#24 第23話 井の中の蛙、大海を知らず
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さっそく第23話始めたいと思います!
──コタマちゃん、いや、水無月霞凜ちゃん。
「え!? だれにゃ!?」
──ゼロスだよ。なかなかコンタクトが取れず申し訳ない。
「ゼロスたん!?」
突然、思念で送られてきた言葉に驚き、カリンが声をあげた。
洸たち三人もカリンの声とともに、同じ思念の声を認識した。
──時間があまりないから、簡潔に伝えるよ。
──うんにゃ。
──みんな、昔のバトルにひきずられすぎてる。まだ、このバトルの本質にたどりつけていないんだ。自分にまつわる文字の幅はもっと広いし、自己の特性を見つけられたらもっと強くなる。
「「「「!!!」」」」
──ど、どうしたらいいにゃ。あ、あたし全然ダメにゃ……。
──特にカリンちゃんは、攻撃時のイメージが足りていない。どんなスキルなのか、結果まで具体的にイメージするんだ。
──結果を具体的に?
──そう。これからひとつ、試してみるんだ。
──なにをにゃ?
──現状なら『イノナカノカワズタイカイヲシラズ』が最適だろうね。
──いのなかのかわず?
──祈るように唱えて。そして、攻撃を放つときのイメージだけじゃなくて、相手がバトルフィールド内で最も弱くなることをイメージするんだ! 井戸の中にいる蛙が、もっと広い海があることを知らずに、自分が世界で一番強いと勘違いするイメージ。
──うんにゃ……で、でも、今、何もできないにゃ……。
──そのスキルなら大丈夫。今の『待てば海路の日和あり』の効果すら弱くなるから。
──わ、わかったにゃ。ゼロスたんも一緒に闘ってにゃ……。
──それはできないんだ。みんなとコンタクトを取れる時間さえ限られてる。ごめんね。カリンちゃん。ママを探して、未来を変えて、人類を救うんだ。仲間たちと一緒なら不可能じゃない!
プツンと思念が途切れた。
「な、何だ、今の……」
「ゼロスって言ってたよね?」
「カリン、あれは誰? 知り合いなの?」
アヤト、洸、久愛の三人はカリンを見た。
「うんにゃ……地球を過去に戻してくれたゼロスたんにゃ……」
「「「!?」」」
三人はカリンの言葉に驚く。
「くわしくききたいとこだが」
「カリンちゃん! それより」
「そう、カリン、今教えてもらったスキル、いける?」
「うんにゃ! あたしが翔也たんを助けるにゃ!」
カリンがポセイドンに体を向ける。両手を胸の前で組んで祈る。
そしてゼロスの助言通りにイメージしながら静かに唱えた。
「『井の中の蛙、大海を知らず』!」
カリンの組んだ両手に水色の光が灯り、徐々に風船のように膨らんでいく。
バレーボール大のシャボン玉ができあがると、カリンはその玉を右手の指で弾くように前方へ飛ばした。
「弱くなるのニャー!」
カリンの叫びに呼応して「光るシャボン玉」がポセイドンに向かって飛んでいく。
「な、なんだと!」
ポセイドンは、無警戒だった洸たちの方から飛んできた「光るシャボン玉」に一瞬驚くも、あまりにゆっくりと向かってくるため、恐れるに足らずと払いのけようとした。ところがシャボン玉はブレることなく自身に向かってくるため右手で叩き落そうとする。
ポセイドンの右拳が触れると「光るシャボン玉」は弾け散り、美麗な光のシャワーとなって降り注いだ。
「……ん?……」
ポセイドンは光を浴びた自身の両腕や胴体に視線を移していく。
「なにかと思えば……痛くも痒くもないではないか、邪魔をするな、もうこちらは終わる。おとなしく待っておれ」
「そ、そんな……」
「し、失敗?」
「効いてない?」
「う、うそニャ……」
最後の頼みの綱が功を奏さず、四人は肩を落とす。
ポセイドンは、フラフラしながらなんとか立ち上がった瀕死の翔也に対して、最期の一撃といわんばかりに巨大な右腕を大きく振りかぶる。
──ここまでか……。
翔也はポセイドンの右腕が目に入っているが、もう避けることも防御することもできなくなっていると悟り、覚悟を決めた。
──せめて、アイツらだけでも……。
最期の力を振り絞って唱えながらポセイドンを迎え撃つ。
「『ヨエン』『ノコリビ』……」
踏ん張る力さえ残っていない翔也は、突き出した右手と一緒にポセイドンの方へと倒れ込んでいった。
「さらばだ。戦友よ。貴殿のことは生涯忘れまい」
容赦ないポセイドンの右拳が翔也をとらえる。
パスッ──。
幼児がミットを打ったときのような音が鳴る。
「な、なんだと……」
「へへ……もう……痛みすら……感じねぇ……」
翔也は苦笑するが、渾身の右拳で胸をぶち抜こうとしたポセイドンは、胸を貫くどころか何のダメージも与えられないことに驚愕する。
──防御スキルか!?
自身の傍らに倒れ込んだ翔也に、試すように右拳を打ち下ろすも同じくダメージを与えられない。足で背中を踏みつけても、頭部へ蹴りを放っても結果は同じく、間の抜けた音を発するのみ──。
「なんだ、これは……」
唖然とするポセイドン。
「スキルが効いてる!?」
「確かに!!!」
「カリン! やったわ!」
「うまくいったのにゃ!?」
「こ、これは先ほどのスキルの効果なのか……」
ポセイドンは洸たちの方を向き、カリンがスキル詠唱者だと察すると、そちらへ向かおうと右足を一歩踏み出した。
その瞬間、倒れている翔也がポセイドンの右足首をガシッと掴む。本来ならすぐ振りほどけるはずの、力のない翔也の握力からも抜け出せないポセイドンは、自身の力が限りなく弱まっていることを自覚した。
「なんというスキルだ……海水も引いておる……我が力のすべてが弱くなっておるのか……」
「ハハ……形勢……逆転……ってか!? でも……もう俺も……力が入んねぇよ……何もできねぇ……」
ポセイドンの『待てば海路の日和あり』スキルの効果も弱まっていると認知した洸たち四人が翔也のもとへ駆け寄ろうとした時、さきほど翔也が放った『余焔』『残り火』スキルの効果が発動する。時間差で消え残った火が翔也の掴んだ箇所から立ち昇ったのだ。
「ぐぁああああああああああああああああああ」
本来火炎に強いポセイドンが、生まれて初めて感じる火炎の熱。足から次第に全身へと延焼していく。火炎耐性が弱まっているため、ポセイドンの体中に激痛が走った。
「ぐぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ポセイドンは両膝をつき、断末魔の叫びをあげた。火炎がポセイドンの全身を焼いていく。
──わ、我の敗北か……。よもや人間に負けるとは……。
激痛を通り越えて痛覚が麻痺してきたポセイドンは洸たち四人に目をやる。
──……仲間を思う「心」……か……。
そしておもむろに足元で倒れている翔也の方へ目を移す。
──彼らなら……別の形で成し遂げられるのだろうか……。
「極月……翔也……」
ポセイドンの声に翔也の指がピクッと反応する。
「貴殿の……勝利だ……改めて……言おう……」
翔也は全身が焼きただれたポセイドンの方に何とか顔だけを向ける。
「貴殿の名は……胸に刻んだ……我が生涯で……最高最強の……戦友よ……」
「……お前も……な……」
ポセイドンと翔也は、ともに笑みを交わすとそのまま意識を失った。
海水が完全に引いたフィールド内には、闘いの終焉を告げるかのように絢爛な虹がかかっていた。
最後までお読みくださりありがとうございます。ポセイドン戦が終わりました!
初めて大活躍したカリン、最後の最後まで諦めない翔也、いかがでしたでしょうか!?僕個人的に今までの中で、話の展開、スキル効果、イラスト挿絵などすべて総合的にみて、一番気に入っている回になりました。(初めて心から自画自賛できました(;'∀'))
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次話から新章が始まります!今後ともよろしくお願い申し上げます。
以下、語句・スキル解説になります。
◇『井の中の蛙、大海を知らず』
井戸の中の蛙が大海など外の世界を知らずに独りよがりになることから、転じて狭い世界の中に閉じこもり、広い視野や考え方がもてないことを意味する。
ここから、スキルを食らった敵がバトルフィールド内で弱者になるスキル。相手が強いほど効果が高くなるが、属性相性など一定の条件を満たすことが必要となる。
◇『余焔』『残り火』
いずれも消えずに残る火を意味する。常用漢字だと「余炎」が正しい。
ここでは時間差で火炎攻撃をするスキルだが、ふたつ合わせることで消え残りを察知されにくくした上で、さらに火力をアップさせている。翔也は洸たちを助けるためにイチかバチか最期の悪あがきをしたのだが、カリンのスキルと相俟ってポセイドンにとどめを刺す攻撃となった。
以上となります!




