。
──……まだじゃ……まだ諦めるわけにはいかぬ。
梅佳がキッとロキをにらむ。
──往生際の悪さ、いや、さいごのさいごまで諦めない強い心もあやつらに教わったのじゃ。このままあっさりやられたら恥の上塗りじゃ……それに……このままじゃと、あやつらが間違いなく苦戦する。
「あら~。残念ねぇ~。まだあきらめてない顔をしてる。現状が分かってないのかしら? ここからの逆転はないわよぉ。だって、私、もう油断しないからね~、あなたとは違って~キキキキキ」
梅佳は少しずつ後ずさりしていた。
──ヒットアンドアウェーで打撃戦……いや、無謀じゃのぉ……。
「『嘘つきは泥棒の始まり』~キキキキキ」
ロキの声に応じるように瞳が光る。
──あやつ……何かスキルを使いおったな!?
梅佳はロキの次の手に備え、身構えた。
「そういえば、この前、あなたに手を切られたわよねぇ~お返しに手をいただくわねぇ~キキキキキ」
──スパンッ。
梅佳の右手首から先が突然消え、血が噴き出す。
「うぐぁあああ……」
痛みをこらえながら、梅佳はロキをにらみ続ける。
ロキは切断し奪った梅佳の右手をもち、滴る血を舐めながら梅佳を眺めていた。
梅佳の右手首から鮮血が溢れるように流れている。
──こちらのスキルを封じ、その後で体の一部を奪うのか……。エグいスキルコンボよのぉ……ダメじゃ……スキルが使えないと血も止まらぬ……。
「因果応報ねぇ~。 早くしないとぉ~極月翔也を助けるどころか、ここで失血死しちゃうわよぉ? 猫なのに犬死しちゃうのよ? あなたほどの人がもったいない、実にもったいないわ~。死んじゃう前に気が変わったら言うのよ~」
──以前の青髪の子みたく『虚言癖』スキルは解除しないけどねぇ~このまま死なせるのは惜しいけどぉ~キキキキキ。
「……」
──アレを使うしかないか……わらわも無事ではすまぬが……あわよくばヤツも……。
そのときだ。部屋の入口の方から青紫色に輝く鳳凰が飛んで入ってくるのが目に入った。
──あ、あれは……。
十数分前、梅佳がロキと闘い始めた頃──。
洸はロキと梅佳のいる部屋の前に到着していた。
「あれ!? どこにいったんだ? 梅佳ちゃん?」
洸の目の前に部屋の入り口らしき扉があった。だが押しても引いても扉が開く気配はない。
──この扉以外、何もない。梅佳ちゃんはこの中に入ったのか?
「『ヒジチョウモク』『ホウオウガンショ』」
洸が唱えると右の掌に青紫の光が灯り、鳳凰を象っていく。青紫色を基調とした美しい姿ができあがると、鳳凰は洸の掌の上で光る粉をまき散らしながら、ゆっくりと羽ばたく。
「さぁ、中に入って調べてきて。頼んだよ」
キィーと鳴き声をあげ洸の手から飛び立った鳳凰は扉へと向かっていく。そしてスピードを落とすことなく扉を通り抜け、部屋の中へ入っていった。
洸のもつ端末に部屋の内部の様子が映し出される。だが映像がかろうじて確認できる程度で、本来ならあるはずの音声もない。
「う、梅佳ちゃんっ! 敵と闘ってるっ……え!? 梅佳ちゃんがヤられてるのか!? 映像が見にくいな……端末の調子が悪いのか? 無音だし……」
──あれは洸の鳳凰じゃの……。ロキの奴には見えておらぬようじゃな。攻撃する様子がないところをみると、諜報の類のスキルのようじゃの……。
梅佳はロキに向けてスキルを放つ身振りをする。
──なんとかしてロキのスキル封じを伝えねば……洸ならスキルが使えないことに気付いてくれるじゃろう。
梅佳は多量の出血も構わずに幾度も幾度もスキルを唱える。
優勢のはずのロキは、梅佳の挙動を怪しんで様子見せざるを得なくなっていた。
『飛耳長目』『鳳凰銜書』は洸の新しいスキル。鳳凰に諜報や索敵をさせるスキルだ。
梅佳は室内を転々と移動しながらスキルの発声を続ける。そして、ロキの視線が逸れた刹那のタイミングを見逃さず、鳳凰に向けて小さく左右にかぶりを振り、目でも合図を送る。
「……!? 逃げろってこと? 梅佳ちゃん、スキルが発動できていないよね?……怪我もしてる……かなりの出血だ……」
切断された梅佳の手首からは依然、鮮血が流れ続けていた。
「久愛たちを呼ぶか?……いや、敵の情報が少なすぎるし、そんな時間もない……」
洸は梅佳に加勢する術を探る。
「梅佳ちゃんが逃げろっていうくらい、ヤバい敵なんだよね? だったら、なおさら君をひとり置いて逃げるわけにはいかないよ……けど、どうしたらいい……?」
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□語句・スキル解説
『飛耳長目』
→ものごとの観察にすぐれ、見聞がひろく、ものごとに精通していること。「千里眼」と同義。この意から、鳳凰を召喚して、敵の視察、諜報活動をするスキル。
『鳳凰銜書』
→天子の命令が書かれた文書を天子の使いの鳳凰が持参することを意味するが、ここでは鳳凰が観察、諜報した記録をデータとして詠唱者に送るスキルのこと。
『虚言癖』と『噓つきは泥棒の始まり』は第5章第24話と第29話に掲載しています!
以上になります。




