#28 第27話 睦月葵大(むつきあおと)
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ロキと梅佳が一戦交える前の、ポセイドン戦直後──。
洸たち四人は皐月久愛の家に戻った。
「翔也くん、どうなっちゃうの……」
椅子に腰を掛けた久愛が嘆く。
「久愛、ひとまずさ、カリンちゃんからさっきの男の話をきこう。僕たちがあれこれ思案しても埒が明かないし」
向かいに座っている洸の言葉に久愛は頷いた。洸、久愛、アヤトの三人は一斉にカリンに目を向ける。
「カリン、さっきの話いい? 未来を変えて、人類を救うってどういうこと?」
「うん、あたしはコタマという名前の猫だったにゃ。久愛姉にゃがあたしのママを飼っていて、その娘猫があたしにゃ」
「ちょ、ちょっと待って、この前のカリンの話、本当の話だったってこと?」
「そうにゃ……で、ゼロスたんから聞いた話では、人類が一度滅亡したって」
「「「!!!」」」
「時を巻き戻すから未来を変えて人類を救うんだって言われたにゃ」
「「「!!!」」」
「俺らのいる世界が過去に巻き戻されたってことは、タイムリープ? いや、パラレルワールドへの転移ってことか?」
アヤトが声を漏らすと洸も答える。
「見方を変えれば、僕たちは全員一度死んで、転生したってことになるね。カリンちゃんは猫からヒトへ転生したことになる」
「猫からヒトへ転生……ねぇ、カリン、ママの名前は何?」
久愛が尋ねるとカリンは即答する。
「タマヨリママにゃ」
「「「タマヨリ……」」」
「聞き覚えがあるような……ないような……」
久愛が怪訝な表情で漏らす。
「僕たちが感じた違和感の正体がかなり明らかになってきたけど」
「あぁ、タマヨリが何者かだけはまだダメだな、俺も思い出せない」
「カリンが私の飼い猫のコタマだったこと、あなたのママは私の飼ってた猫のタマヨリだってことは分かった。ごめんね、もっと真剣に聞くべきだったね」
「あたしもうまく説明できなかったから仕方ないにゃ……」
「カリン、とにかくママをいっしょに探そう。ね」
「うんにゃ」
久愛の言葉を耳にしたカリンの瞳から、ぶわっと涙があふれる。
「ごめんね、カリン」
カリンをぎゅっとハグしたあと、よしよしと頭をなでる。
「ざびじがっだ……だれもじんじでぐれながっだがら……」
洸とアヤトもしばらくふたりを黙って見つめていた。
小一時間も経ったころ、アヤトが切り出した。
「あと、バトルシステム? スキルについては再分析、再特訓が必要だよな」
「そうだね、だいぶ慣れてきたと思ってたのに、謎が深まったね。僕の特性って何だろう」
「私たち、できるだけ早く強くなって翔也君を助けないとだね」
「でも、翔也さん、もう殺されてるかもしれないし、助けに行くってどこに行ったらいいのかさえ分かんないよな」
「あいつら、いったい何者なんだろう?」
「地底人って言ってたにゃ」
「「「地底人!?」」」
「マジか、地底人て実在するのか!?」
「都市伝説かと思ってた。僕はああいうの信じてなかったからな」
「俺もだよ。それに、助けに行くって、地底? どうやって行くんだ?」
「あたし、何か穴みたいなのに落ちたことはあるにゃ……」
「「「穴!?」」」
「私たちは翔也君が生きてると信じるしかないわ。地底への行き方も探す! そして絶対助けましょ」
「あとママも絶対見つけるにゃ」
「うんうん」
「翔也さん救出作戦とタマヨリ捜索作戦の同時並行だな……」
「前途多難だけど、信じてやるしかないよね」
「私、絶対どちらも成功させてみせるわ」
「うん、僕もだ」
「もちろん俺も」
三人の力強い言葉を耳にして、カリンは再び目に涙をためているが、必死でこらえた。
「あたしもにゃ」
翌朝──。
短髪の青い髪をした少年が空飛ぶボードに乗って登校している。ボードで登校する者は校内に入る前にボードから降りて、決められた場所に電源を切ってボードを格納しなければならないのだが、暗唱キーが適合せず、ボードを持ったまま険しい表情で宙に表示されたモニターを操作していた。
「どうして? 昨日はこんなことはなかったのに。不具合かな?」
頭をポリポリ掻きながら、あれこれ試している。
「あああああ。ボードの電源をオフにしてなかったぁあ」
そう、この少年、すこぶるおっちょこちょいで、どんくさい少年なのだ。
クラスはカリンや梅佳と同じ。ただ少年はできるかぎりクラスメイトとの接触を断っていた。なぜなら──。
──AIがヒトに転生ってフィクションくらいでしかありえないもんね。バレたら好奇の目にさらされるだけだ。いじめられるかもしれないし。あぁ、どうしてこんなことに。あぁ、やだやだ……。転生するならせめて性別は男にしておいてほしかったなぁ。女の子の世界の方がいじめられないようにするための努力が大変だからなぁ。男装、バレなきゃいいんだけど。
そう「少年」というのは間違いで、実は男装した「少女」なのだ。AIにどんくさいとかおっちょこちょいとかいうのもおかしな話だが、この時代における自我の芽生えたAIならありえる。言い換えるならバグの多いAI。そして自身がAIであった記憶も残っている。
勉強もスポーツもわざと手を抜いていた。入学後のテストでもバスケットボール大会でも、敢えて目立たない程度に取り組んだ。とはいっても、おっちょこちょいなので、本気を出したところで優秀な成績を収められたのか極めて疑わしいのだが。
校舎に向かう途中、如月萌莉と卯月美伊から挨拶される。ふたりは極月翔也の推理に基づき、月の異名をもつ人とは積極的に友達になることにしたのだが、男子なので少しずつ距離を縮めていく作戦に出ていたのだ。
「葵大くん、おっは~!」
「睦月さん、おはようございます!」
「あぁ。お、おはよ」
どもりながら挨拶する少年、いや、少女の名は睦月葵大。挨拶を交わし、教室に入ってそれぞれ席につくのだが、葵大の心臓の鼓動はバクバクとして収まる気配がなかった。
──だれとも関わらないって決めたのに、どうしてあの子のことが気になるんだろ……。
葵大はシルバーの綺麗な髪を斜め後方の座席からチラ見してはうつむく。
──よく考えたらおかしい。僕は性別が女で、萌莉さんも女の子。ということは……これは恋愛感情ではないはずだ。これはなんという感情なのだろう?……って考えるだけ無駄だよね。関わらなければよい話だ。
葵大はこの日も最後の授業が終わるとそそくさと下校する。ボードなら家まで五分程度だ。
「今日も恙無く学校が終わった。よかったよかった」
校門を出てボードに乗り、飛び始めた矢先、何かにぶつかった。
「うがぁっ」
葵大はボードから落ちる。そう高くないところからの落下だったのでケガはしていないものの、初めての出来事で、だれかにぶつかったと思いあわてて周りを見渡す。だが誰も見あたらない。
「な、なんだ……」
「い、痛いわねぇ~。あなた……」
葵大の目の前に姿を現したのはロキだった。
最後までお読みくださりありがとうございます。新キャラ登場、いかがでしたでしょうか?ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。かなり励みになっていますので、ぜひ何かしら残していただけますと幸いです。今後ともよろしくお願い申し上げます。
次話は10日木曜日あたりの更新を予定しています!ロキと葵大の壮絶なバトル、ご期待ください!




