#37 第36話 ナインス(Ninth)
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!新章スタート一挙二話更新の後半、第36話になりますm(_ _)mさっそく始めたいと思います!
五人は、姿が消えた直後目の前が真っ暗になったため焦りを覚えたが、間もなく足元にしっかりと立っている感覚が戻った。その他は何の違和感もない。本当に地底へワープしたのか疑うほどだ。ただ真っ暗な部屋に立っているだけのようであった。
「みんな、近くにいるの? 私、何にも見えないわ」
久愛は洸と手を握ったままなので、洸の存在だけは確かに感じていた。
「アヤト、勇希君、梅佳ちゃん、いる?」
洸の問いかけにすぐ応答がある。
「あぁ大丈夫だけど、俺も真っ暗でずっと何も見えないままだ。たぶん近くにいるはず」
「オレもいまーっす。オレもなんにも見えませーん」
「ゼロス! ここからどうするのじゃ? 説明不足じゃ。案内人とやらはおるのか?」
梅佳はひとり動じることなく、ただゼロスに対しては強気に、叱るような口調で声を上げた。
すると、五人の目の前がぱっと明るくなる。
五人がいる場所は、二〇五四年では珍しくもない空中にモニターがたくさん浮かぶコンピュータールーム。色彩が寒色系なので物寂しさを感じさせる部屋であった。
洸たちは地上でも見慣れている部屋の様子よりも、目に飛び込んできた皆の衣服の方に目を丸くした。
「こ、これがゼロスさんが言ってた専用スーツ!?」
「わ、わたし緑色だ! 梅佳ちゃん、赤色だね! かわいいっ」
「……わらわは制服のままが良かったが……瞬時に着替えられるとは驚きじゃ……」
「洸さんは青紫色、アヤトさんはグレーだっ、かっこよ~」
「勇希は黄色だな。ひとり派手だな」
アヤトが勇希の黄色いスーツを指さして弄った。
「オレ、派手なの好きなんで! つか、これ、超ハイネックっすね」
「確かに、口元まで隠れるな」
「スキーウエアみたいだ」
「けど、すっごく軽いし、動きやすいわ。通気性もいいみたい。これは良き良き!」
久愛は腕や足を動かして着心地を確認しながら、喜々として声を上げた。
五人が専用スーツについて談笑したのも束の間、目の前で突然まばゆい光が収束し始める。
「なっ」「なんだ?」「何?」
光が収束するや否や、一匹の真っ白な小動物が現れ、空中でゆらゆらと揺れながら浮いている。卵型の体に、まるで翼の役目をしているような大きい楕円形の両耳と、同じく尾翼の代わりのような長い尻尾が生えている。丸く黒い目に、マンガのキャラのようなかわいい口。だが、手足は小さく、体の前面にポツンポツンと四か所に付いているだけであった。
「えっ!?」「なんだ、この……」「白いの……」
「そなたら、遠路はるばるよくぞ参られた。わらわは……」
「おぉっ! しゃべった!」
「話し方が梅佳ちゃんだ……」
目の前の白い小動物に対して、思わず久愛がツッコミを入れる。
すると小動物はゆらゆら揺らしていた体をぴたりと止め、困ったような表情をした後、目を閉じてしばらく黙りこむ。そして目を見開いて言う。
「ニャら、話し方を変えるニャ、そニャたら、遠いところからご苦労であったニャ」
「こ、こんどはカリンちゃんだ……」
今度は洸がツッコミを入れる。
「ぬぅ……」
また動きを止め、目を閉じて考え込む白い小動物を、五人が凝視し続ける。
「し、失礼した。オイラは、オンズメンバーのひとり、NinthにはEが無いんすの、ナインスでごじゃる。黙ってオイラの説明をきくでごじゃる」
「「「「「……」」」」」
五人は、ナインスの、ツッコミどころ満載の自己紹介や話し方が気になって仕方がない。だが、言われた通り黙ってじーっとナインスを見つめている。
「遠路はるばるご苦労でごじゃった。これからオイラが目的地まで道案内するでごじゃる」
「……か、かわいいー! 見た目も『ごじゃる』も、かわいすぎるわ」
我慢できずにこぼした久愛の言葉に、ナインスはぶすっとして答えた。
「い、いちおう、オイラは男の子でごじゃるから、かわいいと言われてもうれしくないでごじゃる。かっこいいといってほしいでごじゃる」
「ナインス君、かっこいい!」
久愛が言い直すと、ナインスの言葉を待たずに梅佳が口を開いた。
「ナインスとやら、余談はもうよい。はやく極月翔也のところに案内せい」
「あ、そうでごじゃる。あまりダラダラできないでごじゃる。さっそく案内するでごじゃる」
ナインスはくるっと五人から向きを変えて、背中を見せる。尻尾がゆらゆらゆれているのをみて、久愛はまた「かわいい」と言いそうになるのをぐっとこらえた。
「ついてくるでごじゃる」
ゆっくりと前進し始めたナインスに、きょろきょろと四方八方を確認しながら五人は付いていく。
空中モニターのある一室は長い通路とつながっていた。体感で数分ほど歩いても通路の終わりは見えてこない。
「どこまで続くんだ?」アヤトが愚痴をこぼす。
「大丈夫でごじゃる。極月翔也がいる近くまで続いているでごじゃる」
「マジっすか!? もう翔也さんの居場所まで分かってるんすか?」
「もちろんでごじゃる。オイラの諜報力を見くびらないでほしいでごじゃる。もう通路の半分は越えたでごじゃる。もう少しの辛抱でごじゃる」
ナインスは耳をパタパタさせながら洸たちの側を振り返って声をあげた。
「翔也君って敵に捕まってるんだよね? 近くまでいくと敵にバレるんじゃないの?」
洸が尋ねると、ナインスは目をパチクリさせながら答えた。
「バレないギリギリのところまで設置したでごじゃるよ」
「ナインス君が?」
「そうでごじゃる。ゼロスから頼まれてオイラが設置したでごじゃるよ」
「それならすぐに翔也君を助けられて、すぐに地上に帰ることができ……」
久愛が言い切る前にアヤトがかぶせて言う。
「いや、その先が問題なんじゃね?」
「そうだね。バレないところまで続いているってことは、逆にこの道の終りからは敵にバレるってことだよね?」
洸も気になってナインスに尋ねる。
「大丈夫でごじゃる。バレないところまでしかこの道を設置していないだけで、その先については別の策を考えているでごじゃるよ。オイラを信じるでごじゃる」
またパタパタと耳を動かしながら前を向いたナインスの後ろ姿を見ながら少し安堵する四人。それに対して、梅佳だけは険しい表情で最後尾を歩いていた。
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