#35 第34話 足手まとい
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!
本章最終話になります。次話からいよいよ……(ネタバレ防止のため内緒ですm(_ _)m
では34話始めます!
両手の人差し指を左右のこめかみにあてたまま梅佳が沈黙を続ける。
周囲にいる洸たちは梅佳を息をのんで見守っている。
梅佳の瞳には洸たちが発動させたスキルやバトルの様子が映し出されていた。
──ほぉ……こやつら……か、かなりバトル能力がアップしておるの……。この急成長……さすが、わらわを倒しただけのことはある……。
赤く光っていた梅佳の瞳が元に戻る。
「カ、カリンと霜月勇希以外は合格じゃな……」
「なっ!? 何言ってんだ!? なんでお前が決めてんだ!?」
勇希は突然の梅佳の言葉に息巻いた。アヤトもそれに続く。
「そうだっ。そもそもお前が出しゃばる意味が分かんねぇわ」
「わ、わらわには正当な理由がある。現状でわらわより強いものはここにおらぬ。バトル能力だけじゃない。総合的にみての話じゃ。霜月勇希は皆の足を引っ張る可能性が高い」
「なんだと!? オレが足を引っ張るだって!? じゃぁ今ここでお前と勝負してやらぁ」
梅佳に向かっていこうとする勇気を洸が後ろから制止する。
「お、落ち着いて、勇希君。梅佳ちゃんはもうバトルを二度も経験してるし、アイツらに勝ってるんだ」
「そうよ。勇希君。アヤト君も聞いて。梅佳ちゃんは私たちより経験も知識も豊富だから私が呼んだのよ。冷静に話してよ」
洸と久愛になだめられ憤りを押し殺す勇希。力が抜けたのを確認した洸は勇希の肩から手を離した。
梅佳は洸たちの誰とも目を合わすことなく続ける。
「洸之介、アヤト、久愛の三人と……わらわを入れて四人でどうじゃ? ゼロス」
「「ちっ」」
勇希とアヤトの舌打ちが響く。
「ん……。梅佳が勇希君を外したのは……メンタル面を懸念してってことだよね?」
「さよう。極月翔也への思い入れが強すぎる。自分勝手に動く奴は足手まといになるからの」
「それだけが理由っていうなら、オレは洸さんたちの言うことは絶対聞くっす」
努めて冷静に述べる勇希に続けて、洸が梅佳に声をかける。
「梅佳ちゃん、僕が責任をもつよ。勇希君は翔也君を助けるために今日まで必死に訓練してきたんだ。それに彼は十分すぎるくらい強い」
考え込む梅佳を見てゼロスが諭すように話し始めた。
「梅佳、君の考えも分かる。こちらの世界でのバトルはできるかぎり回避するプランを考えているけれど、最悪の事態まで想定するなら、現状、勇希君を連れていくメリットがリスクを上回ると思うよ」
「……わかった。では勇希を入れて五人でよかろう」
「あ、あたしもいくにゃ」
カリンが割って入る。
「カリンはだめじゃ。カリンは萌莉と美伊といっしょに留守番じゃ」
「やにゃ、あたしだけおいてけぼりはイヤにゃ」
「カリン、地底ではバトルがあるかもしれないんだよ。下手したら死んじゃうかもなんだから、ね、ここは我慢してお留守番して」
久愛もカリンをなだめるがカリンは依然、納得しない。
「嫌にゃ……」
涙を目に浮かべながら訴えるカリンに対して、ゼロスが現実を突きつけた。
「カリンちゃん。今のままじゃ足手まといになる可能性が高いから、僕からもはっきり言うよ。カリンちゃんは地底へ行っちゃだめだ。地上に残ってタマヨリママを探すんだ」
「ママが地底にいるかもしれないにゃ」
「前も言うたじゃろ……地底にカリンの母親がおる証拠は……」
梅佳の言葉を遮るようにゼロスが答えた。
「タマヨリママは地底にはいないよ。地上にいる。地上のどこにいるのかは僕にも分からない。そのままの姿なのかどうかもね」
「地上にいるのにゃ!?」
「うん……申し訳ない。本来なら探すまでもなく分かってたはずなんだ。僕が転生させようとした何人かは、僕のコントロールから外れてしまったんだ」
「にゃ!?」
「あ……まずい……ここまでだ。接続を切らなきゃ。準備ができたら分かるようにしておくから。こちらにきてからも万全のサポートができるようにしておくから。またね」
ゼロスの姿が空中のモニターとともに消える。
「ママ……」
地底へ連れて行ってもらえず留守番になることを嫌がっていたカリンだが、タマヨリママが地上にいると聞かされ、ママのことで頭がいっぱいになっている。
「あぁ、もう終わりか……今、意味深なことを言ってたよな!? 転生させようとした何人かがどうたらと……」
「うん……僕もそこが気になった。他にも聞きたいことが山ほどあったのに……」
「オレも翔也さんの居場所が分かってるのかとか聞きたかったっす……」
「そうね……どうしていつも短いのかなぁ……」
「ゼ、ゼロスも、ち、地底人どもに捕まると、か、かなりまずいことになるのじゃろうな……」
ゼロスとの会話とは異なり、またどもりながら梅佳が話す。洸たちと話すと緊張と恐怖がないまぜになった重たいものを感じる梅佳の目はずっと泳いでいる。
「かなりまずいこと?」
「お、おそらく、殺されるのじゃろう」
「あたし……前にゼロスたんから聞いた気がするニャ……時を過去に巻き戻すと大罪?とか、死刑とか? はっきり思い出せないけど……」
「「「「!!!」」」」
「ゼロスさんは指名手配犯のように追われているってことか……」
「それニャ! 久愛姉にゃ、それニャ、指名手配犯ニャ……」
「そうなんだ……ゼロスさんは人類を助けるために自ら危険を犯してたってことか……」
「し、信用しすぎるのも、き、危険じゃ。なにせ……奴も人間ではなく……地底人なのじゃからな」
──わ、わらわが偉そうに言えた立場ではないがの……。あぁ、ダメじゃ。わらわがこんなにどもりながらしか話せんとは……情けない……。
今までの印象と明らかに異なる梅佳をいぶかしく思いながら洸が口を開いた。
「とにかく三日間で準備と訓練だ。翔也君を助けよう」
「そうよね、もうすぐ日も暮れるし、今日は解散にしましょ」
「OK。俺も準備するか」
「オレ……腹減ったっす……」
「今日はみんなで私の家で食べる? 勇希君も梅佳ちゃんもよかったらおいでよ」
「え!? マジでいいんすか!?」
「うんうん」
「わ、わらわは、しょ、所用があるでの、ここで失礼する」
「そっか~残念。梅佳ちゃん、また次の機会にぜひ」
「梅佳たん、あたし、残ってママを探すにゃ!」
「カリン、萌莉と美伊も手伝ってくれると思うぞ」
──萌莉と美伊のふたりをあと三日で仕上げてやらねばのぉ……。
「で、では、さらばじゃ。み、三日後、地底へ出発じゃ」
「梅佳ちゃん、ありがとね」
「ありがとう!」
久愛と洸がお礼を言いながら手を振る。カリンも手を振るが、梅佳は振り返らずに帰っていった。
洸たち五人は皐月宅へ向かう。そして夕食を食べながら今後について話し合った。
最後までお読みくださりありがとうございます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。かなり励みになっています。リアルの仕事が忙しくなりつつありますが、少なくとも週一更新は継続できるようがんばりますm(_ _)m 次話から、いよいよ地底編です! カリンのタマヨリ探しと並行して物語は走っていきます。今後ともよろしくお願い申し上げます。




