#36 第35話 地底への量子トンネル
更新が遅くなり申し訳ありません。ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!いよいよ洸たちが地底へ出発します!新章スタートの最新話が長くなったので2話に分けて一挙更新いたしますm(_ _)m 次話は1時間後の更新の予定ですm(_ _)m
では、第7章 第35話スタートです!
二〇五四年のゴールデンウィーク初日、日が暮れて間もない時分──。
地底に極月翔也を救出しにいくメンバー、葉月洸之介、皐月久愛、神無月アヤト、霜月勇希は椅子公園に集まり、もう一人のメンバー、弥生梅佳を待っていた。
椅子公園とは洸や久愛が中学生のころまでよく使っていた近所の公園だ。駅近くの公園より小さいが、宙に浮く椅子が設置された当時は話題を呼んで賑やかであった。今ではもう珍しさもなく日暮れ以降は通り抜ける人がぽつぽつと見受けられる程度になっている。
「いよいよ、出発か……」
「わたし、ちょっと緊張してる」
少々不安げな表情を浮かべる洸や久愛とは対照的に、アヤトと勇希の表情は明るい。
「不謹慎だが、俺は地底がどんな感じなのかすっげぇ興味があるんだよな」
「オレは翔也さんを無事助け出すまでノンストップでガンガンいきますよ」
洸はアヤトと勇希を頼もしく思いつつ、久愛の方を向いて尋ねた。
「久愛、カリンちゃんは?」
「カリンはね、今、クラスメイトの家に行ってるよ」
「そっか」
「私たちがいない間、クラスメイトとできるだけいっしょにいるように梅佳ちゃんに言われたとかで、しばらくお泊りするんだって」
「そうなんだ」
「……にしても……まさか、椅子公園から地底へ行けるとは思わなかったわ」
「だね。でもゼロスさんの言いようだと、準備さえすればどこからでも行けるってことだよね?」
「だな」
洸の言葉に相づちをうったアヤトが端末で時刻を確認しながら口をとがらせる。
「……にしても、アイツ遅いな」
「まだ約束の時間の前でしょ。アヤト君、勇希君、喧嘩は厳禁だからね」
久愛の厳しい口調にアヤトと勇希は苦笑を浮かべる。
「わかってるよ」「大丈夫っす」
まもなく常人離れした速度で走ってくる梅佳の姿を四人が目にした。
「きたきた! 梅佳ちゃんがきたわ」
「は、速っ……梅佳ちゃんて、僕より、足速いな……」
「オレもバスケの試合のとき、足の速さで負けたっす」
「ハァハァ……す、すまぬ。ハァハァ……ギリギリになった……ハァハァ」
「梅佳ちゃん、こんにちは。すっごい息切らしてる……かなり走ったの?」
久愛の問いかけに、梅佳は一瞬間を置いてから答えた。
「……あ、朝から一仕事あっての……」
「一仕事?」
「……あちらの公園で……カリンの護衛につけるふたりの最後の特訓をしておった。カリンも見送りにいきたいと言ったが、護衛と一緒におれとゆうた」
「そ、そうなんだ。カリンのためにいろいろとありがとね。梅佳ちゃん、今日からしばらくよろしくね」
「よろしく」「よろしくっす」
「こ、こちらこそじゃ……ではさっそくゼロスにつなぐが、よいか?」
「僕たちは大丈夫!」「うん」
「では……」
梅佳が「コネクション」と唱えてゼロスとの通信を試みる。以前と異なり、今回は一回でゼロスとの交信に成功した。空中に現れたモニターにゼロスの顔が映し出される。
「こんにちは。みんなそろってるね。さっそくだけれど簡単に説明するよ。今からそちらに量子トンネルの入り口を開くから、そこにみんな入ってね。地底にある一室につながってるからね」
「量子トンネル!?」と洸が尋ねる。
「うん、そうだよ」
「量子トンネルに人間が入れるの? たしか成功事例はまだないって聞いたことがあるよ」
「うん。量子トンネルは君たちの世界ではまだ実現していないよね。きちんと説明したいのは山々なんだけれど、くわしいことを説明している時間はないよ。とにかくアイツらにバレずに地底へワープできるトンネルだから安心して」
「わかった。そちらにゼロスさんがいるんだね?」
洸が再びゼロスに問う。
「いや、こちらに着いてからは僕らの仲間を一人、案内人としてつけるから、あとは彼の指示にしたがってね。皆の着るスーツも用意して待ってるから」
「着いてからスーツに着替えるの?」
今度は久愛が尋ねる。
「着替えなくていいよ。到着と同時に着替えもすんでるから」
「えっ!?」皆が驚く。
「まぁ、安心して。行けば分かる」
「「りょ、了解」」「OK」「了解っす」「了解」
「じゃぁ、始めるよ」
公園内の地上から三〇センチくらいの高さのところに、直径二メートルほどの真っ黒なサークルが生じる。その中央から白い光があふれだし、アンドロメダ星雲のごとく渦を巻き始めた。
ゼロスは量子トンネルの入り口に目をやった。
「さぁ、入って。全員が入ったら量子トンネルは閉じるからね」
「……なんだか、怖い……」久愛は得体の知れぬ不気味さを覚えた。
「だ、大丈夫じゃ。わらわから入るので後についてまいれ」
梅佳がまたぐようにして黒い円内に入ると、梅佳の体は次第に粒子となって舞うように分散し、入り口に吸い込まれて消えた。
「オ、オレ、いきます」
「俺もいくぜ」
勇希とアヤトも円内に入ると、めいめい梅佳と同じように姿を消していく。
三人の姿の消え方を目の当たりにして怖気づき躊躇う久愛に、洸が声をかける。
「久愛、大丈夫?」
「う、うん」
洸はさっと久愛の手をとり「いっしょにいこう」と言いながら恋人つなぎで手を握る。少し頬を赤らめた久愛も覚悟を決めたように一歩前に踏み出した。
洸と久愛が同時に円内に入ると、ふたりも粒子となって舞い、量子トンネルの入り口へ吸い込まれるように姿を消した。
五人を飲み込んだサークルが円の中心に向かって閉じていく。完全に閉じたのを確認したゼロスもモニターごと姿を消した。
最後までお読みくださりありがとうございます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。かなり励みになっています。今後ともよろしくお願い申し上げます。次話は1時間後くらいに予定しています。




