#33 第32話 新しいスキル
更新が予定よりかなり遅くなってしまい誠に申し訳ありません。ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!
さっそく第32話、はじめたいと思いますm(_ _)m
まもなくゴールデンウィークを迎える四月の下旬。国民の祝祭日が増えたこの時代のゴールデンウィークは四月第四週と五月第一週の二週間も続く。
洸は公園で一人特訓していた。いつものメンバーに勇希を加えた五人で集まる約束をしていたが、その時間より一時間ほど早く公園に訪れていた。
ゼロスの言葉──特性を活かしたらもっと強くなれる──にしたがって試行錯誤を積み重ねた洸のバトル能力は急成長していた。
「『ジンチュウノリュウ』」
洸が唱えながら右拳を前方へ振り抜く。右拳に灯った青紫色の火炎が描いた軌道は次第に伸張し、龍へと変貌していった。
「よし、大きさもイメージ通り出現したぞ」
青紫の龍は洸の身体の周囲を巻きつくように浮遊している。
「『キエンバンジョウ』」
洸が唱えると龍が前方へと一直線に飛んでいく。青紫龍が100メートルほど離れた立木にぶち当たると、立木は青紫の火炎に包まれ、一瞬のうちに燃え尽きてなくなった。
「よしっ! 次は……『リョウホウレンピ』」
続けて洸は広げた両手の掌を胸の前で上に向ける。それぞれの掌には青紫色の光の玉が生じ、徐々に膨張していく。バレーボール大のまで膨らんだ玉がはじけるように割れると、中から青紫の不死鳥が二羽出現した。
「「キィー、キィー」」
二羽の不死鳥の一方は甲高い鳴き声をあげながら羽ばたき宙に浮いた。他方は洸の左肩の上に悠然と留まっている。
「『イキショウテン』」
洸が右手を前方へ突き出すと二羽の不死鳥は横並びで飛翔していく。羽ばたくたびに青紫の光の粉が舞う。ターゲットは先ほど焼失した木の隣に立つ木だ。
──いいぞ。方角のコントロールもうまくいってる!
美麗に輝きながら飛翔する二羽の不死鳥を後方から眺め、洸は悦に入る。
そのとき、スキルを唱える声とともに人影が不死鳥の進路を横切った。
「『デンコウセッカ』『イットウリョウダン』!」
スパンッスパンッという鋭い音が響き、不死鳥は二羽とも真っ二つに切断されてしまった。
「なっ!!!」
洸は突然のことに二の句が継げない。
──て、敵か!?
バチバチバチッ、ジュジュジュジュ……。
帯電した刀で切られた不死鳥たちが火花を散らしながら焼け消えていく。
「洸、ぬけがけはゆるさんっ」
洸が目をやった先には、銀と黒の二本の刀を左右の手に持ったアヤトがいた。バチバチバチっと帯電した日本刀が鮮やかな光を放っている。
「アヤトか!」
「洸、早く来るなら教えろよ!」
「そういうアヤトだって早く来てるじゃないか……てか、アヤト、またスピード上げたね。太刀筋だけじゃなくて、アヤトの姿も見えなかったよ……」
「洸こそ、不死鳥は昔よりパワーアップしてるし、龍もコントロールできるようになってんのな……」
ふたりが笑みを交わしたとき──。
パチ、パチ、パチ、パチ。
アヤトの真逆の方からゆっくり拍手をする音が耳に入った。
「ブラボー! さすがっす。先輩たち、かっけーっす」
霜月勇希だった。
「オレもいいっすか? 『レツジツカッカク』」
勇希は左右の掌を胸の前で組んだ後、手を離し少しずつ広げていく。両の掌の間に黄色く光るテニスボール大の玉が現れる。勇希が掌の間隔をさらに広げていくと、黄色く光る玉がバスケットボール大にまで膨張する。そして、さらに激しい光を放った。
「ちょ、ちょっと待って、勇希くんっ」
「ちっ、見たことないスキルだ。アイツも新スキルを試す気だな……」
太陽を模した「日玉」が完成すると、勇希は慌てる洸とアヤトに向けて右拳で殴りつける。
「面白い組み合わせスキルが完成したっすよ!」
勢いよく飛んでいった日玉は、洸とアヤトの頭上付近でピタッと止まり、自転し始めた。
「ちっ、まぶしすぎて目が……」
「人工太陽みたいだ……」
勇希は手を止めない。
「『ニッショク』兼『ゲッショク』」
先ほどと同じ所作で、今度は月を模した「月玉」を目の前に出現させる。そして、今度は月玉にめがけて右脚で前蹴りを繰り出した。
蹴りだされた月玉が日玉にバゴンッとぶち当たると、二つの玉はビリヤードの玉のごとく弾かれ、放物線を描きながら洸たちの頭くらいの高さでピタリと止まった。
日玉は浮いたまま一か所に留まった。月玉だけが洸たちの周囲をゆっくりと回り始める。
「な、なに!? 太陽と月ってこと?」
「日食、月食って言ってたよな?」
洸とアヤトのいずれかが日玉と月玉の結ぶ直線状に入った瞬間、いずれかの玉から巨大な黒い拳が現れ、洸たちに襲い掛かる。
「うわっ」
「ぐぉっ」
「なるほど、俺らが地球ってことか」
「うん、日食、月食の状態になったら攻撃がくるね」
「この程度なら食らわずにすむよな」
「うん、でも食らったらどうなるんだろ!?」
ふたりを眺めていた勇希は「『ニッシンゲッポ』!」と叫びながら両の掌を前方へかざす。すると左右の掌から日玉と月玉へ目掛けて黄色い光が放たれた。
「月の速度、上がった!?」
「やべぇ、目で追えなくなってきた」
「太陽も大きくなってない?」
「たぶん、なってるな」
月玉の回転は徐々に速度を増していくだけでなく、不規則に逆回転までし始める。さらには、襲ってくる黒い拳の数まで増え始める。洸とアヤトは先ほどまでとは打って変わって避けるので手いっぱいになった。
「攻撃されるタイミングが読めなくなってきた……」
「やべぇ。拳の数も増えてる。だめだッ……ジリ貧だッ」
「先輩! 攻撃くらうと、当たった個所が異次元へぶっ飛ばされますよ!」
無邪気な笑みを浮かべながら勇希が言い放った。
「ちょ、マジか」
「ったく、アイツ、加減を知らないな」
「やむを得ないね、『人中乃龍』『イッセキニチョウ』!」
洸が攻撃を避けながら唱えると青紫の二匹の龍が姿を現す。その双龍は各々、洸とアヤトを守るように体の周りを浮遊し始めた。
「おぉ。洸、この龍、防御にも使えるんだな」
「うん、でも、このままじゃ時間稼ぎにしかならないね」
避けきれなかった黒い拳が青紫龍にぶち当たると、その個所がパスンパスンッと消えていく。
「空間を削り取ってるみたいだな」
「大技で切り抜けるしかないか……でも、勇希くんに怪我させちゃうかも」
「自業自得だろ。アイツが悪い。洸がやらないなら俺がやる」
「わ、わかった。僕がいく!」
そのとき、久愛の声がフィールド内に響く。
「えええええっ!? 三人とも何やってるのぉ!!!」
バトル中の三人をみて、口をとがらせながら久愛がスキルを唱える。
「『ヨラバタイジュノカゲ』!」
久愛の左の掌上に光る水晶玉が現れ、緑の光が灯る。そして、前方へかざされた右の掌から、三角形を描く緑の光が無数に放たれた。
緑の光は洸とアヤトの立つ地に魔法陣を描いていく。魔法陣が完成すると、その中央から一本の大木が大地を突き破って出現した。
「うぉっ」
「久愛の、新しい防御スキルだ」
洸とアヤトは、空洞になっている幹の中にすっぽりと入る格好となる。大木は優に五メートルを越す高さまで生長していた。
そして、日玉と月玉から繰り出される黒い拳たちは大木の厚い皮の前にバチンバチンと乾いた音を鳴らすことしかできなくなった。
「おぉおおおおおッ! 久愛さんのスキルの防御力、すげぇえええ!」
勇希は感動のあまり大声で叫んだ。
最後までお読みくださりありがとうございます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。かなり励みになっています。今後ともよろしくお願い申し上げます。
以下、語句&スキルの解説になります。
□人中乃龍
たくさんの人のうち、飛びぬけてすぐれた才能のある人のことを龍にたとえていったことば。
ここでは、幻獣特性のある洸が攻防に使える龍を出現させるスキルのこと。
□気炎万丈
意気込みが極めて盛んなこと。意気衝天とほぼ同義。
ここでは攻撃力アップのスキル。人中之龍スキルが火炎を伴うので意気衝天ではなく気炎万丈を組み合わせた。
□両鳳連飛
二羽の鳳凰が連なって飛ぶさまから、転じて兄弟などがそろって出世することをいう。
ここでは従来から使っていた不死鳥を二羽、召喚させるスキルのこと。
□意気衝天
意気込みが極めて強いこと、勢いが盛んなこと。気炎万丈とほぼ同義。
ここでは攻撃力をアップさせるスキル。人中之龍スキルと異なり火炎を伴わない両鳳連飛には意気衝天の方を組み合わせている。
□一刀両断
一太刀で真っ二つに切断すること。
ここでは日本刀を出現させ、何でも真っ二つにすることができるスキル。
□電光石火
本来、電光は稲光のこと、石火は火打石で生じる火花のことで、それらが一瞬で消えることから、きわめて短い時間を意味するが、転じて、動きが極めて素早い様子を意味するようになった。
ここでは、スピードアップするスキルのこと。
□烈日赫々
烈日は太陽の激しい光、赫々は光り輝くこと。太陽の光が激しく照りつける様子を意味する。
ここでは、太陽を模した「日玉」を出現させるスキル。単発でも攻撃可能であるし、その他にも用途のある幅広く使えるスキルだが、勇希は組み合わせることで大技を編み出した。
□日食
日食とは、太陽、月、地球が、この順で一直線上に並んだ時に、太陽が月によって隠れ、暗く見える現象のこと。全部隠れる場合、皆既日食と呼ばれる。
ここでは、日玉と月玉の延長線上に入った相手を攻撃するスキル。この特訓では、日食の現象にちなんで、日玉から黒い拳が出現するスキルとして使われている。
□月食
月食とは、太陽、地球、月が、この順で一直線上に並んだ時に、月が地球の陰に入り、暗く見える現象のこと。全部隠れる場合を皆既月食と呼ぶ。
ここでは、日玉と月玉の間に入った相手を攻撃するスキル。この特訓では、月食の現象にちなんで月玉から黒い拳が出現するスキルとして使われている。
※勇希は烈日赫々+日食+月食のコンボを編み出しているが、皆既日食、皆既月食としなかったことは勇希なりの配慮、手加減である。詳細はネタバレ防止のため伏せます。
□日進月歩
日々絶え間なく、進歩すること。
ここでは月玉を速度アップさせたり逆回転させたり、日玉を巨大化させたりするスキルとして使われている。日、月の文字を使ったスキルを強化するスキル。
□寄らば大樹の陰
頼るなら大きなものに頼る方が安心でお得だという意味。
ここでは大木の中に入った仲間を鉄壁に防御するスキル。
以上ですm(_ _)m
p.s.語句スキル解説がおそらく過去最長となりました(;^_^Aここまで読んでくださった方にはこの上ない感謝の気持ちでいっぱいですm(_ _)mありがとうございました。




